第54話 闇への誘い
前半は佳鈴視点から。
後半は龍太郎視点です。
龍太郎とお父さんとの団らんから数日後、私はご飯を食べる時には龍太郎と一緒に食べる様になるまでは回復した。
グラピーがずっと寄り添っててくれたのと、龍太郎の支えあってこそだなぁ。
少しづつ…ほんの少しづつだけど、なんとかおばさんの事は飲み込めつつある。
けどどうしても、家族の様に接してきた人達だから、まだまだ受け入れ難い。
それだけに身近な人の死というのは相当な衝撃なんだ。
「佳鈴、入るぞ」
扉をノックして龍太郎が入ってくる。
学校から帰ってきたんだ。
「龍太郎……」
「気分はどうだ?」
「うん……今日はマシかな?」
「そうか」
それだけ言って、私の様子を見に来た龍太郎カバンから今日の授業でやってきたノートを私に渡してきた。
もう一ヶ月くらい休んでるから、大分授業進んでるなぁ。
「ありがとう」
「無理のない範囲で構わないから、そろそろやっておけよ」
チラッと私の机の上にある薬を確認する龍太郎。
心配しなくても、病院の先生の言う通りにして飲んでるから大丈夫だよ。
ピンポーン!
インターホンの音が響き誰かが来たみたいだけど、玄関のドアを勝手に開けてセツさんがいつもの様にズカズカと私の部屋に入ってきた。
「よ、元気になったか?」
「……お前、いい加減勝手に入って来るなよ」
「別に知らない仲じゃないだろ? ご近所付き合いだよ、ご近所付き合い」
「…………ハァ」
私が休んでから、セツさんも時々こうしてやって来てくれて私の様子を見に来てくれる。
ただ、田舎のおっちゃんおばちゃんみたいにやって来て、勝手知ったるなんとやらっ的なのがちょっといつもビックリするけど…。
非常識だから止めろって龍太郎が再三注意してきたけど、年の功?も相まってノラリクラリと躱され続けて、今ではもう殆ど言わなくなってきた。
「ありがとうございます、セツさん」
「アンタも、そろそろ私を呼び捨てに呼んでも良いんだぜ?」
「えっと………それはちょっと…………」
セツさんは気にしてなさそうに言ってくれるけど、なんか私はセツさんを呼び捨てには出来ないんだよね。
なんというか、貫禄というか何と言うのか……?
「フフ、可愛い奴だな」
「わっ、うぅ」
セツさんの細い手が私の頭を優しく撫でてくれる。
なんだろ、なんか安心感がすごい。
撫でられている私に、側に居たグラピーが嫉妬したかのように私にゴロゴロ甘えた声を上げながら、私のお腹をフミフミしてくる。
「んじゃ、ちょっと龍太郎借りてくぞ」
撫で終わるとセツさんは、龍太郎を指名してリビングへと消えて行った。
ため息をつきながら、渋々ながら龍太郎もセツさんと一緒にリビングへと行ってしまった。
「………………」
再び静寂が私の部屋の中を支配する。
疲れてはいないのに、なんかこの静けさが私にはすごく重苦しい感じがする。
スマホをイジっても、特に何かあるわけじゃない。
ネットニュースを見ても、SNSを開いても、スマホゲーを開いも気が紛れない。
家族にも友達にも迷惑かけてる自分に嫌気がさしてくる。自分で動かなきゃと思うのに、まだ私の心が拒否ってる感じがして………どう言ったらいいのか分からない感情が渦巻く……。
そんな私の暗い感情を感じ取ったのか、グラピーが私の胸に頭突きをしてヘソ天になってゴロゴロ甘えて来てくれた。
「ありがとね、グラピー」
優しくグラピーのお腹を撫でる。
グラピー…猫に限らず、動物たちとの触れ合いは自然と私達人間の心を癒してくれる。
暗く沈みかけた私の心は、グラピーのおかげで保っていた。
けど………
ピロンっ♪
私のスマホからRainの着信音が鳴った。
誰からだろ?っと思って着信を確認する。
差出人は…………
「っ!?」
息を飲んだ。
あり得ないと思った。
だって………その着信は二度と来ないもののはず………。
心臓が跳ね上がる。
あり得ない……あり得ないと思うも、私はそのRainの本文を恐る恐る開いてしまった。
『久しぶりだね、佳鈴ちゃん。
話したい事があるから、今から学校の教室に来てね!
