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【10-04】

エレーヌを案内する年老いた男は、国境付近の小さな鉱山を所有するマイロという男だった。


マイロは追っ手を避け、迷路のように地下深くまで無数に掘られた坑道を使ってエレーヌを(かくま)う。そしてしばらく坑道の中で隠れ暮らしたエレーヌは、やがて隣国のルミナリア王国へと逃がされた。


隠れ住むようになったのがマイロの家のすぐそばにある小さな小屋だ。


そしてマイロには家族がいた。息子のジャスパー、その妻のメリッサ、そしてジャスパーとメリッサの子・グリフィンだ。



「私に何かできることはあるかしら?」



自分を逃がし、居場所、そして質素ながらも食事を用意してくれるマイロの家族。そんな彼らにエレーヌが礼をしたいと思うのは自然な流れだった。



「エレーヌ様は何が得意なのだね?」



マイロに聞かれてエレーヌは考え込んだ。王女という地位をなくした自分にできることは少ないのだが――



「そうね……治癒の魔術が使えるから、軽い怪我くらいなら治せるわ」


「なんと! エレーヌ様は魔力をお持ちなのか?」


「ええ」



すると興奮した様子で慌ててどこかへ向かったマイロは、いくつかの石を手にして戻る。



「これに魔力を込めることはできるか?」



マイロの震える手の中のものを見ると、エレーヌもよく見知った石だった。灰色に白い波模様が入り、ところどころに緑の線が見える石。



「これは魔力石ね? ええ、いいわよ。少し時間を貰えるかしら? それと何か書くものがほしいわ」


「書くもの……紙やペンは粗末な我が家にはない。蝋板(ろうばん)でもいいか?」


「ええ、いいわ」



エレーヌは渡された蝋板に魔法陣を描く。



「それは何だね?」


「石に力を込めるための魔法陣よ」



そして魔力石をその上に一つ置いて呪文を唱えた。すると魔法陣がパッと銀に光り、魔力石が緑の輝きを放った。



「おぉ……なんと美しい……!」



マイロが感嘆の声を上げるとおり、魔力石は魔力を込めると灰色の部分がエメラルドのような透明な緑に変わるのだ。


エレーヌは疲労を逃がすようにフゥッと息を吐き出し微笑む。幽閉生活をするようになってからずいぶん体力が落ちていたため、魔力石を一つ生成するだけでも体への負担が大きかったのだ。



「これでいいかしら?」


「ええ、素晴らしい。エレーヌ様は女神様のようだ。これがあれば我々は食い繋いでいける。いや、それどころか贅沢すらも……」


「もう、大袈裟ね。これでお世話をしてもらっているお礼になるかしら?」


「もちろんだ」


「それなら必要になったらまた言って?」


「なんと心強い! ありがとうございます、エレーヌ様」



それからは魔法陣の仕組みについて興味を持ったマイロにレクチャーを行い、彼が抱く疑問にわかる範囲で答えていった。



マイロの家からほど近い場所には神殿があり、夜、エレーヌは人目を忍んで神殿を訪れ、祈りを捧げた。



「どうか皆に祝福を」


『相変わらずおめでたいやつだな。お前は世の中や人を恨むということを知らないのか?』



どこにでも現れるルカニエルに、エレーヌはうんざりする気持ちすら抱え始めていた。



「こうなったのは全て自分の選んだ道の結果だもの。私に呪いをかけたあなたのことは恨んでいるけれどもね」



そう言って恨み辛みをぶつけたところで、ルカニエルは楽しげに笑うだけだ。



『さぁエレーヌ、早く俺に真実の愛とやらを見せてみろ』


「それは……」


『なんだ、もう諦めたのか? ならばもうお前に種を付け、それで天界に帰れぬならこの世界を滅ぼして楽しむこととしよう』


「何ですって!? ダメよ! そんなことは絶対にダメ!」



皆が生き、変わらず生活をしている日常がどんなに尊いか。それを自分のせいでこれ以上壊してはならない。そんなことは許されない……。


するとルカニエルはフンッと鼻で笑う。



『せいぜい足掻くがいい、エレーヌ』



ルカニエルの姿が消え、エレーヌはハァッと溜息をついた。


二度結婚したものの呪いの影響により夫を二人なくし、今やすでに嫁ぐには遅すぎるくらいの年。


家柄も後ろ盾も何もない自分に果たして嫁ぐチャンスなどやってくるのだろうか。



「こんな私を愛してくれる人なんて……」



進む道は真っ暗闇でしかなかった。


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