第47話 ホッとする場所で
お疲れさまですよ〜∠(`・ω・´)
今回の話は少し実体験も入ってます。
少し問題ありかもしれませんが、どうかお楽しみくださいませ。
夕方、私は教室の自分の机に突っ伏して頭から煙が上がっていた。
中間テスト対策で何組か教室内で予習している生徒がチラホラ居たが、私は苦手な数学を龍太郎と純也くんの2人掛かりで教えてくれて頭がパンクした………。
なんでこんな難しいのよ〜……
「大丈夫か?」
「オーバーヒートしそう……」
「いやもうしてるじゃん」
ホント数学って何の為にあるの〜?
普通に足し引き掛け割りが出来れば良いんじゃないの〜?
普段使わない部分の脳みそを使って知恵熱が出てる私に、龍太郎は校内の自販機からオレンジジュースを私にくれて、ストローで吸う。
「ぷはぁ~、生き返る〜」
「佳鈴ちゃんってホントに数字苦手だよな〜w」
「小学生の頃から数字は大の苦手だからな」
「もう〜、なんで世の中に数字なんてものがあるのよ〜」
「ははっ、そりゃ役立つからだよw」
勉強出来る人からすればそうなんだろうけどさ………。
教科書やノートを鞄にしまい、私たちは学校を後にした。帰りにスーパーに寄るつもりだったけど、その前にちょっと寄り道する。
歩いて大体30分くらいかな?
ここは昔からこの街に住む人達の寄り道買食いルートがある。
小学生から大学生、社会人の人でも買食いして帰る、私達の街のある種の名物の1つになる。
ちょっとした駄菓子をはじめ、タピオカやクレープ、古い純喫茶の店もまだまだ健在していて、私も子供の頃から色々お世話になってます。
で、その中であるレトロな佇まいの中華喫茶へと入っていた。
『中華喫茶 福来軒』
ここの人とはお父さんと繋がりがあって、小さい頃からずっとある親しみのある場所で、ここの『和龍茶』とお茶菓子がすごくホッコリするの!
だけど………
カランっ
「こんちには秀蘭さ…」
『滚出去,想抢夺配方的贪婪之徒!』
店に入るなり店の女将さんである秀蘭さんが、なにやら二人組の若い中国人にスゴイ剣幕で声を荒らげていた。
『我们这儿没什么东西是卖给们这帮家伙的!!』
『别这么说啊,这个要是量产,绝对会大卖!
求你把这个配方给我们吧…』
『想都别想!!这是我和老公一起打造的独一无二的东西!!
想都别想我会把它交给你们这群财迷!
这里可不是中国!
以为什么都能如你们愿?大错特错了!!』
秀蘭さんのものすごい剣幕に圧されて、二人組の若い中国人は小声で何かゴニョゴニョ話すと、舌打ちをして、軒先に唾を吐いて横柄な態度で店を出ていった。
秀蘭さんはさらに怒って2人に向かって塩を巻いて中国語で捲し立てて、一息つくとようやく私達の来店に気が付いて慌てて笑顔で迎えた。
「あらあら、ゴメンね3人とも、変なところ見せて」
塩を戻して手を洗い、カウンターの席に着くと手早くお冷とおしぼりを私達の所に持ってくる。
「秀蘭さん、大丈夫?」
私はさっきの事が気になり、それとなく秀蘭さんの顔色を伺った。
本人は大丈夫とは言いながら私達から注文を受けた。
とりあえず私達はこの店自慢の「和龍茶」とお茶菓子の「わらび杏仁」を。
龍太郎は「抹茶マーラーカオ」を、純也くんは「黒糖くるみのダックワーズ」を注文した。
程なくして注文したものが届くと、私達は各々手を合わせて頂いた。
どれもこの店独自の品物ですごくホッコリする。
私のわらび杏仁は、わらび餅のプルッとした食感に杏仁豆腐のミルキーな優しい甘さとアーモンドの香りがほのかに香って、そのほのかな口の中の甘さを、琥珀色の和龍茶の軽い渋みが中和して、キャラメルのようなコク深さが濃厚で奥深い味わいに。
「ホッ」
勉強した後の甘い物の中でも、やっぱりコレ好きだなぁ。
龍太郎も純也くんも一息ついてリラックスモード。
「ありがとう、秀蘭さん」
「イイってイイって、こうやって来てくれるだけでもありがたいんだからさ!」
「いやでもいつも思うけど、ホントに美味しくてホッとする味だよ〜!」
「嬉しいこと言ってくれるね!」
純也くんの背中をバンバン叩きながら、さっきとは打って変わって豪快な笑顔を私達に向けてくれる秀蘭さん。
なんだけど……明らかになんか少しやつれている様な気がする。
