プロローグ
本業をしていて、あくまで趣味で書いています。
不定期ですが、お気に召しましたらどうか完結するまでよろしくお願いします。
少し暑さがやわらいだ日、彼女はノートパソコンで作業をしていた。
60歳を過ぎてもこの仕事を続けていると、気が付けばお昼手前。
愛犬が少し心配そうにしてこちらを見つめてくる。
「大丈夫よ」
そう言って愛犬の頭を撫でて食事の準備をする。
そうして時間が経つと、家の前に車が一台止まった。
その気配を察知して、愛犬は尻尾を振りながら玄関へと向かい、おすわりをして待つ。
「ああ、今日だったわね」
そういえばそうだった。
今日は息子が孫を連れてウチに来る日だった。
すると玄関のドアが勢いよく開き、3歳の孫娘が大喜びして入ってきて愛犬に抱きついてきた。
愛犬も応えるように孫の顔をペロペロする。
「ただいま、母さん」
「お邪魔します」
息子とそのお嫁さんも愛犬を撫でてこっちにやって来た。
そしてお嫁さんの腕の中には、産まれて数ヶ月の小さな孫がいた。
「いらっしゃい。あら、その子が?」
「はい!名前はマコトって言います」
「うふふ、かわいいわね~」
二人目の孫にデレデレになってしまう。
「お父さんにも見せてあげてくれる?」
そう言うと彼女は喜んで応えてくれて、愛犬と遊んでいた孫娘と一緒に仏壇に手を合わせてくれた。
「………………」
孫娘と息子夫婦の様子を見ながら、少し自分の過去を思い出す。
彼女、栗原佳鈴の人生は、一言で言ってしまえば壮絶だった。
平和な時代に生まれたはずなのに、過去の因縁が彼女を巻き込んだ。
だから、今のこの生活が幸せだった。
それと同時に、息子の父親である龍太郎との思い出も甦る。
それは佳鈴が17歳の時にまでさかのぼる。
「おばあちゃん!いっきゅうのおさんぽいきたい!」
「あらあら、それじゃあお散歩の準備しないとね」
「はやくね!いっきゅういこ!」
彼女が経験した人の底無しの悪意と、人外達との交流。
そして無償の愛情を、彼女は忘れないように思い返した。