第18話 鬼の力 悪魔の力
龍太郎の刀を水平に構るは、正眼の構えをベースに切っ先を相手に向けていると思って頂いたほうが想像しやすいと思いますのでよろしくお願いしますm(__)m
「龍太郎っ!!」
「佳鈴!伏せろっ!!」
私に向けられた銃口が火を吹き、凶弾が真っ直ぐに飛んでくる。
驚いている私には何かを考えられる間もなく凶弾を見つめるしか出来なかった…………だが、弾は私から数cmのところを飛んでいき、倉庫の壁にメリ込んだ。
また殺されると思っていた。
龍太郎もそう思っていた様子で、目を見開きながら私を見て、朱里さんも結界を張ろうとしていたところ間に合わず…といった顔をしていた。
「今のでお前の家族は死んでいたぞ?」
挑発するようにセツが言い捨てる。
「お前、今の状態で私に勝てると思ってたか?全力を出していない鬼の子一匹に遅れを取るほど「弾丸の魔女」の名は伊達じゃねぇぞ」
彼女の台詞に龍太郎は苦虫を噛み潰した様子でセツを睨む。私には状況が分からなくてどういう意味で言ったのかは分からないけど、分かるのは龍太郎が本気で戦わないと私の命は無い、と脅しているように見えた。
朱里さんも苦虫を噛み潰したような顔をしながら2人と周囲の様子を観察していた。
(龍太郎がここまで手傷を負うなんて…………コイツ一体どんなことしたのよ?)
私を解放する為にちょっと離れてただけの時間で周囲を半壊させるほどの激しい戦闘を繰り広げて、互いに血を流して、龍太郎はお腹から大量出血。
状況は良くない。
だが、龍太郎は紅い目を光らせて立ち上がった。
「少しはやる気になったか?」
セツの問に龍太郎は答えず、彼は黙って刀を水平に構えた。そしてそこから右足を引いて半身になり、剣先を後ろに下げた。
脇構えと呼ばれる下段の構えだ。
「すーっ、はーっ」
深呼吸をし、荒ぶっていた己の心を落ち着かせて集中すると、初夏近いのに私は急に肌寒さを感じ取った。
その寒さに朱里さんはハッとした顔になり、私の前に飛んで結界を張った。すると肌寒さが急に消えた。セツもその肌寒さを感じ取っており、彼女は納得した表情をしていた。
私は何が起きているのか分からず朱里さんに聞こうとするが………
「佳鈴ちゃん、今から絶対に何があっても私より前に、結界から出ちゃダメよ。死ぬからね?」
真剣な表情でそう言われ、困惑しながらも私は朱里さんに頷いて龍太郎の方へと視線を戻すと、彼の刀が薄っすらと…淡い紫色みたいな光を帯びていた。その淡い光は刀の刃紋の形を変えて、まるで炎のような姿へと変わっていって、見ているだけで寒気のような恐ろしさを感じてしまう。
朱里さんが前に出るな、結界から出るなと言った理由はコレだったの…?
龍太郎の持つ人外……鬼の力を垣間見て私は恐怖を感じてしまう。
だがその力を向けられているセツは少し笑っていた。
「なるほど、思ってたよりも相当な力を持っているな。来いよ」
挑発しながらまた能面のよう表情で大型拳銃を構えるセツに、龍太郎は紅い眼を光らせながら一足飛びで急接近して逆袈裟に斬り上げた!
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セツは少し驚いていた。
何らかの理由で、目の前の鬼は力を使いあぐねていると思っていた。まだまだ荒削りで武器のみに力を纏わせているが、恐らく龍太郎はこの力を全身に纏うことも出来るはず。
そう思っていたが、龍太郎が一足飛びで急接近してきたのを見て、それは勘違いだと解った。
セツの魔眼は捉えていた。刀だけでなく、龍太郎は足の裏に鬼の力を集中させて踏み込む力を強化していた。
そして彼の鬼の力が、セツの思ってた以上にピーキー…高性能故に扱い難いものなものだと逆袈裟斬りを躱した瞬間に悟った。
(似ているな、私の…悪魔の力と……)
彼女はもう一段階、ギアを上げることにした。
魔力を大型拳銃に流し、先程よりも強力な魔力を込めた弾丸を放つ。龍太郎は斬撃と打撃を組み合わせた連撃を浴びせるが、セツもガン・カタで捌いて銃撃と打撃の連撃と激しい戦闘を繰り広げる。
剣戟音と銃声が混じり、流れ弾と衝撃波が発生してもはやこの場は災害の中心の様な状況だ。
セツの力もまたピーキーであり、どんな力も使い続けなければ決して己の力にすることは出来ない。この鬼の子と戦うことを依頼した者は、恐らく彼の事をよく知っている人物。そしてこの鬼の子が強くなる為に、彼と同じ様な力を持つ私に依頼が来た。
ならば、この鬼の子が力を使わざる得ない程度の強さで戦い続ければ良い。
「くっ…!!」
龍太郎の額に汗が流れる。
武器を振るう力も無駄な力が少し出てきている。
まだ短時間程しか扱えないのか?
