第六話 妖魔
開かなかった玄関を斬って突撃し、私を襲っていたカマキリをバラバラして私を救ったのは、刀を手にして、眼を紅く光らせた龍太郎だった。
「龍…太郎……?」
「あぁ…俺だ」
その声とその顔、眼が紅く光っていることを除けば間違いなく龍太郎だった。
なにが……どうなって………?
混乱している私を他所に、龍太郎は残り4匹のカマキリへと眼を向けると、再び刀を抜いて鞘を腰に固定してカマキリの方へと走り出した。
カマキリも反応して龍太郎に鎌を振り下ろすが、龍太郎はアッサリと避けると同時にカマキリの鎌を両断し、頭を切り飛ばし、胸を横薙ぎで両断し、腹を回転斬りで輪切りにしていく。
残りのカマキリ達も襲い掛かるが、龍太郎は鎌の間をすり抜けるように躱し、カマキリ達を両断していった。
そしてアッという間にカマキリを駆除して、刀に着いたカマキリの体液を振り払って鞘に戻すと、龍太郎の紅く光っていた眼が元に戻った。
その様子を見届けた手のひらサイズ女の子が、ため息をついて脱力すると光の膜が消えてた。
「あぁ〜、キツかった〜」
手のひらサイズの女の子は背筋と腕を伸ばし軽いストレッチをすると、私の方へと振り向き『大丈夫?』と聞いてきた。
私はポカンとしながら大丈夫だと答えようとしたら、背中と右足首の痛みが再び襲ってきた。
「ちょっと酷いわね。待ってて、すぐに治すから」
手のひらサイズの女の子が、まず私の足の痛みを取ろうと患部に両手を翳すと、温かく柔らかい光が患部を覆う。
すると右足の腫れがみるみるうちに無くなっていき、痛みがアッという間に取れた。
次に背中の傷もアッという間に治していく。
「終わったか?」
「ええ、これでここからすぐにでも出られるわよ」
!
出られると聞いて一瞬安堵しかけたが、私はすぐに莉桜ちゃんの事を思い出し、龍太郎に待ったをかけた。
「待って!まだ莉桜ちゃんが…!!」
「!? 莉桜もいるのか?」
「うん、私を庇って………それで………」
「どこだ?」
「本校舎の4階…」
龍太郎はすぐに4階へと走っていった。
手のひらサイズの女の子と二人っきりになり、彼女は龍太郎が戻るまでに自己紹介をし始めた。
「初めまして、私の名前は朱里。龍太郎のサポートを任されてる存在よ」
手のひらサイズの女の子、朱里ちゃんは私の頭を撫で始めた。
「怖かったでしょ?でももう大丈夫だから」
自分よりサイズが小さいとはいえ、彼女に撫でられ、優しい声をかけられて、本当に私は助かったんだと認識出来た。
そしたら途端に涙が溢れた。
感情が制御出来ずに泣き出した私を朱里さんは何も言わずに撫で続け、落ち着くまで待ってくれた。
程なくして、龍太郎が戻ってきた。
「龍太郎、どうだった?」
「あぁ、途中妖魔が居たが斬ったが、4階には大きな血溜まりがあっただけだ」
龍太郎の話を聞いて私は愕然とする。
私の表情の変化に気付いた龍太郎が、一体何があったのかを聞き、私は自分にあった事を話した。
話を聞いて龍太郎と朱里さんはお互いに意見を言い合う。
「……どう思う?」
「う〜ん……なんでカマキリ?って思うけど…………その莉桜って子の身体はそこには無かったのね?」
「ああ」
朱里さんは腕を組んで、少し考える。
「考えられるとしたら、そのカマキリが何処かに莉桜って子を連れて行ったとみるべきでしょうね」
「カマキリにそんな習性あったか?」
「無いわね。そもそも普通のカマキリなら全部食べるけど、ここに居るのは妖魔よ?ここを作った親玉が、何かしらの理由でその子を連れて行ったとしか考えられない」
「…………何処か検討は?」
「その血溜まりのところに行ってみないとなんとも」
話し合いが終わると、龍太郎と朱里さんが4階に行くということになり、私は二人の後ろをついて行った。
途中、会話の中に【妖魔】というワードがあったり、それよりもまず龍太郎は一体何?という疑問が出て来た。
階段を登りながら、私は二人に質問をした。
「ねぇ、私達を襲ったのは……何?」
それに答えたのは朱里さんだった。
「佳鈴ちゃんを襲ったのは、妖魔と呼ばれる存在よ」
妖魔とは、人や物などが持っている強い想いが変質、歪み、瘴気と呼ばれる魂の負の力が肉体を変貌させた存在だと話した。
妖怪や魔物だとも言われているが、特に人などの生命を脅かす存在を妖魔と呼んでいるらしい。
朱里さんや龍太郎は、そんな妖魔を狩る鬼の一族だとも……。
「龍太郎が………鬼…………」
実感のない話に困惑している私を他所に、朱里さんは話を続ける。
「とある事が起こって、赤子だった龍太郎は貴女の親に拾われて一緒に育ったの。戸籍上では、龍太郎は養子となってるわ』
私の知らない事実に驚く。
今まで一緒に暮らしてきて全然気付かなかった。
そうこう話を聞いていると、件の4階に着いた。
ここは先のカマキリが暴れたおかげで窓ガラスが割れてたりして少し危なく、加えて龍太郎が斬ったカマキリの残骸が転がっていた。
外から空気が入っているとはいえ、ここだけは血の匂いが強くて吐き気を催す。
朱里さんが血溜まりに向かって飛んでいき、両手を翳して痕跡を調べた。
「……大丈夫か?」
「うん………ごめん、ちょっと」
ついさっきまでこの凄惨な現場を目の前で見ていた事を思い出し、私は吐き気を我慢出来ずに付近にあった手洗い場で吐いた。
龍太郎が優しく背中をさすり、私が吐き終わるのを待っててくれた。
「ごめん、ありがと……」
「無理するな」
全部吐ききって少し落ち着いたあと、龍太郎は落ちていた私と莉桜ちゃんの通学カバンと、散らばった私のノートや教科書とスマホを持ってきた。
私のカバンは破れてもう使えないけど、莉桜ちゃんのはまだ無事だった。
「持ってろ。莉桜は必ず見つける」
龍太郎は私の頭を撫でながらそう言うと、後ろから朱里さんが戻ってきた。
「わかったわよ。莉桜って子は、体育館に連れて行かれたみたいね」
「そこにここの親玉が?」
「多分。行かないとわからないけど」
私達は体育館に向かった。