私の心配そうな顔に秀蘭さんは苦笑いを浮かべたが、だんだんと暗くなっていき、ため息をつきながらカウンターのイスに腰掛けた。
「……少し愚痴っても良いかい?」
秀蘭さんは頭を抱えながら、ここ最近の事を話してくれた。
「高校生にする話じゃないんだけどさ、ここ最近ちょっとね………」
同じ中国人による嫌がらせのような事を受けていると話してくれた。
事の発端は1週間前、さっき揉めていた2人の若い中国人だった。
最初は普通のお客として来てた2人だが、この店の看板商品である和龍茶と、その他のお菓子を工場で大量生産したいという事だった。
でも秀蘭さんはそれを断ると、その日から嫌がらせを受け始めた。
まずは観光客であろう中国人が何人か来店して、カタコトの日本語で注文したのだが、その人達は出てきた品を見ていきなり文句を言い始めた。
中国語で支離滅裂な理由を言って、中国文化を穢すと喚いて、さらにはお金を払わずに店から出ようとした。
その場にいた常連さん達がその中国人を取り押さえて
、たまらず秀蘭さんは警察を呼んだが、取り押さえられている間にも「人種差別だ!」「中国人を迫害するな!」と意味の分からない事を喚いて、警察署でも同様の事を主張をしたが、その日はこってりと絞られて代金の620円を払って釈放したそうだ。
そんな事がここ数日連続で起きていて、コレを嫌がらせと確信した秀蘭さんだけど、立証する為の証拠が無いから被害届も出せないと頭を悩ませていた。
しかもその事がSNSで広まり、今度は関係の無い在日嫌いの人間が店に抗議しに来たり電話で苦情を言ったりして、秀蘭さんの精神は削られていった。
「酷い………秀蘭さん何も悪くないのに!」
「なんだよそれ……」
私と純也くんは顔をしかめたが、秀蘭さんは私達に心配させまいと無理矢理笑顔になる。
大丈夫だとは言っていたが、結構キてるのは目に見えてわかってしまう。
ここの和龍茶もお菓子も、秀蘭さんがお店を出す時に、街の人達と協力して頑張って作った物だという事は、この街に住んでいたら周知の事実。
それらは秀蘭さんの弛まぬ努力によるのものも大きい。
しかもこれには私のお父さんも深く関係していた。
今から30年程前、1990年代に秀蘭さんは日本に出稼ぎに来て働いていた。
でも働いていたお店が違法営業のお店で、当時お父さんがそのお店にガサ入れに入って摘発して、秀蘭とはそこで出会った。
バブル崩壊後の不況期で外国人労働者が増加した時期で、違法不法就労が社会的にも問題視されていた。
普通なら不法就労をしたら即座に強制送還されるのだけど、秀蘭さんはお父さんに泣き付いた。
今でこそ人身取引対策が進んでいるけど、当時は支援制度がほとんど無くて、国際社会から問題提起を指摘されていた。
被害者保護の制度や仕組みはほぼ無いに等しくて、秀蘭さんは他に働けるところが無いと強く訴えてお父さんの頭を悩ませていた。
下手したら職務規定違反になってしまう為に、人情に厚かったお父さんはギリギリの範囲で秀蘭さんを援助する事にした。
と言っても、当時出来るのは弁護士を紹介したり、NGO法人と秀蘭さんを繋いだりして、人身取引被害者と認定してもらう為の活動を受けて働けるようにする事だけだった。
お父さんも個人で行えるギリギリまで手助けして、この街で秀蘭は必死になって頑張った。
でも、当時は外国人…特にアジア出身者への偏見が強くて、私達の街でも秀蘭さんは信用してもらうのは難しかった。
国に帰って働けば良いだろうとも言われたけど、当時の中国では国有企業(国企)の改革が進められ、大量の人員削減が発生。
特に地方都市や工業地帯では、労働者が失業し、再就職が困難だった。
秀蘭さんのご両親はその失業者だった。
逆境に泣きそうになった事もあったそうだけど、秀蘭さんはご両親の為に働き続け、日本語や日本の文化常識、法律を勉強してご両親の為に頑張り続けた。
そして数年働き続けたある日、若くても休日返上で働き続けてきた秀蘭さんは身体を壊して、自室で倒れてる所をたまたま大家さんに発見された。
自身の生活費をギリギリにまで切り詰めて、稼いだお金のほとんどをご両親に仕送りし、結果秀蘭さんは栄養失調になって病院に運ばれてしまった。
個人的に身元引受人になってたお父さんは病院によびだされ、秀蘭さんは点滴を受けた。