待ってるからね♡』
差出人は、私の目の前で死んだはずの莉桜ちゃんからだった………。
===========================================
龍太郎side
佳鈴の部屋から出る際、俺と目配せをしたセツ。
何か進展があったと思っても良いのだろうか?
リビングにドカッと座ったセツに、俺は冷蔵庫から麦茶を用意して話しを聞こうとすると、ベランダが開いて朱里が帰ってきた。
「あら、アンタ来てたの?」
「おぅ、丁度良いな」
最初の敵対心は何処行ったのか……。
棚の上にある朱里専用の大きい箱のお茶菓子を取って机の上に置くと、朱里が早速手を出そうとするが、先に手を洗わせに行かせる。
「アンタは私のオカンか!」
「子供じゃねえんだからそろそろ自覚しろボケ」
幼稚な言い合いをして、渋々手を洗いに行く朱里にセツはカラカラ笑う。文句を言いながら朱里が戻って来た所で、改めてセツは調査結果を話し始める。
「さて、とりあえず結果だけ言うぞ」
麦茶を一気飲みして、セツの奴は真剣な表情をする。
「まず、アンタの知り合いを殺った奴の名は、F,Eって奴だ」
「F,E?」
「私が付けた別称だ。本名は知らないが、かなり強力な死霊使いだ」
死霊使いか…。
死体や魂を操り、死者を蘇らせたり、闇の魔法を使って戦うキャラクターであったり、能力として死者をゾンビやスケルトンとして復活させたり、魂を召喚して使役する、ファンタジー作品でよく出てくる職業。
呪いや闇属性の魔法を使うことも多いが、だいたいの役割としてアニメやゲーム、物語では悪役やダークヒーローとして描かれることが多いが、作品によっては中立や味方として登場したりもする。
が、現実的な死霊使いはそうじゃない。
現実的な文脈での死霊使いは、歴史や文化における「死霊術」や「死と関わる儀式」に基づく概念として解釈されいる。
死者の魂と交信したり、死体を操ることを試みる呪術や儀式を指し、古代ギリシャ、エジプト、シャーマニズムなどで見られる。
他にも占いや霊媒、死者の霊と対話しようとするシャーマンや霊媒師。
日本じゃイタコや陰陽師も、ネクロマンシーのカテゴリーに入るとか。
古代ギリシャの「ネクロマンシー」は、死者の霊を呼び出して未来を予言する儀式だった。
一部の文化では、死者の魂を鎮める儀式や、遺体を使った呪術的行為、例で言えばヴードゥー教のゾンビ伝承なんかが行われたってあったな。
フィクション以外じゃ、「ネクロマンサー」は比喩的に「死や過去に執着する人」や、歴史・考古学などで死者の遺物や文化を研究する人を指すこともあるとか。
科学的に死者を蘇らせることは不可能だが、現実のネクロマンシーは主に宗教的・精神的儀式や迷信に根ざしている。
ファンタジーのような超自然的な力はないものの、歴史や文化における死霊術は、死と向き合う人間の心理や信仰を反映してるって道満のおっさんが言ってたな。
「強力って言ったが、どれ程の強さなんだ?」
「強力なポルターガイストを使って物理的に攻撃してくるし、死霊を物に憑依させて操ったり、霊磁場を生成して精神を削る攻撃と、とにかく面倒臭い相手だ」
セツ曰く、最初は娘を殺された親からの依頼だった。
ただの復讐依頼と思って、少ない情報でターゲットの位置を割り出して、いざ対峙してみれば、ソイツは魂が完全に妖魔のソレと化していた人型の化け物だった。
「奴は雑多に死者の魂を縛って死霊と化して、それを駆使してくるんだが…死者の嘆きを聞いて笑う狂人でもある。初めてアイツと会った時は、殺した相手の死体の前で、血塗れの姿で美味しそうにサンドイッチを食べてたよ」
「……まるでシリアルキラーと同じ性質ね」
有名な話、あるシリアルキラーは一家を殺害した後、殺害現場のその家で普通に食事をしてベッドで寝て、自分の殺した死体と一緒に数日間生活したってのは聞いたことあるな。
