第63話 反魂
よし、ほなそろそろやりましょか!
少し時間が遡って、私を含めた龍太郎みんなが教室の窓から飛び出した後、フレネと対峙していた純也くんは不敵な笑みを浮かべ、オルカくんはフレネに対して歯を見せて威嚇していた。
彼は久しぶりに本気を出せると、内心で嬉しく思っていた。
まるで自分がヒーローにでもなったかの様な気分を味わえるのと、こんな自分でも誰かの為になれるという達成感のようなものも感じれる。
でもそれよりも、今の純也くんは、私を襲った罪悪感の方が強かった。
養護施設育ちということで、言われのない誹謗躊躇を受けながら育った事もあり、純也くんは仲間や施設の子達をバカにしたりする者に対して、憎しみのような強い敵対心を見せる。
そして、今まで自分のダンピールの力を明かせずにいた事が苦痛だった。
思春期に入ってたことあって、中学時代はかなりイライラしていた事もある。
その鬱憤を晴らす為に、妖魔を狩っていたりもしたが、基本的に自分から人を襲うような事はだけは絶対にしなかった。
人に見られた時は、吸血鬼特有の魅了を使って記憶を消し去ってもいたが、場合によっては人の命を手に掛けた事だってある……。
その時は、『俺は人じゃない』……そう割り切るように思い込んだ。
だがある時、龍太郎と偶然遭遇して、初めて本気になって戦うことが出来た。
街を少し……少し?壊したりしたけど、純也くんは初めて自分と同じ人ならざる者の力を持った、それも同い年の人間に合うことが出来て嬉しかった。
お互いに血塗れにはなったけど、同じ仲間が出来て嬉しかった。
だが、その気持ちをこの目の前の妖魔が踏み躙った……。
俺はあんな悪い奴等みたいにはならない。
誰かを乱りに泣かせない。純也くんはそう誓っていた。
「いくぜ、オルカ!」
「ワン!」
ダンピールとしての強い力を持って産まれたこと、最初はすごく嫌だった。けど、自分以外にも同じように、力によって苦しんでる人がいた。
龍太郎と会って、彼から強さを学んだ。力と心、両方の力が無ければ、彼が嫌う性根の悪い者達と同じになってたかもしれない。
だから純也くんは本気で戦う時は、自身が『コイツは悪人!』と決めた者のみと誓いを立てていた。
オルカくんも良い悪いの違いは付く。
自分を洗脳して、私……佳鈴の身も心も傷付けた。純也くんは目の前の、莉桜ちゃんの姿をした妖魔を敵と認識した。
「龍太郎の大切な嫁さんを傷付けた報い、受けてもらうぜ!!」
そしてオルカくんと正面を向き合い、オルカくんと純也くんはお互いの首に勢い良く噛みつき始めた!!
互いの首から血が噴き出すと、その血が2人を覆って球体になり始めた。そして大きな鼓動がドクンッ!と鳴り……凄まじい衝撃波は放って血の球体から純也くんが出てきた!!
「吸血合体、ヴァルガルフ・アルカード!!」
赤褐色の髪に、全身が少し隆起して犬耳犬尻尾を生やして、右手に持った鞭を振り回す純也くん。
爆発のような衝撃波で、学校の全ての窓ガラスをバッキバキに割りながらフレネを闘争心剥き出しの表情で睨む。
フレネ自身はさっきまでのイライラが消し飛んで、個性が渋滞している純也くんにポカンとして………少し間を開いてから、何を思ったのかトチ狂ったように笑い始めた。
「ハ……ハハハ、アハハハハハハハハ!!
もう、想定外が過ぎて笑けてくるわ! ホントに……どういう巡り合わせしたらアンタみたいなバケモノが出てくるのよ!?」
顔をヒクつかせて、緑色の眼み血走らせて狂い笑うフレネ。
あまりにも個性が渋滞してて、純也くんが物凄く巫山戯た存在に見えた。
計画してた事が悉く頓挫していく現状を、まるで嘲て笑わせて来るように感じて頭に血が昇っていく。
そして堰を切ったように、フレネはポルターガイストで教卓を、純也くんは鞭で机をブン投げた!
