第42話 無言の帰宅
お疲れ様ですよ〜∠(`・ω・´)
いよいよ2章も終盤です!
どんな結末になるのか予測しながら見てくれたら嬉しいです。
それではどうぞ!
同日 午後0:20分
朝は晴れていたが次第に曇っていき、お昼過ぎには雨が降っていた。
パティ達年長組は小学校に通い、この時間は給食を食べ、家ではベアードとマリアが、メアとアンの乳児組と一緒にご飯を食べていた。
ベアードがお肉を頑張ってミンチにして、ミートボールスパゲッティをドカ盛りに作って、それをテーブルのど真ん中に置くとメアが目を光らせてお腹を鳴らし、両手でこども椅子に備え付けた小さなテーブルをバンバン叩いた。
「だ〜!ぶ〜!」
「もうちょっと待ってくれよメア、あとはアンのご飯の仕上げだからな」
「早く早く〜♡」
一緒になってマリアもバンバンテーブルを叩き始めた。
待ち切れないメアは抗議しながらだったがちゃんと待ってくれて、ベアードはアンの離乳食を作り上げ、それをマリアに手渡してアンに食べさせてあげる。
茹でたジャガイモとインゲン豆、ニンジンを裏ごしして軽く塩コショウで味を調え、ミンチの残りをさらにミンチにして炒めて軽く混ぜ合わせ、デザートにすりおろしたリンゴピューレを添え。
「出来たぞ。さ、食べようか」
「た〜!」
「ごっ飯だよ〜♪」
小さく作ったミートボールをメアの口に持っていくと、メアは小さな口を大きく開けてベアードのフォークに刺さったミートボールに齧り付いた。
肉の程良い弾力と肉汁に、刻んだ玉ねぎの甘みとトマトベースのソースがマッチして、メアは美味しさのあまりバンバンテーブルを叩く。
そして最近は自分で食べたいのか、不器用ながらにメアは子供用のフォークを使ってミートボールを刺そうとするが、うまく刺せずに少し半ベソをかいてしまうが、そこは主夫のベアードが上手くあやして食べさせていく。
アンもマリアと目を合わせながら食べていき、手足をバタバタさせて美味しさを表現した。
合間に食べながら2人は幼児2人のお世話を頑張った。
2人とも食べ終わり、メアとアンは満腹でお眠の時間。
子供部屋に寝かせて2人はゆったりしていた。
マリアの耳が反応した。
ドムとセツが乗った行った車の音が聴こえて、パァッと笑顔になって家から飛び出して出迎えに行った。
「おかえり〜セツ〜!遅かったね…………え?」
マリアの目が点になった。
いつも綺麗な黒髪のセツの髪が血のように真っ赤になって、眼も青く変化して………。
別人かと思ったが、臭いは紛れもなくセツで、マリアは戸惑い混乱した。
それに………ドムの姿が見えない。
「セ…ツ……?」
「………………」
雨が降り続けるなか、セツは俯いたまま答えない。
いつもなら騒がしく家に入ってくるのに、静かだった事に違和感を感じたベアードも出て来て……そして絶句した。
「セツ……………オマエ………何があったんだ?」
ベアードだけは気付いていた。
セツからドムの魔力を感じ取っていた。
「…………ごめん……………向こうで、泣きはらしたはずなのに…………………」
拳を握り締めて爪が食い込み、血が滲みでている。
雨と共に、セツの涙は土の上にポタポタと流れ続けた………。
事の顛末を聞き、マリアはショックのあまり運び込んだドムの遺体の前で泣き崩れ、ベアードは普段ドムが飲んでたウイスキーのボトルを開けて、彼の傍らでソッとウイスキー入ったグラスを傾けた。
いつか来るとは思っていたが、まさかそれが今日だとは思ってもおらず、ベアードは悲しみに暮れた…。
セツもかなり堪えていて、彼女はシャワーを浴びながら泣いていた。
子ども達にも影響はあった。
パティはワンワン泣き続け、マイクとボブも身近だったドムの存在は大きく、彼の死に涙を流した。
====================================
3日後、1955年8月15日
セツ達は身内だけでドムの葬儀を執り行い、ドムを見送った。