「ああ、奴は……F,Eは、あるシリアルキラーを信奉していた狂人なんだよ」
「信奉?」
「今から凡そ50年前、約4年間で述べ30人以上の女性を殺し、その死を弄んだアメリカ屈指の死体愛好症」
優れた容姿とIQ120以上の高い知性を兼ね備え、狡猾な手法で相手を信用させ、気を許した所を殺して弄んだ。
「テッド・バンディ。
今じゃ映画になるほどに有名になったもんだ……」
1946年11月24日、バーモント州バーリントンで生まれの、米国育ちのシリアルキラー。
表向きは魅力的で知的な人物とされ、ワシントン大学で心理学を学び、後に法律を学ぶために同大学や他の学校に通って成績は優秀、社交的な印象を与えていた。
1975年にユタ州で逮捕された後、複数回の脱獄を試み、最終的に1978年にフロリダ州で再逮捕され、1979年と1980年に殺人罪で裁判にかけられた。
彼の裁判は各国のメディアで大きく取り上げられ、特に彼が自ら弁護を行ったことで注目された事は有名だ。
この辺りはテレビやネット動画なんかでよく紹介されていたりする。
「……なんでそんな奴を信奉なんかしてたんだ?」
「どうやら奴は、自分とテッドを似たような存在だとシンパシーを感じてたらしい」
「シンパシー?」
「F,Eの奴は、テッドと同じく頭がキレる奴でな。
幼少の頃から周りに不満を持っていたんだ」
天才とバカは紙一重という言葉があるが、ソイツは頭が良すぎる故に、周囲と自分との知識や考え方に大きな解離…隔たりがあった事に大きなストレスを感じていたそうだ。
そんな不満を抱えて成長し、テッド・バンディの事がメディアで流れ、奴を知った。
「その時に、奴はテッド・バンディの事を羨ましく思い、そして嫉妬してファンになったそうだ」
自分と同じ頭が良いのに、自分というものをしっかり持っていて、自身の嗜好に忠実で、自分に無いものを持っていた事が奴をテッド・バンディのファンに変えたそうだ。
「それが通り過ぎて信奉するようになって、ついにはバンディストって言われるようにもなった」
裁判で自分の弁護をする姿に、テッドは自分を導いてくれる求道者かなんかだと信じ始め、彼が無罪を勝ち取ると信じて疑わなかった。
だがテッドの死刑が確定すると、バンディスト達は彼が収監されていた刑務所に挙って押し寄せ、テッドが無実である事を叫んで暴動を起こして襲撃し始めた。
だが、テッド・バンディは電位椅子へと送られ、奴は人生に絶望し、生きている意味を見出せなくなって自殺した……って、はぁ!?
「待て待て! それがどうやったらソイツはおばさんを殺せるってんだ!?」
「言ったろ、奴は魂が妖魔化していたって」
「魂が妖魔化……死霊術……………っ!」
朱里が何かに気付いた。
「そのF,Eって奴………まさか、暗転者!?」
朱里の言葉に、セツ頷いた。
ここで言う「暗転」は、簡単に言えば闇落ちと同じ意味。
言ってしまえば闇落ち転生者と言う意味が『暗転者』になる。
「ああ、魂が妖魔化していた奴は、前世の記憶を引き継いで別の人間に生まれ変わった転生者だ」
「なっ………そんな馬鹿なこと!?」
「あったんだよ、そんな事が」
転生した事を切っ掛けに、奴はその疑問を解消するために、その類の事を調べ始めたらしい。
もっとも、調べられたのは10年以上経ってからだったらしいが。
「それで、魂やらななんやらのことを調べていたら、死霊使いに行き着いたってわけね?」
「その事を奴は私に撃たれながら自慢気に話してたよ」
しかも話はそれだけじゃなかった。
死霊使いの事を調べていく内に、もしこの転生を自分の意思で出来るだとしたら?と考えるようになった奴は、2度目の自殺をした。
そこで改めて確信した。
自分は特別な存在だと。
「……そもそもなんでソイツは魂が妖魔化してたってんだ?」