教卓と机がグシャグシャに形を変えて、音を立てて落ちる。次々に教室内の机や椅子が投げられて、打つかり合い、黒板は割れて、掃除用具入れのロッカーが変形する。
何度目かの投げ合いをしていると、いつの間にかフレネがスッと消えていた。
そして気が付いた時には、既に純也くんの背後に居た。
片手は死霊から集めた呪いの塊。
生き物であれば確実に呪殺するほどの物だった。魔力の痕跡、音、匂い、気配、全てを断つ事の出来るフレネの……朱里さんは隠形と呼んでいて、フレネはソレに特化して優れていると言ってた。
陰陽術を使う朱里さんが舌を巻く程に己の気配を断つ事の出来るフレネ。一度見失えば、待っているのは確実な死だった。
でも……
ギランっ!!!
「っ!?」
純也くんは獰猛な笑みを浮かべながらフレネを眼で追い、彼女が隠形を使うよりも速く、左脚による回し蹴りを繰り出して来た!!
度肝を抜かれたフレネは蹴りの延長線上ギリギリにポルターガイストを生じさせて、蹴りの軌道を強引になんとか変えて回避するも、蹴りが速すぎて真空が生まれて頬が少し切れてしまった…………が、今度は純也くんの踵がフレネの頭上から落ちてくる!!
スピードとパワーが桁違いに上がり、純也くんは回し蹴りを振り抜いたあと、今度は右足を上げてそのまま踵落としを繰り出す!!
フレネのお腹に踵落としがクリーンヒットして、教室の床に身体をメリ込ませる!
ダンピールは吸血鬼の位置を特定する能力があると言われているけど、ホントは人外の気配に非常に敏感。フレネのような隠形すら確実に見破る。
けど、それ以外の気配に関しては常人と変わらない。
フレネが身体を打った時、彼女は痛みを耐えながらポルターガイストを生じさせて、教室の天井の一部を剥ぎ取って純也くんの背中にブチ当てて、教室の外へと弾き出した!
隆起した筋肉の鎧で純也くんには受けた衝撃それほど強くなく感じてなく、彼は軽やかに……私達を見つけてカッコつけて着地する。
ここまではセツさんが千里眼で視てた光景。
「なんだよw 本気出せばヤリ合えるじゃねぇか!」
…………ドコからツッコミを入れたら良いのか全然わかんない。
私の知ってる純也くんの姿が無い代わりに、100%人外の姿をしている純也くん。
犬耳犬尻尾の獣人って、異世界物のライトノベルとか漫画のコスプレでしか見たことない。
でもこの姿で吸血鬼……なんだよね?
ガッッッ!!
「ウェェ゙っ!?」
何かを掴む音が響いて、純也くんが素っ頓狂な声を上げた……。
純也くんの頭を誰かが掴んでいた。
ギギギっと、ゆっくり振り向くと……メチャクチャ眼を紅く光らせた………怒気全開の龍太郎が純也くんの頭をガッチリ掴んでた……。
「オマエ………いい加減にしろや、あ???」
メリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリッ!!
「アダダダダダダダダダダっ!!!!」
普段の力の10倍以上の力で純也くんの頭をアイアンクローで責める龍太郎………。
指の第一関節まで純也くんの頭にメリ込んでる………。
「ちょっ……待ってマジで…………死ぬ!死ぬ!!
指が食い込んで破片が、脳に刺さって、刺さって〜!!」
「お前死なねぇから別に良いだろ?」
「イヤイヤ死なないからツライの!!」
「だったらコッチに佳鈴が居るからその事考えてから合体しやがれ!!
ってか一々合体する度に爆発するな!!」
「ごめんなさい〜〜〜!!!」
………なんだろ?
いつもの光景な筈なのに、なんと言って良いのか分からない。
「アイツ吸血鬼の不死性まで受け継いでるのか……」
「変な方向には育ったけど、根はいい奴なのよ」
朱里さんがフォローを入れてるけど、セツは純也くんをジト目で見てる………。
人外でも純也くんは純也くんだ………。
操られてたとはいえ、もしあの人外の力が私に向けられてたと思うとゾッとはする。けど、どこまでいっても純也くんだということが、私の中の彼への恐怖心は少し和らいだ。
っと、その時だった。
大きな瓦礫が私達のいる方に飛んできて、セツさんがいち早く反応して大型拳銃をものすごい速度で連射して瓦礫に無数の亀裂を入れた!!
次に気付いた龍太郎が、掴んでた純也くんを瓦礫に向かって投げる!!
投げられた純也くんは悲鳴を上げながらも、鞭の血液を右腕に纏わせてパンチを繰り出して、瓦礫が粉微塵に破壊した!