夏だというのに、この日だけは神様も彼を迎えているかのように天気は穏やかに晴れた。
居間の中央に置かれた簡素な木製の棺は、粗末な花束と一本のろうそくで飾られ、家の中は重い静寂に包まれていた。
窓の外では、対日戦勝記念日の花火が遠くの町を彩っていたが、厚い黒いカーテンがその光を遮る。
黒いドレスに身を包んで黒いベールの下で震えるセツと、涙と鼻水で顔がグチャグチャになったマリアに寄り添うベアード。
パティは昨日泣き腫らして必死に涙を我慢して、マイクとボムも2人並んで涙を堪えていた。
ドムの事情を知る牧師を呼んで短い祈りを行い、私とベアードで家の直ぐ側に掘った墓穴にドムの棺入れ、しっかりと埋葬した。
「全能の神よ、われらの兄弟ドミニクを御手に委ねます。
彼は苦難の中にあっても愛と勇気を示し、家族を守りました。
この日、勝利の響きが町に満ちる中、われらは静かに彼の魂の安息を祈ります。どうか彼に永遠の平和を与え、この家族に希望と力を授けたまえ。
アーメン」
祈り終えると、バシネットの中で寝ていたアンが目を覚まし、彼女の泣き声が青空に響き渡り、連鎖するようにメアも泣き出して、彼女たちもドムを見送るようにして泣いた…………。
葬儀が終わり、通夜も家族のみで行った。
マリアも子供達もドムの葬儀が終わると、軽く食べた後、みんなでお風呂に入って早々に寝てしまった。彼女らにとっても今日は堪えたようで、涙を流しながら眠りについた。
セツは黒いドレスのままドムの墓の前に立ち、手にしていたドムの壊れたリボルバーを彼の墓に添えてタバコに火をつけた。
ドムにお土産として買ってきた現地のクレティック·シガレット。
彼が気に入って吸っていて、一本は彼の墓前に。もう一本は彼を偲んでセツが吸った。
「ドム………」
セツは彼に言葉を紡ごうとするが、言葉が見つからずに黙っていたら、ベアードがイスとドムのウイスキーを持って隣に座った。
「一緒に飲むか?」
差し出されたショットグラスを受け取ると、セツはグイッと一気に飲み干す。
濃い琥珀色が仄暗い光に映え、グラスを傾けるとオークとバニラの甘い香りにほのかな胡椒の刺激が混じる。
一気に飲み干す瞬間、強烈なアルコールが舌を焼き、喉を熱く突き抜ける。
スパイシーなオークとトウモロコシの甘さが渾然一体となり、胸の奥で燃えるような余韻が広がった。が、やっぱり辛い。
「よくワイルドターキーをラッパ飲み出来たよな」
「昔からケンタッキーバーボン自体好きだったからな」
焼ける感覚に浸りながら、セツとベアードはドムの前でショットグラスを傾け続け、ドムとの思い出を語り合った。
もうかなり昔、広いアメリカ国土の何処かにあるドワーフの集落から飛び出して街に出てきたベアードは、自身の無知と無謀で裏の人間にカモられて、かなりの借金に苦しんでいたそうだ。
集落で培った物作りの技術はある程度重宝されたが、その殆どは銃器や特殊なナイフ等を作るために使われ、このままで良いのかと悩んでいた。
そんな時に襲撃に巻き込まれて、その襲撃者の中の一人であったドムと出会った。
ベアードはドワーフの中でも魔力を使ったり感知する事が多少出来て、彼はドムが普通の人間じゃないと見抜き、彼はドムに自分と取引しないかと持ち掛けた。
当時、ドムも己の魔力に耐えうる武器を作れる人間を探していた為に渡りに船と思い、2人はコンビを組んでコレまで暮らして来た。
マリアは荒野でキャンプをしていたら子狼の姿でテントの中に入り込んでベアードと一緒に寝ていたらしい。
しかも最初は汚れで毛色がくすんで茶色く見えて、最初はアカオオカミの子供かなんかだと思っていたが、洗ってみると金色の毛で、しかも水の冷たに驚いて人の姿になっ威嚇した。
まさか人狼の中でもさらに希少な金人狼だったなんて夢にも思わなかったと、それが自分の奥さんになるだなんて微塵にも思わなかったとベアードは笑って言った。
