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【09-02】

しばらくして再び馬車が止まると、今度は知っている声の主が荷台に乗り込んできた。



「シェリー嬢、あまり居心地の良い環境ではありませんがご無事ですか?」



アランの声だと確認して、ホッとしたシェリルは物陰からようやく顔を出した。



「ええ。それに案外快適よ。……そういえば国境を越える時、エルからって言って、知らない男の人が食べ物を届けてくれたの。どなたかしら?」


「あー……赤い髪の男ではありませんでしたか?」


「ごめんなさい、姿は見ていないの」


「そうですか。恐らくリアムという者でしょう」


「リアムさん?」


「ええ、護衛をしている人物です」


「護衛って誰の?」



するとアランが数秒黙り込み、ツイッと目を逸らして咳払いしてから口を開いた。



「……この隊の、です」



この隊の? なるほど、贈呈品の集まるこの荷台を含む隊には護衛を付けて守っているということか、と一応納得。



「へーえー……。エルが用意してくれたものみたいだけど、とても美味しいお菓子だったの。クッキーとは少し違って、バターのいい香りがしてすごくザクザクっとしてた。何かしら?」


「うーん、サブレでしょうか」


「そう、サブレっていうのね。エルには後で会った時に自分でお礼を伝えるからいいけど、そのリアムさんという方にもお礼を伝えたいわ」



礼を言う間もなく去ってしまったリアムという人物。義理を欠いたままなのは何となく気が引けるのだ。


するとなぜだろう。アランの目が泳いでいる。



「あー……彼は……今は近くにおりませんので……あぁ、それなら僕から伝えておきますよ?」



この隊の護衛なのに近くにいないとはどういうことなのだろうか。妙に引きつった顔のアランがどこか不審だ。


ただ、これ以上深く追求しないほうがいいのだろうということは、アランの不都合そうな顔を見れば一目瞭然。気にはなるがアランをいじめたいわけではない。



「そ、そう? それならお願いするわ」


「承知しました。……そういえば、到着後は使用人に混じってシェリー嬢にも動いてもらいますのでよろしくお願いします」


「ええ、わかったわ」



何を隠してるんだろう、と気になってチラリとアランを見ると、アランと目が合った。



「あの、シェリー嬢……エリオンと何かありました?」



ギクッ。



「ど、どうして……?」


「いいえ、何となく」



何かあったかと聞かれると色々あったが、アランに話すべき部分がどこなのかがわからない。


迷って黙り込むと、アランが続けて話し始めた。



「あまり時間がないので単刀直入に伺いますが……シェリー嬢はエリオンのことをどう思っていらっしゃるのですか?」


「どうって、それは……色々親切にしてくれて……感謝してるわ」


「それだけですか?」



それだけかと問われると、恋心を実感した今ではそれだけではないのだが、それを伝えるつもりもない。



「そ、それだけよ」


「そう……ですか」



すると少し考え込んだアランが続けて告げる。



「エリオンの婚約者の存在については……ご存知ない?」


「……知……ってます」



そう答えると、アランの顔は訝しげに歪んだ。



「知ってて……それだけですか? 何も思わない?」



何も思わないわけではない。


『エリオンの婚約者』というワードを聞くだけでズキズキと胸が痛い。そんなにも彼に思われてる婚約者に嫉妬してる。それと同時に彼と婚約者の素敵な思い出を壊したくないとも思っている。大事にしてほしいと思っている。羨ましくて、でも壊したくなくて、壊せるはずもなくて……恋心なんて抱いても、どうせ自分は国に帰る身。どうすることもできずに胸に秘めたままだ。そんな気持ちを抱えたまま国に帰って、そしてやがて恋心が消えていくのを待つ。


そんな複雑な思いをアランにどう伝えればいいのだろう。


迷って黙っていると、アランはハァッと溜息をついた。それはまるで呆れているかのようで……ちょっと怖い。



「エリオンもエリオンですが、あなたもあなただ。あなたにももっとよく考えて行動していただきたい。ぜひともこれ以上エリオンを掻き乱したり振り回したりするのはおやめください」


「えっ、それってどういう……?」



シェリルが首を傾げて困惑を示していると――



「副隊長は?」


「あれ? さっきまで近くにいたんだけどな……」



外からそんな会話が聞こえてきた。



「仕事があるので私はまいります。とにかく、あなたはもう少し深くお考えください」



そう言ってアランは荷台から去っていった。アランの言わんとすることが何なのかよくわからない。



「何よ、好き勝手言って。あの人、全然優しくなんてなってないわ」



と、ちょっと拗ねた気持ちになって口を尖らせた。


まるで深く考えていないかのような言われよう。


これでも必死に考えてるんだけどな……。


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