第21話 名無し
今回は龍太郎での視点になります∠(`・ω・´)
〜龍太郎Side〜
渾身の力を込めた俺の一閃が、ついに奴を捉えた!
背骨を両断し、臓器にも致命的なダメージを負わせられた。
ギリギリ心臓は外してみせやがったが、肺を片方斬られて、口から血を吐いて仰向けに倒れる暗殺者。
俺は、ようやくまともに入った一撃に緊張の糸が切れ、眼が元の色に戻り、片膝を着いて息を切らした。
「龍太郎!!」
佳鈴が飛び出しそうになるも、一歩だけ踏み締めて、俺の名を叫んだ。
カマキリの時の二の舞を踏まないように、感情をグッと抑えてはいたが、人外の戦闘を目の当たりにして、気が気でなかったのは言うまでもない。
俺は刀に付いた血を払い落として、刀を鞘に納刀し、フラフラしながら立ち上がって、暗殺者を見下ろした。
奴も夥しい量の血を流してはいるが、息はしている。
背骨を断ち斬られているせいで、立ち上がれないではいるが、奴は笑っていた。
「ハハっ………やるなぁオマエ」
視線だけ向けて、血を吐きながら笑う奴に、俺は再び刀に手を掛けるが、奴は首を振って戦意がないことを告げた。
背骨を斬られて、下半身が動けないで状況で撃っても意味がない。
彼女は腰の赤い缶からタバコを取り出して、火をつけて喫煙しだす。
当然だが、肺を斬られているから、痛みでゲボってしまう。
「痛って〜……肺も斬られてたんだった……」
つい癖でタバコを吸ってしまった様子だが、それでも奴はニコやかにしていた。
「そんな状態でよく笑ってられるな? 俺達を殺しに来たクセに」
「あ?最初に言ったぞ。アタシは、お前と戦うよう依頼をされてたって。お前達を『殺せ』って依頼はされてない」
未だに警戒を解かない俺に、奴はそう釈明した。
最初に奴がそう言ってたのは覚えていたが、売り言葉に買い言葉だと思ってた。
が、それよりも佳鈴を誘拐されていた事で、頭に血が上っていた俺は信用していなかった。
だが、俺の目の前で地に伏している赤い髪の暗殺者の目は、清々しいまでに澄んでいる様に見えた。
俺はこの魔女に、一体誰が俺達を狙ったのかを聞き出そうとした。
だが、奴もこの依頼が、前金を既に振り込み済みで、受けざる終えないものだったと伝えて、俺は「そうか……」と、一言零しただけだった。
だが、奴は「ただ…」と、一言付け加えた。
「どうもこの依頼者は、お前が妖魔狩りをしている鬼だって事を知っていた。
たぶん、アンタの身近の人物じゃないか?ご丁寧に強力な人払いの結界に、この周辺をドローンで撮影もしてたしな。それに、アンタの女を誘拐する事になったのも、依頼主からの指示だったしな」
「…………」
俺は思考を巡らせた。
自分の事を……鬼と知っている身近な人物は少ない。
そしてどの人物も、わざわざこんな暗殺者に頼んでまで成長を促す為に、戦わせるような考えの者はいない。
それどころかする理由が無い。
いくら俺に封印があって、ソレを解き放つ為といえど、そんな考えを持つ奴は…………。
「龍太郎……………」
二人で何を話しているのか気になったのか、佳鈴と朱里が歩み寄って来た。
「ねぇ、その人…大丈夫なの………?」
近くに来て最初に出た言葉が、暗殺者を心配する言葉だった。
銃を撃たれはしたが、怪我という怪我は無かった。
そして近くに来て、奴の酷い傷口と出血量に気付いた佳鈴は、奴を心配した。
奴はちょっと意外そうな顔をすると、タバコの灰がタイミング良くずり落ちた。
「ははっw なんだ?心配してくれるのか?アンタに向けて、銃を撃ったヤツだぞ?」
皮肉交じりに笑いながら返す暗殺者だが、佳鈴は自分の胸に両手を抑えて、あの時の恐怖を少し思い出した。
思い出したが………
「でも、殺すつもりなら……最初から、簡単に殺してますよね……?」
「…………………」
「だから、その………えっと…………」
佳鈴は言葉が思い浮かばず詰まってしまって、どんな風に言って良いのか、分からない様子だった。
そんな佳鈴に対して、奴はジッと彼女の眼を見つめていた。
(…………………………)
かつての記憶が甦る。
まだ奴が日本に居た時、気弱ではあったけど、芯が強い弟の事を。
何故今になって、そんな事を思い出したのかは分からないが、奴は佳鈴と弟のことを重ねてしまっていた。
自然と笑みが零れた。
「悪かった。アンタを撃ったこと、謝るよ」
「……え?」
奴は自分の非を認めて、佳鈴に謝罪した。
「……いくら仕事だろうと、依頼主の指示だろうと、蹴っておくべきだったな、この依頼」
撃たれて怖い思いをしたはずなのに、血を流して倒れ込んでる暗殺者を見て、その心配をする佳鈴。
奴も日本人ではあるが、長い間、日本から離れてたせいか、それとも血生臭い所にずっと居たせいかは知らないが、この魔女は、久し振りに、心が少し綻んだ。
「心配してくれて、ありがとな」
