第55話 F,E
引き続き、龍太郎の視点からお送りします∠(`・ω・´)
目の前で佳鈴が消えた!?
まるで神隠しにでもあったかのように、ホントに突然消えた。
朱里もセツも驚愕した顔をしており、何が起きたのか見当が付かなかった。
佳鈴を追いかけて来たグラピーも毛を逆立ててる。
なにせ、佳鈴が消える瞬間の、異常な事が起こる時にある霊圧や魔力といったものを一切感じ取れなかったんだ。
「なに……いまの………?」
陰陽術に精通している朱里ですら感知出来ないモノってなんなんだよ!?
「佳鈴……そんな………いったい…」
「しっかりしろ龍太郎!」
呆然としていた俺に、俺の肩を引っ張って正面に向き合うセツ。佳鈴を失う恐怖が頭を締め付けてくる俺にセツは、
「情けない顔をするな!!」
「!!」
「気をしっかり持て! あの子を追いかける為にも、まずは冷静なれ!」
「………」
…………そうだ、冷静になれ。
いつもの様に、心を落ち着けろ。
佳鈴を守る為に………!!
「スーッ、ハーッ」
深呼吸を繰り返して、心を落ち着け、心臓の鼓動を落とせ。
二度と、佳鈴を失わない為に………。
息をゆっくり吸って、ゆっくり吐く。
俺は徐々に冷静になる。
冷静にならないと、視野も狭くなって佳鈴を見つけられない。
「………落ち着いたな?」
「あぁ」
「上出来だ」
セツが真剣な眼差しを向けながら、俺にいくつか質問をブツけてきた。それは、佳鈴が消える前に、俺に何と言ったのか?
俺は記憶を辿り、思い出す。
たしか、あり得ない事を言っていた。
死んだ莉桜からRainが着たとか言って……
「学校に行くって」
「お前達が通う高校の事だな?」
俺が答えると、セツが魔眼を青く光らせて、千里眼で学校を捉える。
が………
「チッ、あの野郎……」
「なんだ?」
「どうやら、F,Eの奴が仕掛けてきたようだ」
心臓が跳ね上がる。
まさか……おばさんのように佳鈴を殺しにきたのか!?
だがセツは首を振ってそれを否定し、奴が計画的に佳鈴を自分の所に誘おうとしていると推察する。
「目的は分からないが、多分すぐに殺す事はないだろう。霊磁場を使って別空間を作って、その中の学校にあの子を誘導してるみたいだ。が、面倒臭いことをしやがる……」
苦虫を噛み潰したような憎々しい顔をするセツ。
「アイツ、私達があの子を追いかける事を考えて、私達専用に別の入口を作ってやがった」
「は?入口を?」
何の為にそんなもんを……
「とにかく入口まで行くぞ!バイクを出すから後に乗れ!」
俺達は急いで駐輪場まで行き、ヘルメットを受け取ってセツのバイクに乗り込む。
朱里は飛んで後ろから追い掛けてくるようだ。
「信号に捕まらないようにするが、しっかり掴まってろよ!」
V4エンジンが獣の咆哮のように唸りを上げ、4本のチタンマフラーが鋭く野太い音を響かせる。
俺はセツの腰に手を回し、セツがアクセルを全開にして発進した!!
住宅街の狭い路地をとんでもないスピードで駆け抜ける。
セツは千里眼で信号のタイミングや角の先の障害物を捉え、超人的な精度でハンドルを切る。
赤信号の手前でアクセルを捻り、対向車の隙間を縫うように加速。「ヴオオオッ!」とマフラーが咆哮し、路地の壁に反響して鼓膜を叩く。
路肩のゴミ箱が掠め、電柱が髪の毛一本分の距離で過ぎ去る。
事故スレスレの運転に、俺は息を止めたが、セツの背中は揺るがない。
俺の息が止まる中、突然、前方をふらつく酔っ払いが飛び出してきた!
「っ! 飛ぶぞ!!」
「ハァ!?」
セツは一瞬で反応し、アクセルを煽って前輪を浮かせてバイクの車体を浮かせ酔っ払いをジャンプして飛び越える!!
生きた心地がしねぇ!!
そして今度は裏路地に飛び込むと、千里眼で警察のパトロールを予見し、セツは脇道へ滑り込む。
だが、路地の先に工事用のバリケードが現れた。
セツは迷わずアクセルを開き、バイクが段差を跳ね上がる!
「ガンッ!」と車体が宙を舞い、ジャンプの瞬間、風がヘルメットを叩く音とエンジンの咆哮が混ざり合う。
着地と同時に「ゴゴゴッ!」とV4エンジンが吠え、アスファルトを削る音が響いて国道に出る!
信号が変わる瞬間に適切に曲がり、路地裏に入って加速。路地裏の壁にエンジン音が反響し、窓ガラスを震わせまた国道に出る。
そして警ら中のパトカー、警察の視界入らないようにまた路地裏を駆け抜ける。
そしてまた国道に出ようとするが、こんどは幅のある歩道と片側二車線の大きな道路に出る。
当然人通りも車通りも多く、普通なら一旦停止しなければならないが、セツはさらにアクセルを上げて大通りに突っ込んでいく!!