「危なねぇだろ!オレじゃなかったらケガしてるぞ!?」
「お前死なねぇからな」
「そういう問題じゃねぇよ!」
訂正、いつも以上に純也くんの扱いが雑…。
「ガンベンしてくれよ〜、いくらオレでもさすがにこんな扱いされたら病むぞマジで」
「鋼の精神が何言ってやがる?
戯言ほざいてる暇があるなら武器を構えろ」
「ザレゴト!?」
訂正、もっと酷かった。
龍太郎はまたさっきの構えを取って砂煙の方へと視線を送る。
純也くんも同じ方向に視線を送ると砂煙の中に人影が見えた。
でもその人影は、それ以上コッチに進む事はせず、その場から動かなかった。
『想定外……ホントに想定外だわ』
フレネの声が反響して聞こえる。
自分の位置を悟られない為のようにする為だ。
『ホントは使うつもりなんて無かったんだけど、しょうがないよね?』
背中に悪寒が走る………。
『ブレッドウィッチ、思い出さない?
あの時もこんな感じでさ、なんか考えてた事やろうと思ったことしようとしたらさ、ブレッドウィッチが来ちゃって、銃で撃たれたりしちゃってシラけちゃったじゃない?』
なんだろ……なんか…………今直ぐフレネを見つけて止めないとヤバい気がする……!!
『それじゃあ、一緒に遊ぼっか♡』
「っ!!」
セツさんの魔眼が青く光だして、人影に向けて大型拳銃を撃った!
撃たれた人影は跡形もなく消えてしまい、途端に重たくて気持ち悪い空気がこの擬似魔界を覆った。
「チッ!」
『そんな焦らないでよブレッドウィッチ?
召喚し終えたら、あの時の続きでもしよっか?♡』
「クソがっ!!」
必死になってフレネのいる場所を見つけようとする。
セツさんの反応に、朱里さんが直ぐ様サポートに入る。朱里さんはセツさんの視ている視界を自分と共有出来るように術式を展開して、セツさんでは視えないフレネの放つ呪いの存在を視えるようにした!
共有出来るようにしたと言っても、セツさんと朱里さんとでは魔力霊力の性質が違う。
朱里さんはセツさんが視えやすいように、ラジオの周波数を合わせるように微調整をしていく。
そのせいで今の状況じゃ、フレネが張ったフェイクすら存在しているように視えてしまう。
フレネは学校内に自身の呪いの気配を偽造していき、黒い影のようなものがわんさかと出てきた!!
「うおっ!?なんだコレ!?」
「……っ!」
霊感持ちや魔力を探知出来るみんなにとっては、この空気は平衡感覚すら少し揺らすくらいに濃い魔力に満ちている。
龍太郎も純也くんも突然の環境の変化にグラついた。
この中で、セツさんだけがまともに動けていた。
セツさんは朱里さんのおかげある程度フレネの痕跡を視えるようになっていて、彼女はその視えるフレネの痕跡全てに向けて大型拳銃を撃ちまくった!!
この中にフレネがいる事だけは間違いない!
けど、それは砂漠の中から一粒の米を見つけ出す事に等しくて、フレネはセツさんを嘲笑うかのように呪文を唱えた!
『冥府の門よ、裂けろ!
血と狂気の淵から、罪に塗れた魂を我が叫びで引きずり出せ!
闇の底で蠢く亡魂、汝の罪は朽ちず、永遠に我が呪詛に絡め取られる!
無数の命を貪り、血の海に民を沈めた罪人よ、汝の手は骨を砕き、汝の心は絶望の毒に侵され、深淵の淵で吠える!
骨の山を積み上げ、無垢の叫びを喰らった者よ、汝の罪は地獄の炎に焼き尽くされず、我が狂乱の祭壇に供られる!
鉄の意志で民を鎖に繋ぎ、自由を血と灰に変えた罪人、汝の魂は闇の歯車に噛まれ、永遠に軋む!
地に流れた涙、折れた希望の残骸、汝の罪は冥界の嵐となり、我が耳を狂気の叫びで満たす!
逃れられぬ、汝の運命!
黒き月の下、血の祭壇に無念の亡魂の心臓を捧ぐ!
汝の魂を切り裂き、我が狂気の鎖で縛り上げる!
七つの罪、七つの刃、汝の魂を突き刺し、血と狂気の呪言で永遠の苦役を刻み込む!
休息は汝の敵となり、業火を吠え、 罪人の魂を焼き、肉を歪んだ器に再び縫い合わせろ!