困り果てたお父さんに、当時の大家さんご夫婦が助け舟をだしてくれて、経営していた喫茶店で働かせてもらい、休日はしっかりと休む事が出来るようになった。
大家さんの喫茶店で働き始め、街の人達と交流をしていき、徐々に信頼される様になった。
そしてある日、大家さんは高齢で厨房に立つのも厳しくなって来たということで、秀蘭さんは雇われ店長をやる事になり、何か記念に一品作りたいと言うことになって新作を作ることになった。
その過程で、ご近所さんの洋菓子屋さんや和菓子屋さんのアドバイスを受けて、一緒に今の和龍茶やわらび杏仁を作った。
そしてその過程で旦那さんもゲットした。
お相手は大家さんのお孫さんw
旦那さんが出来たと同時に、秀蘭さんのご両親の仕事も見つかった。
今もご両親に仕送りをしつつ、時々中国に帰って元気な姿を見せている。
そんな思い入れの強い品々を大量生産して売ろう話を持ち掛けられた事は、秀蘭さんにとって思い出を踏み躙られる事と同じだった。
「たしかにお金は稼ぎたいよ。
けど私にとってこのメニューは、私が私である証なんだよ。そんな大切な思いまでお金に替えたら、私は金の亡者になる」
だから絶対にこの店でしか売らないと口にし、秀蘭さんはニカッと笑顔を見せた。
カランっ
「いらっしゃい!あら!」
「まいど〜!」
「あ〜あ〜、アンタが来たってことは、また競馬でスッたねw」
「いや、今日は競艇だよw」
「ギャンブルには違いないでしょw」
常連さんが来てくれて笑顔になる秀蘭さん。
さっきまでの少し暗い空気がパァっと明るくなる。
ご飯時だからか、和龍茶とご飯を食べに顔見知りさん達がやって来て店内が賑わい出した。
私達は状況を見てそろそろお会計を済ませようとレジに行こうとした時、野球帽を被ってキャリーケースを引いた1人の女性が来店した。
「いらっしゃい!今お席に………え?」
秀蘭さんが女性客の顔を見ると言葉を詰まらせた。
『你……是雨欣吗!?』
『阿姨……!!』
どうやら知り合いみたいな感じだけど、女性は秀蘭さんの顔を見た瞬間、目から大粒の涙を流しながら秀蘭さんに抱き着いた。
『怎么了,到底怎么回事!?』
『对不起,阿姨…对不起……!!』
『……雨欣?』
『阿姨说得对!
都是因为我……都是因为我……!!』
秀蘭さんの胸の中で泣きじゃくり、店内に女性の泣き声が響き渡り、他のお客さん達も何事か?と困惑し始める。
秀蘭さんもこの状況に困惑しつつも、とにかく女性を宥めようと言葉を掛けるが、返ってそれが女性の傷心に響いてさらに泣かせてしまう。
そんな困ってた秀蘭さんに、龍太郎が声を上げた。
「秀蘭さん、俺が手伝うから、その人を奥に連れて行ってくれ」
「え、そんな悪いわよ!」
「そんな事言ってられないだろ?
ここは俺達にまかせてくれ」
そう言うと龍太郎は鞄を秀蘭さんの自宅に繋がってる扉を開けてそこに置き、手慣れたように予備のエプロンを取って受けた注文の調理に取り掛かった。
私も同じ様にエプロンを身に着けて、お客さん達の接客に取り掛かる。
「………ゴメンね、少しお願い」
秀蘭さんはそう言うと、泣きじゃくる女性と一緒に自宅内へと行った。
中学2年生の時、私と龍太郎は職場体験・福祉体験プログラム一環で、一週間このお店で働いた事があった。
その経験があったことで、龍太郎はこの福来軒のほとんどのメニューを作ることが出来る。
私も当時の記憶を思い出しながら、お店回しを手伝っていった。
「あ!だったら龍太郎、オレなにすれば良い?」
「佳鈴と一緒にお客さんの注文とその片付けを頼む」
「お、ソレならオレにも出来そうだ!」
「焦ってお冷零すなよ?
佳鈴、レジも頼むぞ」
「OK了解!」
少しの間だけど、私達は頑張って働いた。
でもあの女性、一体何があったんだろう?
少し気になったけど、今は目の前の事に集中しよう。
それから2時間後、秀蘭さんは少し目を腫らして降りてきた。
彼女は私達にお礼を言ってお店のお茶菓子を包んで渡してくれてたけど、困った時はお互い様と断って私達は帰っていった。
それにしてもいったい………何があったんだろ…。
これ以上やったらヤバくになる!
ちくしょー!!
仕方がないので、別の所で繋げます。