歩道に出る直前に何度目かのジャンプをして大勢の歩行者達の上を通り抜け、更には片側二車線を通る車両さえも飛び越える!
反対車線を走る車が信号で停止して少しスペースが開くと、セツは狙い澄ましたようにそこに着地してハンドルを切って後輪を滑らせ、車の進行方向へと同じ向きにバイクを向き直してアクセルを開ける!
周囲の車も人もセツのとんでもないバイクアクションに驚愕し、なかには動画を撮っていた人は「衝撃映像!?」とSNSに上げていき、ちょっと世間を騒がせた。
(うわぁ〜……私乗らないで良かったかも………)
空から俺達を追い掛けてバイクの不規則な動きとスピードを俯瞰しながら朱里はドン引きしていた。
そこからは信号が変わる前に右折左折を繰り返してスピードを緩めずに走り続け、何度目かの裏路地に入った直後、俺達は目的の場所を見つける!
「あった!アレだ!!」
「!?」
見つけた入口は歪だった。
まるでそこの空間が紙でも軽く千切ったかのようになっていて、その千切られた空間から瘴気が漏れ出ていた。
上空から朱里も降りてきて俺に捕まり、セツはさらにアクセル開いてギアを上げてスピードを出し、入口に飛び込む!!
「しっかり掴まってろ!!」
入口に入った途端、闇の中に飛び込むような真っ黒いモノが俺達を覆い、ねっとりとした殺気の様な冷たい感覚が体を包み、鬼の力が反応する。殺戮衝動のような、血を欲するような嫌な感覚が巡る!
(なんだ……これ…………!!!)
今までに妖魔が作り出してきた別空間に何度も飛び込んできたが、この空間は異常だった。
必死に抑えようとすればする程に、身体の中が暴走するような、グルグルするような気持ち悪さとヤバさが駆ける。
俺の異変を察知した朱里が印を結んで結界を張ろうとするが、朱里も俺と同じ状態になってて手元がおぼつかない。
「もう少しガマンしろよ!?」
闇のトンネルの中でさらにセツはバイクを加速させて、ハンドル脇のスイッチを押した。
ニトロが噴射され、「ヴオオオオ!」と龍が咆哮するような爆音が炸裂!
強烈なGが加わって腕が千切れそうだ………!
そして………!!
「「!?」」
闇の中を抜けて、もう一つの俺達の街が姿を表した!!
だが、死の気配とでも言うのか、赤い夕陽が街を血塗れにしたかのような不気味さが充満していた。
「なんだここは………」
「F,Eが作った擬似魔界だ」
妖魔とは性質が異なる力で作り上げられたもので、悪魔の住処とされる世界、それが魔界だ。俺もさすがに立ち入ったことは無いが、それを人の手で作り上げたってのか?
「F,E……いったい何なんだよ」
佳鈴1人を狙う為にここまでするものか……?
「奴の行動原理は至極単純だ。
『自分がこうしたら楽しい』しか考えていない。
死を楽しむ為なら、奴はどんなプロセスでも踏む。そしてその対象が、自分の身近な人物であれば楽しみがいがあるらしい」
……今、メチャクチャ嫌な事を聞いた気がするぞ?
「なぁ、たしかあの子は誰かからRainが着て、それで学校に行ったんだったよな」
不意に問いかけられたから、俺は情報共有の為に答える。
「あぁ。けど、それはあり得ないんだよ」
「あり得ない?」
「Rainが着た相手は、もう死んでる。しかも、佳鈴の目の前で、妖魔に喰い殺されたんだ」
その場面を俺が見た訳じゃないが、佳鈴から話を聞く限り間違いない。
だが、話を聞いたセツの顔色がさらに険しくなった。
「ソイツの顔が分かるものはあるか?」
言われて俺はスマホに入れてある画像を見せた。
俺、佳鈴、莉桜が高校に入学した時の画像だ。
「この緑色の眼の子だ」
「…………これで確定だな」
セツが何か確信を得た。
いったい何の……?
「F,Eは、もともと東ヨーロッパ人の血を引いていてな、奴も緑色の眼をしているんだ」
「それがなん…まさか…………」
嫌な予感が走った。
もし………もしそうだとしたら…………
だが、答えは俺の予想の上を行っていた。
「魂が変質したまま生まれ変わる奴は、生前の特徴だったその緑色の眼を、生まれ変わる度に発現しているんだ」
「莉桜が……そのF,Eだって言いたいのか?」
声が震える。
ウソだとあってほしいと願ってしまう。
「…アンタの知り合いのあの人、その莉桜って子の母親なんだろ?」
「…あぁ」
「私が前に電話で言ってた事、覚えてるか?」
……たしか、以前にも似たやり口で殺された人を見たことがある、だったな。
「子供を産んで死んだが、母体の内臓と骨がスカスカだった。コレな、F,Eの奴を産んだからそうなったんだよ」
イヤな予感が的中してしまった……。
そして朱里も、最悪なシナリオに行き着いてしまう。
「まさか……内臓や骨がスカスカだったのは、そのF,Eってのが産まれてくるために、肉体を生成する為に母親の内臓と骨を栄養として奪い取ったってこと!?」
「最適な肉体を得る為に、子宮の中で急速成長する為にな。さらに言えば、一度産まれて十数年と魂が馴染んだ肉体にする為に遺伝情報を母体に食わせるんだ。単一生殖のように同じ肉体を作らせる為にな」
……それが、莉桜の遺骨が無くなってた原因か………!!
