第四話 トラウマ
なんで?って思うところがいくつかあるでしょうが、そのなんで?を抱きながら読んでくれたら嬉しいっす(^^)
意味がわからなかった。
図書室の天井に張り付いて、中型犬をムシャムシャと音を立てて食べ続ける巨大なカマキリの姿に私達は戦慄していた…。
こんなのが存在してるならもっと早く誰か気付いてるはず。
一体コイツらはどこから…!?
「ハァ、ハァ、ハァ!!」
隣で莉桜ちゃんが恐怖で過呼吸を起こした。
幼稚園の頃に、緑色の目を同い年の男の子達に揶揄われてた時に、莉桜ちゃんは彼等にカマキリを持って追いかけ回されて髪や服にカマキリをくっつけられて、彼女にとってはカマキリはトラウマだった。
図鑑やテレビ越しでも目に入ってしまうとその時の恐怖を思い出して、今みたいに過呼吸を起こしてしまう。
幸いにも、あのカマキリは食事に夢中で私達に気が付いていない様子だったから、私は莉桜ちゃんを抱えて急いで図書室から離れて階段付近まで距離を取った。
莉桜ちゃんに優しく声掛けをしながら背中をさすってあげ、ゆっくりと息を吐くように促しながら落ち着かせていく。
「大丈夫?」
「ハァ………ハァ………ハァ………うん、ありがとう佳鈴ちゃん」
過呼吸の対処療法勉強してて良かった。
でも、落ち着いたとはいえ、あんなのかいるんじゃ危なすぎる。
私達はすぐに学校を出ることにした。
「佳鈴ちゃんごめんなさい………私が忘れ物なんかしたから………」
トラウマが再びフラッシュバックして莉桜ちゃんは私に涙を流しながら謝り倒してしまい、私は再び彼女宥めて「大丈夫だよ」と声をかける。
早く学校から出ないと…!
そう思い、莉桜ちゃんと手を繋いで立ち上がろうとした時だった。
私の視界の中に、あの巨大カマキリが図書室から出て来るのを見てしまった。
距離があったとはいえ、見えにくいがカマキリは自身の鎌を手入れしていて、まだ私に気付いた様子がない。
莉桜ちゃんは私の驚いた顔を見て強張らせたが、私はまたすぐに莉桜ちゃんを抱えてすぐに階段を降りようと、早足で階段を降り始めた。
が、4階の降り先を見て戦慄する。
「ひっ!!!」
もう一匹いた…………。
校舎内の色に擬態して、夕日の光に照らされながら私達を真正面から見てユラユラ揺れている巨大なカマキリ。
私達が動けずにいると、今度は5階にいたあのカマキリが私達を挟み撃ちする形で現れ、莉桜ちゃんが恐怖のあまり歯をガタガタさせて私に抱き着く。
階段の上で立ち往生して、前後を二匹の巨大カマキリに挟まれて、私はどうすれば良いか頭をフル回転させるが、今出来る事は動かず、声をあげないことしかできなかった。
虫の複眼は、動きの早いもの正確に捉え、逆に動かないものとゆっくり動くものが見えにくいという特性がある。
莉桜ちゃんのトラウマを知っているから、私も虫は苦手だけどそこそこ勉強していた。
加えてカマキリは音を聞き取る能力もある。それも人間より少し上の音を聞き取る事ができる。
下手に音を立てれば、その音を頼りにしてカマキリは狩りを行う。
まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけど、どうすれば良いのかもわからない。
私も恐怖で息が詰まりそうになって、生唾を飲んた時だった、真正面のカマキリが突然斜め上の方向を見上げた。
見上げた先は、最初の犬を食べていたカマキリ。
カマキリ同士の目が合うと、互いに羽を広げて鎌を振り上げて威嚇のポーズを始めた。
どうやら同じ獲物を狙っているのでケンカになる様子で、私はこれをチャンスと捉えた。
「莉桜ちゃん落ち着いて聞いて」
私はこれからどうするかを小声で話した。
「あのカマキリ達、威嚇し合ってるから、今私達の事は見えていない。だから今のうちに下のカマキリの横を通り抜けるよ。良い?」
莉桜ちゃんは目を見開いてさらにガクブル震えてしがみついた。
トラウマの……しかも巨大なカマキリの横を通り抜ける。
莉桜ちゃんにとってはとんでもない恐怖でしかないが、ここを抜けるにはそれしか方法が思い付かない。
しかもいつカマキリ達が私達に意識を向けるかも分かったものじゃない。
私は莉桜ちゃんの視界にカマキリの姿が入らないように位置を取り、莉桜ちゃんも覚悟を決めたようだった。
涙目で私に頷き、私に合わせて一歩を踏み出す。
ゆっくり、そして音を立てないように壁際に寄り、カマキリの横を通り抜けようと試みる。
(お願い……私達に気付かないで!!)