パチパチとタバコの弾ける音が小さく響く中、口元だけ笑った弾丸の魔女。
まるで、奴の命の灯火が消えゆきそうに思えた佳鈴は、奴を目の前で殺された幼馴染みと重ねて見てしまった。
「だめ………死なないで……」
不意にそんな言葉が、涙と共に漏れてしまっていた。
佳鈴の中で、死は酷いトラウマになっていた。
目の前で親しい人が殺される。
そんな経験なんて、通常日本で起こり得る事は殆ど無い。
だが、佳鈴の経験したアレは、立ち直るまでにかなりの時間を要した。
故に、死に対してのトラウマが呼び起こされたんだ。
たとえ自分が撃たれたにしろ、佳鈴にとっては、目の前で人が死ぬ事が、耐え難い苦痛となっていた。
「死んだら………何もできなくなっちゃう………だから…………」
その事に、本人は気付いてはいない。
故に、言葉に詰まってしまう。
「………………」
俺もその辺りを理解している。
俺はただ黙って、佳鈴の様子を見ていた。
そして奴は佳鈴に対して、笑って「安心しな」と言う。
「魔女はちょっと斬られたくらいで、死にはしねぇよ」
時間さえ経てば、大凡1日でこんな傷は回復する。
俺が同じ様にされても同様であり、人外の回復力は、人間よりズバ抜けている。
だから安心しろと、奴はタバコを吸いながら佳鈴を安心させようもするが、血を流していることで説得力が皆無だ。
俺もかなりの血を流して、お互いに血塗れ。
「…………はぁ、アンタ達二人とも、血塗れなクセに、どこをどうしたら安心なんて言えるのよ」
( ´Д`)=3←こんな顔で、ヤレヤレと言った感じで、朱里が割って入ってきた。
チラッと、俺とアイコンタクトを取り合う。
「特別サービスよ、普段なら敵相手にこんな事しないんだから」
「良いのか?一応、まだ武器持ってるんだが?」
「こんな空気でアンタを放って置いたら、私はただの卑劣漢よ」
奴を警戒していて、ずっと佳鈴の側で結界を張り続けていた朱里が、結界を解いて奴の側まで寄って、不服そうな顔をしながら、治療術をかけ始めようとした。
「泣けるねぇ、ヒロインの気持ちを汲んで、敵だった相手を治療する。イイ話じゃないか!」
「「「!!??」」」
「え……………?」
突然、ソイツは現れた。
まるで幽霊の様に突然、佳鈴の肩と腰に手を回して、まるで抱きしめて上げているかのようにソイツは現れた。
誰も気付かなかった。
その男は、身なりはホストのようで、眼鏡をかけて知的でチャラついた雰囲気を出しながら、それでいて……それ以上に不気味だった。
キラキラしていて、だがどこまでも、人を奈落の底へと引きずり落とそうとする、危険極まりない空気が、佳鈴を中心に、その場を包み込んだ。
「まずは、封印解除おめでとう龍太郎くん♪ キミが強くなってくれたおかげで、オレちゃん嬉しくて、涙がちょちょ切れちゃうw」
怖気が全身を包み、鳥肌が立って、佳鈴は、息をすることすら忘れる程に恐怖した。
(なんだ……コイツ、いつ現れた? それになんだコイツの歪な力は!? なんなんだコイツの身体は!?)
暗殺者は魔眼で、その男の異常なツギハギだらけな人外の力に驚愕した。
身体の電気信号も異常過ぎる反応をしていて、背筋が凍るような感覚に陥った。
「それにしても、佳鈴ちゃんも大人の身体になってきたねぇ〜♡
いい具合に、おっぱいも実っててさ♪」
朱里は全身から冷や汗を流して、「なんでここにコイツが!?」と、心の中で危機感を抱くが、目の前の男が危険な存在だと知っている故に、下手に動くことが出来ず、置き物のように固まってしまっていた。
唯一動けたのは………。
「龍太郎くんは味わったのかな〜?w
んじゃどれどれ、オレちゃんも味わってみようかな〜♪」
肩と腰にまわした腕の間に挟まった佳鈴の胸を、男は上下に揺らして楽しむ。
下卑た表情した男は、佳鈴の肩から手を離して、アイツの胸に手を伸ばそうとした。
だが、その手が届くことは無かった。
紅い眼を光らせ、鬼の形相をした俺の鋭い突きが、男の額に向かって放たれた!
男は俺の突きを、いとも簡単に避けて、佳鈴から消える様にして離れた。
「ぷはっ!!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
男が離れた直後、息を忘れる程に恐怖していた佳鈴が息を吹き返し、その場に崩れ落ちる。
「おやおや〜? ずいぶんと鋭いもんが飛んでくるねぇ?
もしかして、もうお年頃だから、カラダの関係でも出来てたかな?
だったら、ネトラレしようとしてゴメンね~w」
どこまでもフザケて、相手を嘲笑うかの様な言動をする男。
「ナナシーーーーーーっっ!!!!」
激情に駆られ、鬼の力を全解放して俺は、ナナシと叫んだ男に向かって突撃していった!
もうちょっとだけ、埠頭での戦いが続きます∠(`・ω・´)




