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【10-03】

ルカニエルの言葉に、エレーヌは苦々しい気持ちしか湧かない。


幽閉されてしまった以上、自分がこれから顔を合わせるのは侍女のイヴォンヌだけ。ほかは時折生活に必要な物資を運び込む兵や侍従の者が来るくらいだろう。


自分がこれから愛し愛される相手と結ばれることはもうないのに、どう足掻けというのだろう。


ルカニエルの呪いが解けないまま、時が過ぎていくのをここで静かに待つのみなのではないだろうか。




そう思っていた矢先――



「エレーヌ様!」



いつもどおり教会で祈りを捧げていたエレーヌの元に、イヴォンヌが慌てた様子で声をかけたのは僅か1週間後のことだった。



「どうしたの?」


「エレーヌ様、どうかすぐにお逃げください」


「……どういうこと?」


「あなた様に投獄の命が下りました。最初の嫁ぎ先の隣国の王が騒ぎ立て、二つ目の嫁ぎ先の公爵家もそれに乗った形で……王様もそれを無視することができなかったのです」


「そんな……」



投獄。そうなれば幽閉のような質素な生活どころか、どんな罰や拷問を受けることになるのかもわからない。想像しただけで体が震える。


するとイヴォンヌが一人の年老いた男を招いた。



「エレーヌ様、この男は私の古い知り合いです。この辺りの地下や坑道に非常に詳しい。ですから彼と共にお逃げください。きっとあなた様を安全な場所まで導いてくれるでしょう。どうかしばしのご辛抱を」


「イヴォンヌ、あなたも一緒に――」


「いいえ、私がいては足手まといになるだけです。私のことはどうぞお捨て置きください」


「そんなの嫌よ!」



エレーヌがイヴォンヌの手をギュッと握ると、イヴォンヌは首を横に振って手を握り返す。



「さぁお早く」



ここに兵が来れば、エレーヌを逃がした罪として恐らくイヴォンヌは罰せられる。口を割らなければ酷い扱いをされることもあるだろう。


老いた身に拷問を受けるなんて……。



「イヴォンヌ……私は……ッ……」



なんて情けないのだろう。王女なのに、老婆一人を救う力すらも持っていない。



「美しくお育ちになったあなた様のお傍に一時でもいられて、私は幸せでございました。もう十分でございます」



そう言って皺だらけの顔で穏やかに微笑むイヴォンヌを見ていると胸が張り裂けそうだった。



「こんなところまで私に付いて来てくれたあなたに、私は……とても感謝してるの……」


「勿体ないお言葉でございます。私こそ、お傍に置いていただき光栄でございました」


「イヴォンヌ……ッ……」



するとイヴォンヌは男に聞こえない声で囁く。



「エレーヌ様、彼はあなた様の幽閉理由を知りません。『(いわ)れのない罪で』としか話しておりませんので、どうぞ決してお話にならぬよう。さぁ、すぐにご出発を」



足の悪いイヴォンヌは一人その屋敷に残り、エレーヌは後ろ髪を引かれる思いでその男と共に国境の地へ向かった。


そののちイヴォンヌがどうなったかを知るすべはなかった。


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