魂が馴染んだ同じ肉体を作らせる為に、娘の遺骨を母親に食べさせたってのかよ!?
「30年前もそうだった。奴は新たな肉体を手に入れる為に親を殺し、兄弟姉妹を笑顔で縊り殺して、友人だった者達も次々と殺し絶望を楽しんでいった」
その悍ましい所業をやって来たことから、セツは奴をこう呼んだ。
Friend Enemyから、F,Eと。
今まで自分の近くにそんなヤバい奴が居ただなんて…………
「っ!! 2人とも構えて、来るわよ!」
朱里が何かを感じ取り、俺は構える。
セツはバイクを運転しながら、いつでも銃を抜けるようにする。
ここからヘルメットが邪魔だな。
俺がヘルメットを脱いだ瞬間だった。
「!? チッ!!」
俺の動きにセツが合わせて前輪ブレーキを思いっ切り引き絞り、後輪を勢い良く浮かせて、俺は真上にジャンプした!
真上から2つ!
俺は抜刀とともに迫って来る何かを斬り捨てる。
着地して何かを確認すると、それは明らかに時間が経って腐敗が進んでる死体だった。
「奴はファンタジーらしく死体を操るのか?」
「正確には、死霊を死体に憑依させてる、だな。カダウェル·モートゥスっていう」
「…カダ?」
「ラテン語よ、死体を操るって意味ね」
なんで朱里がラテン語なんて分かるんだよ。
「古代ローマや中世ヨーロッパのラテン語文化が、既存の死霊術的観念を、特にギリシャや東方影響を受けてソレを吸収して、文学や民間信仰の中で発展させていったのよ。たぶんソイツ、ラテン系の資料や本でも読んで覚えていったんでしょうね」
そういいながら、朱里は明後日の方向に指を指した。
その先には………数えるのが馬鹿らしくなる程の数の死体がマリオネットのように、紅く染まる空に吊るされているように待ち構えていた!
「コイツらを抜けた先に、奴が居ってことか」
「アレだけの数……いったいどんな風にして集めたのよぉ」
一体一体はさほど問題ないが、この数はヤバい。
「しかもご丁寧な事に、身体に爆弾巻いてる奴が居るな。私への対策か?」
セツ曰く、死体に巻いている爆弾は、セムテックスというプラスチック爆弾らしい。
通常プラスチック爆弾は非常に安定性が高く、たとえ銃で撃っても爆発しないのだが、どうやら死体に巻かれているヤツは劣化したセムテックスらしい。
劣悪な環境で放置されていたのか、表面に白い結晶(RDXと呼ばれる爆発成分)が浮いており、もし撃ってしまったら衝撃で白い結晶が刺激されて爆発する恐れがあるとか。
「あの爆弾、斬っても大丈夫か?」
「劣化してても高性能なプラスチック爆弾だから問題ないが、お前は先に行け」
そう言うとセツが挑発するようにバイクのアクセルを空吹かしする。
まるで乗ってる本人と同じようにイラついてるみたいに、龍の咆哮のように凄まじい威圧感を放った。
「大多数は私が引き受ける。お前が近くに居なければ、あの爆弾は私にとっては使いようだ」
左手に大型拳銃を握りしめ、魔力をバイクに流す。
どうやらコイツのバイクは改造だけでじゃない特別製みたいだな。
「行くぞ、朱里!」
俺はセツに何も言わず、学校に向けて鬼の力を使って身体を強化させて走り始める!
走り出した俺に反応して死体達が大群で襲い掛かるが、セツの乗るバイクがその大群に向かって突っ込んでいき、死体達を弾き飛ばし、踏み潰し、後輪を振り回して吹き飛ばして肉片と砕けた骨が飛び散っていく!!
そして隙間を縫うように狙いを定めて爆弾を巻いた死体に向けて大型拳銃を撃つ。
弾丸の摩擦に白い結晶が反応し、大きく爆発し、巻き込まれた死体の爆弾も誘爆して連鎖的に爆発していく!
だが、それでも数が尋常じゃない。
セツはバイクのアクセルを全開、一気にトップギアにしてビルの壁を走り抜け、また死体の大群の中に突っ込んでいく!
俺はその隙に学校に向かって走り続け、眼の前に出てくる死体達を斬って行く!
(佳鈴、無事でいてくれ!!)
佳鈴を喪う恐怖を抱きながらも、俺は全力で走り続けた。
フレンドエネミー、だからF,E。
この言葉を知った時はピッタリだと感じたんよね(≧▽≦)
今回は以上です∠(`・ω・´)