「あの時は2人でビックリしたんだよ。子供だったマリアがいきなり走り出してさ、追いかけたらアイツ1人でシロオジカを仕留めててw」
「へぇ」
「冬に入る前にはバイソンまで1人で仕留めて、アイツのバイタリティーの高さには恐れ入ったよw」
「バイソンを1人でか?そりゃスゴイな」
過去に過ごしてきた時間を語り、ショットグラスに注いだウイスキーで喉を潤して、セツは自分の知らないドム達の一面を知ることが出来た。
かなりの量を飲んでベアードは顔が真っ赤になり、セツは悪魔になったせいか、人間でいた頃よりもずっと酒が強くなって殆ど素面。
今ならこのワイルドターキーが何本でも飲めそうだと感じていた。
ベアードはあまり酒が強くない事もあり、船を漕ぎ始める。そんな時、ベアードは少し思い出した事があった。
「そういえば、珍しくアイツが酔ったときにな、少しだけ過去を語った事があるんだよ」
アメリカ開拓時代、1850年代。
まだアメリカが黒人奴隷を使役し、売買していた時代。ドムは悪魔憑きになる前、彼はその奴隷だったらしい。
彼は奴隷として売られ、とある家族の主人に買われ、そこで地獄の体験をした。
最初はただの丁稚奉公として働きながら、生活のための基礎と教養を教えられていた。
実は、その家庭はクエーカー教徒だったそうだ。
クエーカー教徒とは、17世紀のイングランドで始まったキリスト教の一派で、アメリカ開拓時代にも大きな影響を与えたキリスト友会だ。
クエーカー教徒は、誰もが心の中に「神の光」を持つと信じ、教会の儀式や牧師を必要とせず、静かな集会で神と直接対話する人たちである。シンプルな生活を大切にし、平等を重んじ、平和主義者で戦争や暴力に反対し、男女平等や奴隷制度廃止を早くから支持した進歩的なグループだ。
派手な服や権威を嫌い、誠実で質素な生き方を好む。
ドムは子供の頃、その家庭に命を救われていた。その家族の娘さんとも仲良くなり、彼女とともに家庭教師に勉強を教えてもらっていた。
このまま平和な時が訪れると思っていたが、それはある日突然壊された。
当時、クエーカー教徒を敵視していた清教徒の一部と、彼等と利害が一致していた植民地当局の連中に襲撃され、そして拉致されたのだ。
清教徒とは、厳格なカルヴァン主義に基づく社会秩序を重視し、クエーカーの「内なる光」や儀式を否定し、女性の積極的な布教活動などを異端とみなしていた。
カルヴァン主義とは 神の絶対的な主権を強調し、人間の救いは神の意志によって決まり、善行や努力では変わらないと信じ、神が誰を救うか最初から決めているという考え方だ。
ここで言う罪とは原罪のことで、アダムとイヴが禁断の果実を食べた事によって知恵をもたらした事。
人間は生まれながらにして罪人だと考えを強く信じ、厳格な道徳や宗教的規律で「罪深い自分」を抑えようとした考え方だ。
1656年頃から、クエーカーの布教者に対して鞭打ち、投獄、耳の切断、追放などの罰を課し、1659年から1661年には、4人のクエーカー教徒が絞首刑に処された記録もあり、清教徒の敵対は、特定の「反クエーカー組織」というより、植民地政府や清教徒教会の指導者による統治の一環だったという。
そして植民地当局とは、アメリカ開拓時代にイギリス、または他のヨーロッパ諸国が北アメリカの植民地を統治するために設置した行政機関や指導者のことだ。
イギリス王室や議会から任命された総督、評議会、裁判官、役人などで構成され、植民地の法律や秩序を管理する、いわば「ボス」のような存在。
マサチューセッツ湾植民地やバージニア植民地など、それぞれの植民地に独自の当局があった。
イギリスの法律や植民地独自の規則を適用し、税金の徴収、土地の分配、犯罪の処罰などを担当し、宗教の管理……宗教的規範を守らせ、異端や反体制的な者を罰した。
政治に宗教観を持ち込めばロクなことにならない事態がドムの身に起こり、彼等は連れ去られ、拷問を受け、ドムの目の前で殺されていった………。
(神様………助けて…!!!)