セツの魔眼には龍太郎が刀を握る手にも鬼の力が纏っているのが視えた。
ここからさらに引き出すにはアレを使うか…?
悪魔の力と知識を使ったシンプルな一撃を放つ為に、セツは龍太郎の風穴の開いた腹部を蹴り込んで距離を取った。
龍太郎の背中には、結界を張っている彼の家族が正中線になっている。
さあ鬼の子、お前はどうやって切り抜ける?
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龍太郎は焦っていた…。
凶悪なスラッグ弾で内臓を傷付けられて激しい痛みを耐えながら、龍太郎は鬼の力を使ってセツと接近戦を繰り広げているが、ここまでしてもまだセツとの差を埋められない。
まるで彼に鬼の力の使い方を手ほどきしたあの二人のように底が視えない。
焦りと精神的に追い詰められて鬼の力が手に漏れ出ている事にも気付いていない状態で、セツとの接近戦は熾烈を極めている。
刀を振り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い、殴り、蹴る。
どれもセツに致命の一撃を入れるにはまだ遠い。
だが今踏ん張らないと、後ろにいる佳鈴の命が危うい。龍太郎は二度と家族を失いたくない為に、鬼の力を扱うことに注力してきた。
だが、龍太郎が秘めている鬼の力は想像以上に強く、その力で己を大きく傷付けてしまう事があった。
なので龍太郎には鬼の力を抑制するための封印術が施された。その封印は全部で4つ。
①体の成長に伴い自然に外れるもの。
②と③は、才能の壁を越えるが如く、己の力で打ち破る為のもの。
④は、先の封印全てを解放することと、鍵となるものがあるのだが、龍太郎にはそれが何なのかは知らない。
手ほどきをした二人日く、『封印を破ってからの話』だそうだ。
龍太郎は15歳の時に①の封印は解けている状態であり、馴染んできてはいるが鬼の力はとんでもないくらいに神経を使う。
過去、扱いに失敗して目や耳、鼻からかなり血を流してめちゃくちゃな頭痛を何度も引き起こした。今も正直言って頭がガンガンしている。そんな状態での戦闘故に冷静さを欠くことになり、龍太郎はセツにソードオフで撃たれた腹の傷口への蹴りに対応しきれずに吹っ飛ばされてしまった。
距離が出来てしまい、また銃撃が来ると構えた時だった。セツの銃口から魔力以外の何かの力を感じ取った。
朱里も感じ取ったらしく、目を見開いてセツの銃口に目をやる。
なんだ……?こんな感覚の力は感じたことは無い。コレは一体……!?
背中に冷や汗が流れる。佳鈴と朱里が正中線上にいるために避けることは出来ない!
ヤバいと感じた龍太郎はセツに近寄らず、その場でなんとかすることを選択して刀を構えた。龍太郎の判断にセツが口元を緩ませてつぶやく。
「アタシの十八番だ、対応してみせろ!」
セツが大型拳銃の引き金を引いた。
「魔電瞬撃砲!」
撃った瞬間、弾は既に龍太郎の刀に直撃していた。弾道が全く見えなかった。しかも今まで撃ってきていた弾丸と違い、威力がケタ外れに強い!!!
刀に纏われた鬼の力と弾丸に込められた悪魔の力が衝突合い、ギャリギャリと金属音のような音が埠頭全体に響き渡る。
「グッ…アァァァァっ!!」
歯を食いしばり、必死に耐える龍太郎。たった1発の弾丸がどうやったらここまで……っ!!!
たった1発の弾丸に耐えることしか出来ていないこの状態で龍太郎は目を見開いた。セツが追加の魔電瞬撃砲を撃ってきた!!
1発でもキツイのにもう1発……2倍の威力が龍太郎を襲う。
ピキッ…
今扱える限界にまで鬼の力を使っている龍太郎をさらに弾丸が降り掛かる。
3発、4発、5発………さらに追加で撃たれ、龍太郎はもう限界にきていた……。眼と耳、鼻から血を流し、頭の痛みで意識が遠くなってしまいそうになる。
ピキッ!パリっ……パキっ!
飛んでしまいそうな意識のなか、走馬灯のように過去の記憶が掘り起こされた。
高速道路の柱が軒並み折れ、あちこちで火災や爆発が起こり、そして龍太郎の腕の中で胸に穴の開いた佳鈴…。
バキっ!!!
………ふざけんな。俺が……佳鈴を…………守るんだ!!!
バキバキっ!!!!
もう二度と失ってたまるかっ!!!
家族を奪われてたまるかっ!!!
佳鈴を殺したアイツの息の根を止めるまで、死んでたまるかぁァァァ!!!!!!
バキーーーンっ!!!!!
龍太郎に施されていた封印が解かれた。
自分の頭の中で想像出来ても、コレを読んでくださってる人達も同じではない。少し配慮が足らなかったと実感しました。
これからも精進します!∠(`・ω・´)