第12話 復帰
佳鈴は夢を見ていた……。
子供の頃、二人で一緒に拾ったサビ子猫、グラピーのお世話を頑張っていた。
龍太郎も一緒にお世話して、私達はグラピーがミルクを飲んで、遊んで、トイレしてとその一挙手一投足に悶えていた。
猫じゃらしで一緒に遊んでた時も『ニャンニャンいうまでとまりましぇ〜ん♪』と音頭を取りながら莉桜ちゃんと遊び、そして電池が切れたかの様にみんな一緒に寝るということを繰り返してた。
やがてグラピーも大きくなって、猫じゃらしにも反応しなくなっても、私達の前では喉をゴロゴロ鳴らしてスリスリして、私達の癒しになってた。
幼少の頃の夢を見ていた佳鈴は目を覚ました。
懐かしい記憶が蘇り、寝覚めは悪くない。
いつもと違うとしたら、それは私の隣でグラピーが一緒になって寝ている事だろう。
莉桜ちゃんの葬儀から数日、おばさんの計らいで少しの間グラピーを私のもとで預かることになった。
グラピーのおかげか、私は少しづつ元気を取り戻していった。
リビングではいつも通り、龍太郎が朝ご飯を作ってくれていた。
「おはよう龍太郎」
「おぅ、起きたか」
いつもの優しい味噌汁の匂いが鼻腔をくすぐり、私は味噌汁に口をつけた。
今日は麩の味噌汁だった。
そして龍太郎の足元にはグラピーがちょこんとお座りをして龍太郎をジッと見ていた。
(グラピーの無言の圧力w)
「ほら」
龍太郎はキャットフードに塩分控えめの手作りのウェットフード、ササミのほぐし身とイワシのつみれを混ぜてグラピーに差し出す。
グラピーはその香りに食欲を刺激されてガツガツと勢い良く食べ始めた。
もう12歳くらいのおばあちゃん猫なのに凄い食欲。
そしてもう一人、食欲の権化が眼をこすりながらやってきた。
「龍太郎〜おはよう〜」
「おぅ」
手のひらサイズで空中を飛びながらリビングの窓から入ってきたのは朱里さんだった。
かなりゲンナリした様子で早速龍太郎のお味噌汁を口にする。
「ぷは〜っ!効く〜!!」
「アッチでどれだけ飲まされたんだ?」
「ん〜?まぁいつも通り、60升くらいは飲まされたわ。もう勘弁してほしいわよ〜」
たぶんお酒の事だと思うけど、60升ってとんでもない量よね?
それに朱里さんってお酒飲めるんだ……。
全然そんな風に見えない。
「龍太郎!おかわり!」
そんなこと考えてたら朱里さんはアッと言う間に白ご飯とおかずと味噌汁を平らげしまった。
初めて見た時はあまりにも早すぎて食べたもの全部吹いたなぁ。
「ほら」
「ありがとう〜♡」
ホントにあの小さい身体にどれだけ入るのか…………。
ちなみに今日のおかずは卵焼きの大根おろし乗せと鶏肉のカリカリ焼き。
「ご馳走様〜♡ んじゃ龍太郎、おやすみなさ〜い」
「待てコラ」
龍太郎が朱里さんの首根っこ掴んだ。
「お前食ってすぐに寝ようとするな」
「うえ〜?なんでよ〜?」
「忘れたのか?お前人のベッドで食って寝たせいでゲロまみれにしたの覚えてないのか?」
「あ…あれ〜?そうだっけ〜???」
「逆流性食道炎っつうんだよ。俺等が登校までここで待ってろ」
そういえば数日前に龍太郎布団のシーツ洗ってたけど、アレって朱里さんのせいだったんだ………。
私はご飯を食べ終わると、自室へと向かって着替え始める。
ここ数日、莉桜ちゃんの件で学校には行けてなかった。
けど、そろそろ行かないと………莉桜ちゃんの為にも、私が元気にならないと安心出来ないと思うし。
久しぶり着た制服は龍太郎が丁寧に洗濯して畳んでハンガーに掛けてくれていたおかげでシワ一つない。
制服に着替えてトイレを済ませて、私はお母さんの遺影に手を合わせた。
「いってきます」
そして玄関で待っていた龍太郎と合流する。
「もう大丈夫なのか?」
「うん……みんなには心配かけちゃったけど、莉桜ちゃんとグラピーのおかけでなんとか……」
グラピーと莉桜ちゃんが残してくれた猫のピアス。
私にとって心の整理をするのに時間は掛かったけど、このままでもダメなのは分かっていた。
だから今日、今日から頑張ることにした。
「龍太郎、今日から……またよろしくね?」
塞ぎ込んでいた間、龍太郎は黙って私のお世話をしてくれていた。
余計な事を言わず、ただひたすらに消費しているだけの私を、彼はずっと支えてくれた。
だからその感謝の思いを口にしたら、急に恥ずかしくなってしまった。
龍太郎はただ一言「あぁ」と言って、私の背中をジッと見つめていた。
くれたけど………………
「佳鈴」
「ん?なに?」
「マンション出る前にそれは直した方が良いぞ」
それ………?
よく見ると私のスカートの裾をパンツが巻き込んでいてパンツが丸見えになっていた……
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
私は恥ずかしさのあまり今日もう一日休もうかな?と考えてしまった……………。