普通に生きていたら、魂が妖魔化するなんて異常な事は起こりようが無い。
俺みたいに鬼の血を引いているとかならまだ説明の仕様はあるが、普通の人間の魂が妖魔化する事態なんて、何かしらの人外と関わりが無ければ無理な話だ。
「………コイツは私の憶測に過ぎないんだが」
そのF,Eと関わりがあるセツが、自身の見解を言う。
注ぎ足された麦茶で、セツは喉を潤わせて語った。
「今の奴が自我を持つ前の、前世に問題があったんじゃないかって思ってる」
「?…どういう意味だ?」
「……人間の魂ってのは、生きている時に犯した罪によって変異していく」
罪は人間の国の価値観によって違うが、大凡の罪とは道徳的・倫理的な規範に反する行為や状態の事を指す。
そしてその犯した罪は、生きているうちにしか償うことが出来ない。
償わずに死んでしまえば、その魂は罪過を背負う事となり、変質する。
通常ならあの世……冥界とも地獄とも呼ばれる場所で、何千何万年と時間を掛けて魂を浄化、身削ぎをして、新たな命として生まれ変わっていくのだが、時々冥界地獄へは行かずに現世に人の魂が残ってしまい、そのまま転生してしまう事があるとか。
だから言ってしまえば、F,Eは穢れた魂のままで生まれ変わってしまったという事だ。
「それがテッド・バンディのファンになって信奉して、ついには魂の変質が限界を迎えて……」
「妖魔化したってことか?」
「恐らくだがな」
殺人を肯定する……つまりは邪教と似たようなものだろう。
そして死霊使いの……死霊術への適性を見出してしまったと………。
「………あり得ない訳じゃ無いわね」
朱里が納得したように頷く。
「私と龍太郎、鬼の祖先は地獄の獄卒だって言われているわ」
「そうなのか?」
「文献や資料が現存してないから何とも言えないけどね。けど、日本の地獄とアンタの話しを照らし合わせて考えてみたら、納得する所があるのよ」
日本の地獄も、生前の犯した罪によって8つの地獄に振り分けられる。
それぞれの地獄で責め苦を、身削ぎを受けて綺麗になってから生まれ変わる。
だがさっき言ったように、偶にだがあの世に行かずにそのまま居残るのも存在し、そして穢れを持ったままだと、瘴気や同様の気質引き寄せる。
類は友を呼ぶ、という事だ。
放って置けば、崇徳天皇や菅原道真の様な強力な悪霊となったり、犬鳴トンネルの様な強力な呪詛を生み出したりしてしまう。
そうならない為に、妖魔狩りをしているのが俺達なんだ。
「F,Eって奴は、今どこに?」
「そこがまだ掴めていないんだ。あちこち奴が好みそうな所は片っ端から調べてみたんだが、わざと痕跡を置いていったりしてかく乱されまくられてな」
「もぉ〜大変だったのよ、見つけたと思って痕跡を辿ったら罠だったなんて何回あったか……」
思い出してゲッソリしている朱里。
相当に狡猾で頭が良いんだな…。
「そんで、そのF,Eっての何の意味があってそう呼んでるんだ?」
コイツが意味も無くそう呼ぶ理由ないからな。俺はちょっと疑問にそう思い聞いてみた時だった。
バンッ!!
廊下から突然大きな音が響いてきた!
何事かと思い、俺はリビングから飛び出すと、制服に着替えた佳鈴が飛び出そうとしていた!
「佳鈴!?」
俺の声に気付いた佳鈴が振り返り、何処か切羽詰まった表情をしている。
「龍太郎! 莉桜ちゃんからRainが来たの!!」
「はぁっ!?」
「莉桜ちゃんが学校で待ってるの!
行かないと!!」
訳の分からない事を言って佳鈴は家から飛び出そうする!!
「!!」
玄関の扉を開けた瞬間だった。
俺の眼は、佳鈴が、闇の中に飲み込まれる様に視えた。
「佳鈴ッ!!」
必死に手を伸ばし、佳鈴の手を掴んだと思った瞬間……
「ッッ!!!」
俺の目の前から、佳鈴が消えた……。
さて、どうなる佳鈴!?




