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【09-08】

考えるのよ。開かない扉を開く方法……開く……方法……無ぅぅぅ理ぃぃぃ! 


魔法使いでもないのにそんなものを開けるわけがない。


するとユリウスが訝しげに首を傾げながら話を続ける。



「神殿の中へは地下通路を使わないと入れないって聞いたよ。神官長が使ってる建物から地下通路が続いてるみたいだけど、その建物の鍵は今神官長が閉めてしまったからね」



嘘でしょ!? 普通に入れないの!? 


内心はドギマギ。でもここで動揺を見せればユリウスに怪しまれる……。今こそ淑女教育の成果の見せ所とばかりに表情だけはすまし顔。


どうする、どうする!? 


すると――



「聖女ではなくなっても、彼女にはまだ僅かに力が残ってるからな。神殿には入れるらしいぞ」



突如飄々(ひょうひょう)とそう言いのけたのはエリオンだ。


……ちょっと待って! そ、そんなこと言っちゃっていいの!? 


エリオンに目を向けるとツイッと目を逸らされた。そしてなぜかちょっと笑ってる。


……くぅぅぅっ、ふざけてる場合でも笑い事でもないのに! 


どんどん重なっていく嘘に、シェリルの心臓はバクバクと罪悪感の音を立てる。



「へーえー、入れるんだ。それならどうやって入るのか見てみたいな。見せてよ」



そう言ってユリウスはニッコリと笑みを見せる。どうやらおとなしく帰ってはくれないユリウスの様子に、ヒィッと悲鳴が漏れそうだ。



「ええ、いいわよ」



……あぁもう、エルッ! どうするのよー!




神殿に近づいていくと、石でできた扉のようなものを発見した。特に指をかける取っ手があるわけでもなく、ただ石に切り目が入っているだけだ。確かに、どうやって開けたらいいのかわからない。



「それで、どうやって入るの?」



神殿を怖がっているユリウスは、ちょっと離れた後方でビクビクしながら見守っている。


……どうやって入るのか? そんなの知らないわよ! さぁ、どうする……どうする……どうするっ! 


するとどこからかパタパタと羽音が聞こえ、それは間もなくシェリルの肩に降り立つ。



「えっ、キュイ!?」



チチチ、と小さくさえずるのは、シェリルが飼っている青い羽の小鳥・キュイだ。



「キュイ、あなたがどうしてこんなところに?」



するとキュイが肩から飛び立ち、扉をくちばしでツンツンとひっきりなしに(つつ)く。



「……えっ、何? ここに何かあるの?」



とシェリルが小声でキュイに確認しつつ扉らしきものに手で触れると、突然それが石を擦り合わせるような鈍い音を立てて動き始めた。


……嘘……開いたわ。



「すごいよシェリー! どうやったの!?」



ユリウスが目を輝かせて問うものの、どうやったも何もない。



「ただ触っただけよ」



シェリルが「これぞ元聖女の力よ」とでも言わんばかりに、ウフフフと淑女らしく堂々とした笑みを向けると、ユリウスは「さすが元聖女だ」と目を輝かせて称賛する。


……なぜ開いた? 


内心大いなる疑問と疑念を抱きながら「入ろう」と先導してくれるエリオンに続いて神殿内に足を進める。中はひんやりとした空気で真っ暗。この感覚にかつての記憶がよみがえってゾワッと背筋に寒気が走る。


すると突然背後でゴゴゴッと石を擦り合わせる音が鳴ってガタンと扉が閉まった。


急に辺りが暗闇に包まれ、外から「うわっ……びっくりした!? どうして急に……シェリー!?」とユリウスの慌てた声が聞こえる。



「えっ、ユリウス!?」



どうやらユリウスが神殿内に入る前に扉が閉まったらしい。


挟まれたりしなくて何よりだが……シェリルは半ば反射的にしゃがみ込んだ。


この暗闇に包まれる感覚。シェリルにとってつい最近の出来事にしか感じられない封印を行った3年前の記憶は、思い出せば足が竦むような恐怖の記憶で、この状況がその時を思い起こさせるのだ。


怖くなってカタカタ震えて身を縮めていると、「シェリー嬢」と落ち着いた声が聞こえる。エリオンの声だ。


そしてエリオンの大きな手がシェリルの腕を掴み、グイッと引き寄せられる。


そしてよろけて寄り掛かった先は――



「大丈夫か?」



甘い香りのするその場所は、暗くても何となくわかる。きっとエリオンの胸元だ。そして宥めるように背中をトントンと叩いてくれる。


大丈夫ではなかったけど、たった今大丈夫になった気がする……が、やっぱり怖い気もするからずっとこのままでいてほしいと思う時は何と答えればいいのだろう。


迷っているとエリオンがフッと笑う声が聞こえる。



「震えてるな。怖い?」


「こ、怖くなんて……」


「……」


「本当は少し怖い」



恥ずかしさから遠慮気味にそう言うと、エリオンがクスッと笑う。



「相当怖いんだな。ちょっと待ってろ」



ボソッと何かを呟いたエリオンの手のひらの上に淡く光が灯り、暗さはすぐに解消される。



「ありがとう、エル」


「あぁ。今は一人じゃない。何があっても必ず俺が助けるから心配するな」



頼もしい言葉をすぐそばで囁かれると、体は一気に熱を持ったように温かさを取り戻した。



「うん……」



温かいを通り越して熱いくらい。恋とは、心だけではなく体温も忙しいらしい。愛おしい気持ちはどんどん膨れ上がるばかりだ。


……エルのこと、やっぱり好きだわ。


思いが募ってエリオンの服をキュッと掴むと、エリオンが手を取ってくれる。



「まだ怖いなら手を繋いでいよう?」



もうそんなに怖くはないけど……それは秘密でもいいでしょ?



「うん」


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