汝は我が命に縛られ、這いずるのみ!
死の川を血の潮流で逆流せよ!
冥界の門を砕き、汝、罪人、我が狂宴の奴隷としてこの世に蘇れ!
数多の亡魂よ、汝の罪を喰らい、裁きの牙を剥け!
彼らの嘆きは汝の骨を縛る鎖となり、永遠に汝を縛る!
懺鎖よ!
鉄と血の響きで魂を粉砕し、休息の夢を血の霧に変える!
汝は我が狂気の命に従い、永遠に蠢く!
闇の使者よ、血に濡れた翼で罪人の魂を我が手に引き裂け!
冥界の門を焼き、汝を煉獄の炎でこの世に投げ込む!
血塗られた過去、汝の眼を抉り、罪の幻を永遠に焼き付けよ!
我が呪言は汝の魂を喰らい、罪過の鎖で縛る!
汝、罪人、我が狂宴の奴隷となり、血と灰の鎖に縛られし者!
我が意に従い、永遠の苦役に狂い叫べ!』
ピシッ
私達の目の前の空間に亀裂が走った。
亀裂は直ぐ様大きくなっていき、大きな音を立てて割れていき、中から何かが倒れ込んできた。
『ぐ……こぁ………』
苦しそうな声を上げる何か。
そして……………
『グオアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー!!!』
耳を劈くけたたましい声を張り上げて、何かが砂煙を晴らしてその姿を現した!!!
「なに……あれ…………」
現れた何かは麦わら帽子を被っていて、農具で全身を所狭しと刺されていて、その上を更に農具が何かの身体を覆うように詰まっていた。
少し動こうとすると、ギチギチガキガキと金属が擦れ合うような不快な音を上げて、その度に何かの血が農具を赤く染めていく。
「あん野郎、今度は何を呼び出しやがった!?」
前にセツさんがフレネと戦った時は、たしかヒトラーだった。
でも、今回は……いったい…………
「たまたま、反魂の術に使えそうな触媒が見つかってね」
隠れてたフレネが姿を現した。
頭から少し血を流しながら、裸足でゆっくりと歩いて不敵な笑みを浮かべながら……。
「今の時代、ネットって文明の利器は良いものね。私の知らない事も簡単に調べられるし、その気になれば地球の裏側だって簡単に行けちゃうんだから♡」
「テメェっ、今度は何を呼び出した!?」
銃口をフレネに向けながら、セツさんはものすごい怒気を放ちながらフレネに問いかけた。
フレネはセツさんの怒気など何処吹く風といった様子で、笑いながら呼び出したものの頭をガンガン叩きながら話し出した。
「ブレッドウィッチにはこう言えば分かるんじゃないかな?『カンボジアの発展を100年遅らせた男』だよ♡」
セツさんが眼を見開いて驚きの表情をする。
誰か分かると舌打ちをして、呼び出された何かをすごい目付きで睨みつけた。
かつて、毛沢東に感銘を受けて、カンプチア共産党を設立。
プノンペンを武力占領して、都市住民を強制移住。
病院の患者も含め、全住民を農村へ追放して、貨幣・市場・学校・宗教を廃止。
私有財産を没収して、国を集団農場化するという『年ゼロ政策』を実行。
知識人・教師・僧侶・少数民族(チャム族、ベトナム系、中国系)・旧政権関係者を「反革命分子」として大量虐殺。
挙句の果てには眼鏡を着用しているだけで処刑された記録もある。
さらに医療知識の無い子供たちを「医師」「看護師」に仕立てるという狂気の即席医療。
ココナッツの汁を点滴代わりに使う
ウサギの血を「輸血」
ハーブを「万能薬」と称する
包丁で「手術」
到底医療行為とは呼べない事をさせて、死亡率は90%以上。誤診・感染症・出血死が日常と化した。
そしてトゥールスレン収容所で約2万人を拷問・処刑。
「殺戮の森」など全国で処刑場を設置。
推定死者数は170万〜200万人。当時の人口の約1/4もの国民を殺害した。
呼び出された何かの名は、ポル・ポト。
本名サロト・サール。
農民ユートピアの名で地獄を現出した、20世紀最悪のイデオロギー実験をした狂気の男だった。
セツにとっては共産主義者という共通点で物凄い嫌悪感を抱いてます。
ホンマに、この歴史を知った時はゾッとしたもんです。
とりあえず、今回は以上です∠(`・ω・´)