大切にしてくれた恩人である家族が無残に殺され、ドムは自身の中にある「内なる光」を信じて神様に祈りを捧げた。
そして、その祈りに応えたのが………まさかの悪魔だった。
気が付いたら、自身を攫った連中はバラバラに引き裂かれていた。
自身の手は血塗れで、口の中は鉄の味がし、ドムは吐きながら傍らのは家族の亡骸の前で泣き続けた………。
ドムの壮絶な過去にセツは言葉を失い、妖傷のある胸に手を当てた。
ベアードもそんな過去があったとは思いもよらず驚いていたら、ドムはさらにこんな事も言っていたと話した。
「セツ…………アイツ、似てんだよ…俺を家族として迎えてくれたお嬢………フェイス嬢に……」
酔ったドムは自身の手を見ながら感傷的な表情で続ける。
「アイツを拾って……俺のミスでとんでもない業を背負わせちまった…………。
俺自身もそうだが、背負った物はあまりにも重い。だから少しでもセツを強くするのが……俺の役目なんだと思うんだよ」
普段感情を表に表さないドムが、この時だけポロポロと涙を流しながら口をこぼしたとベアードが言う。
セツは初めて聞くドムの本音に目頭が熱くなり、彼女は涙を流しながらドムが眠る墓を見ながらウイスキーを飲み干した。
そして最後にドムはこうも言っていた、とベアードは語った。
「セツは、俺の自慢の娘だ」と。
それから怒涛の日々を送った。
ドムと同じ様に両肩に魔石を混ぜ込んだ刺青を入れて銃器を仕舞えるようにし、ベアードにセツ専用に銃器をカスタマイズしては壊しを繰り返して大型拳銃を手にし、彼女はコレまで以上に仕事をした。
養父の背中を見て育った彼女は、いつしか「死の神風」から「弾丸の魔女」と呼ばれるようになり、仕事を熟しつつ、養父の命を奪った人食いを探し回った。
そして現代、70年経ってようやく仇の名前がわかった。
パチパチ………パチ…パチチ………
ドムに拾われて、銃器の技術を叩き込まれて、悪魔を受け継いで、ようやく実を結んだ。
セツはタバコを吸い、煙を吐きながら自身が歩んだこれまでの人生を振り返り、ここで生き残った事の意味を考えた。
まだ死ねない。
少なくともドムの仇を討つまでは……。
それが多分、龍太郎と佳鈴達に生かされた答えの一つだとセツは結論付けて納得した。
「………………」
それでもまだ少し心がモヤッとしたが、セツは携帯灰皿でタバコの火を消して、日本の夜風に当たりながらゆっくりとし、もう一本タバコを吸ってからリビングに戻り、もう少し身体を休めることに務めた。
そして1週間後………
ドムがジョンソンの性を名乗ってるのは、当時ドムを引き取ったクエーカー教徒の苗字がジョンソンで、その繋がりを保ちたい為にドムはジョンソンの名を名乗っています。
次で2章ラスト!