気付かれれば終わるという思いで、ゆっくり、ゆっくりと足音も立てないよう忍び足でカマキリの横を通り抜けようとする。
威嚇し合うカマキリは身体をユラユラさせ、鎌をブンブン振り上げ合い、風切り音が聞こえるたびに心臓が飛び出しそうになる。
一歩を踏み出す時間が長く感じてしまう。
4階の階段踊り場に足が付く頃には、私達は緊張の汗塗れで息も少し荒くなっていて、それでも急いではいけなく、気付かれるかもという焦りも募る。
開かれた羽根に触れないようにも気を付け、カマキリの足の位置にも注視し、私達はなんとかカマキリの横を通り抜けられた。
けどまだ気は抜けない。
ここから距離を稼いでカマキリの側から離れる。
私と莉桜ちゃんはゆっくりと足を忍ばせながら4階の廊下を進んで、渡り廊下前の階段で降りる算段だった。
このまま順調に行ければ……………。
「♪♫♪♫♪♫♪♫♪」
「「!!!?」」
スマホの通知音楽が流れた。
ギョッとしてカマキリの方へ振り向くと、カマキリは鎌首をもたげてコッチを見ていた…。
カマキリと目が合い、冷や汗が止まらない私は咄嗟に自分の通学カバンをカマキリの方へと放り投げる。
動く獲物と勘違いしたカマキリは私のカバンをその鎌でハンティングする。鎌で引き裂かれたカバンから中身がぶち撒けられる。
ヘアスプレーや教科書、スマホを撒き散らしてカマキリは私達に突撃してきた!
巨大化していてもカマキリらしく、その敏捷性は失われていなくて一瞬で私達との距離を潰してきた!!
悲鳴を上げる莉桜ちゃんの手を私は引っ張って走り、今度は途中で設置してある消火器を無我夢中でカマキリに投げつける。
それもカマキリは鎌でハンティングするが、消火器に鎌のトゲで穴が空いた瞬間、消火器は大きな音を立てて爆発して周囲に消火剤をまき散らした。
爆発に巻き込まれたカマキリの鎌は両方とも無くなり、カマキリは怒りを顕にしたかのように背中の羽根を広げた。が、その直後、後ろから追いかけてきたもう一匹のカマキリが鎌を振り上げて目の前のカマキリを捉えた。
暴れるカマキリに構うことなく今度は共食いを始め、食べられてるカマキリは抵抗して、窓ガラスを割り、壁に天井に打つかりながら暴れ続ける。
突然の状況変化に面食らって腰が抜けたが、私はすぐに立ち上がって莉桜ちゃんと逃げようとするが、彼女はすぐに立ち上がれなかった。
莉桜ちゃんを置いていく事は出来ない私は、なんとか肩を貸して必死に逃げようとした………その時だった。
ドンっ!!!
「え………?」
私は莉桜ちゃんに背中を押された。
なんで!?っと思ったのも束の間、恐怖に染まった顔で上を見上げていた莉桜ちゃんは何かに捉えられて、吸い寄せられるように浮いていった。
私は気付かなかった。
莉桜ちゃんだけが気付いた。
天井に潜み、擬態して、狩りの瞬間を見定めて、鎌を振り下ろして莉桜ちゃんを捉えた、3匹目の巨大カマキリに。
カマキリが、莉桜ちゃんの首に喰らいついた。
秒で頸動脈を喰い千切られ、彼女の血が噴水のように飛び散り、夕日の光ともに周囲を紅く染め上げていく。
「莉桜ちゃんっ!!!!」
==================================
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!」
食べられる痛みは想像を絶するものだった。
声にならない悲鳴を上げながら、カマキリの頭を両手で必死になって押し戻そうとするが、カマキリの力が強すぎるのと、あまりもの痛みと短時間で大量の血を失っていって、力が入らなくなっていく感覚が私をを襲う。
私のことを子供の頃からずっと守ってくれた大好きな佳鈴ちゃん。
私にはない強さを持っていて、優しくて、いつも側に居てくれた。
私のこの大嫌いな緑色の眼をキレイだと言ってくれた。
意地悪な男の子達がちょっかいを掛けてきたらすぐに飛んできてくれた。
私が龍太郎くんのことを好きだって気付いて、色々とお膳立てもしてくれて、アプローチもさせてもらった。
だけど私は、佳鈴ちゃんになんの恩返しも出来ていなかった。
私のせいで招いたこの状況で、恐怖で動けなかった私を必死になって励ましてくれた。
佳鈴ちゃんに死んでほしくなかった。
だから……………咄嗟に私は佳鈴ちゃんの背中を思いっきり押していた。
バリっ!
カマキリが私の鎖骨に喰らいついた。
意識のあるまま、骨を噛み砕かれて、食べられる。
私の肉と骨を食べ続けるカマキリ。
急速に意識が薄れていくわたしは…さいごのちからをふりしぼって、だいすきなかりんちゃんにむかってさけんだ……。
「佳鈴ちゃん……逃げ…て………………」
カマキリの鎌で獲物を押さえ付ける力は、人間に変換するとおよそ3トンらしいです。