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【09-05】

咄嗟に木の幹に身を隠したものの、ユリウスが腰に携えていた剣を抜き、構えながらシェリルとエリオンのいる方へとゆっくり近づく。



「誰だ。出てこい」



一触即発。エリオンがユリウスと戦うなんてことになっては……そう、一大事だ。あってはならない。


なぜなら、どう考えてもユリウスには手も足も出ないだろう、というのが問題なのだ。素人目に見てもユリウスの剣の構えは覚束ない。


自国の王子がコテンパンにやられる姿なんて直視できないし、王子たるものそんな姿は生涯晒してはならない。ここはユリウスの尊厳を守らねば。


そこでシェリルは隠れるのをやめてユリウスに姿を見せることにした。



「ユリウス、私よ」



するとユリウスは逡巡した様子でしばらく固まり、次には信じられないものを見るかのように目を見開く。


そしてユリウスの手から放れた剣が静かな森にガシャンと派手な音を響かせた。



「シェリー……? シェリーなの?」



ユリウスの目が潤んで見えるから再会に感動してくれているのだとは思うが……いくら何でも剣を手放すタイミングが早すぎない? とユリウスの危機意識の薄さにハラハラ。


そんな自分を今は出すべきではないとわかるので、ここは一旦胸に納めて返事をした。



「うん、そうよ」



すると、ユリウスはクシャッと顔を歪めて唇を震わせる。



「僕は……夢を見てるのかな。君はもう亡くなったと――ッ……シェリー!」



駆け寄ったユリウスはシェリルにガバッと抱きついた。



「ユ、ユリウス……!?」


「シェリー! 嘘みたいだ。本当に本物!?」


「うん……だから、とにかく放して」


「嫌だ。抱きしめてないと、また君がどこかへ行ってしまいそうだ。シェリー、会いたかったよ」


「ちょっ……もう、苦しいから放して!」



抵抗しても抱きしめ続けようとするユリウスからはウゥッと嗚咽(おえつ)が聞こえるくらいだから泣いているのだろう。


自国の王子を突き飛ばすわけにもいかず、仕方がなしに抱きしめられたままでいると――



「痛っ……! おい貴様、何をする!」



ユリウスの腕の力が緩み、ようやく解放される。ユリウスの腕を引き剥がすようにしてエリオンが間に入ったのだ。



「彼女が放せと言っているのだから放せ。……気安く触れないでいただきたい」



エリオンはいつの間にかローブのフードを被り、口元を黒い布で覆って顔の大半を隠していた。あまり顔を見られたくないということなのだろう。ただ、かなり怪しげだ。



「貴様、何者だ! 何の権利があって僕とシェリーの邪魔をする!」


「ではあなたは、何の権利があって彼女に触れているのですか?」


「――ッ!」



あぁ、結局一触即発な状況。


ユリウスは拳を握り締めてプルプル震わせている。今にもエリオンに殴りかからんばかりの勢いだ。


怒れる白王子ユリウスvs.静寂の黒騎士エリオン? いやいや、だから闘っちゃダメなのよ。ユリウスがコテンパンに……あぁ、そんなの絶対に阻止だわ。



「もう……ユリウス、ちょっと落ち着いて。……エル、ありがとう。大丈夫よ」



エリオンはじっとシェリルを見つめて無言のままパッと目を逸らした。


目しか見えないけれど、眉根が寄ってた様子からして怒っていたのだろうか。そう考えるとシェリルの胸がキュンと鳴る。


……ユリウスに「放せ」って言ってくれたことも、怒ってることも、なんかちょっと……いや、大分嬉し……って違う違う。エリオンには忘れられない想い人がいるんだから、これ以上好きになってはダメなのよ! 


そうよそうよ、ダメよダメ、と自分を納得させるように頷きつつ、とにかくユリウスを宥めようと視線を移す。



「あのねユリウス、この人は私の護衛をしてくれてるの。私が危ない時に助けてくれた人なのよ。だから危険な人ではないわ」



するとユリウスはいかにも不満げな顔でエリオンをジトッと睨んだ。



「ふぅん。()()、大切な人を助けてくれてありがとう」



……いや、『僕の』って妙に強調してたのは何なの? しかもありがたさの欠片も感じられない高圧的な口調。ユリウスってこんな人だったかしら? 


心配になってチラッとエリオンに目を向けると、エリオンは何も言わずにじーっとユリウスを見つめている。眉間が僅かにピクッと動いたような気がするが、それ以外は微動だにせず何も返さずだ。


……ちょっとイラついてる? それはそうだ、何せユリウスの態度が失礼すぎるのだから。



「どう、いたし、まして」



ようやく返事をしたエリオンの言葉も感情がこもらず非常に刺々しい。


シェリルは二人を交互に見やってオロオロ。


……どうしよう。この二人、相性が悪そうね。


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