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【10-07】

※少々過激な表現が含まれます。

グリフィンは相当酔っているのだろう。しゃっくりを繰り返していて、吐息の酒臭さが不快で仕方がない。



「グリフィン……こんな時間にどうしたの?」


「俺のエレーヌに会いに来たんだ。ダメか?」



俺のエレーヌ。


先日の話を聞く前ならポッと頬を染めて喜んでいたかもしれないが、今はもう全くそうは思えない。



「ずいぶん酔ってるみたいだわ。戻って眠ったほうがいいわよ」



グリフィンの顔を見たくなくて必死に笑顔を張り付けてそう促すと、グリフィンが不満げに眉根を寄せる。



「何だよ、もうすぐ夫婦になるっていうのに冷たいじゃないか。俺もここで寝るから中に入れてくれ」


「ダ、ダメよ。まだ夫婦ではないのだもの。戻って」



するとニヤリと笑うグリフィンに腕を掴まれて小屋の中に押し込まれる。そして寝床へと乱暴に押し倒された。



「ケチ臭いこと言うなよ。どうせもうすぐ結婚するんだ。大した差はないだろう」



グリフィンの顔が徐々に近づき、エレーヌは顔を背けながら必死に抵抗する。



「ダメ……ッ……やだっ!」


「そんな冷たくするなよ」


「嫌ッ!」



すると必死に動かした腕がグリフィンのこめかみに鈍い音を立ててぶつかった。



「痛ッ……」


「あっ! ご、ごめんなさいグリフィン」



怪我はない? と心配になって問うと、チッと舌打ちが聞こえる。



「勿体ぶってんじゃねーよ……――でもないくせによ……」


「えっ……?」


「――んだよ」


「な……何……?」



するとギロリと睨むグリフィンがフンッと鼻で笑う。



「お前みたいな生娘でもない貧相な年増、俺だってごめんなんだよ!」



嫁ぐには遅すぎるくらいの年だ。自分でもわかっている。そして家柄も後ろ盾も何もない自分に、これを逃せば嫁ぐチャンスなどもうやってこない。わかっている……。それでも受け入れられないと思う自分は何かおかしいのだろうか。もう何が正しくて何が間違えてるのかわからない。



「――ッ……グリフィン、出ていって!」


「何だと? 罪人のくせに俺に命令すんな!」



罪人――その言葉にハッと息が止まる。夜の静けさが耳をつんざくようだ。


そうだ、罪人だ。母も、二人の夫も自分のせいで亡くなった。わかっているのに……。


それでも心の奥底で欲しがって、願って、願って、願ってやまないもの。欲しいものがある。


するとエレーヌに馬乗りになったグリフィンは、エレーヌの両手を、贈ったハンカチで縛って押さえ付ける。そしてスカートの裾から手を入れて太腿を(まさぐ)り始めた。



「――ッ、グリフィン、やめて!」


「黙ってろ!」



嫌よ……ダメ……。


するとエレーヌの頭の中には、誰かもわからない声が響き渡った。



『選び選ばれよ』



これ以上はダメなの。だからお願い、やめて。



『許し許されよ』



もう誰の命も奪いたくない。



『可否を選択せよ』



そう思うのに……そう望むのに――



『審判を下せ』


「――私に触れるな!」



自分の声であって自分の声ではない不思議な声が自分の喉から発せられて、ハッと我に返る。


その時にはもうグリフィンは体の大半が真っ黒な炎に包まれていた。


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