【08-04】
「まぁ、なんてお美しいのでしょう! 女神降臨! わたくし、いい働きをしたと自負したい!」
ホワイトゴールド色の糸で刺繍が入ったサファイアブルーのドレスに身を包んだシェリルを見て、アニーが興奮して鼻息を荒くする。
「ありがとう。アニーって何でもできるのね。すごいわ」
「恐れ多いお言葉です」
鏡の前でくるりと一回転して自分の姿を見たシェリルの表情は自然と綻んだ。
アニーは、シェリルの玉肌を生かした少し大人っぽく見えるメイクをし、編み込んだ髪をポニーテールにしてホワイトゴールド色のリボンで纏め、ドレスに合うサファイアのアクセサリーとホワイトゴールド色の靴をコーディネートしてくれたのだ。
そして椅子に導かれて座ると、今度はクリームを付けながら手の爪をツヤツヤに磨いてくれている。
最初は濃いめのブルーのドレスなんて大人っぽくて似合うのか不安だったシェリルだが、17歳の自分にはどうやら何とか着られるらしい、と安堵する。アニーのメイクやヘアセットの力が大きいのだと思う。
「アニーはほかに何ができるのかしら……。ねぇ、アニーが一番得意なことって何なの?」
「わたくしが一番得意なことは……」
「うん、なぁに?」
するとアニーが爪をツヤツヤに磨きながらいたずらな笑みを浮かべる。
「ひ・み・つ・です」
「えー、何かしら? これだけ器用ならお裁縫やお料理も得意そうね。もしかして、お菓子も作れる? それか絵画や楽器とか?」
「さぁて何でしょうね。そういえばシェリー様、このドレスのサファイアブルーは、主様が一番お好みの色なんですよ。そして差し色のホワイトゴールドも同じくお好みの色です。あぁぁぁ、最っっ高。こんなこともあろうかと用意しておいてよかったぁぁ」
ぐっふっふ、と人が変わったかのように突然意味深に笑うアニーはどうしたことか。何だか最初の印象とは大分違って見える。
ただ、アニーの言うことが本当なら大問題だ。
「嘘……エルの好みの色なの!?」
「はい」
「ダメよ、それなら脱がなくちゃ」
「えーっ、どうしてですか!? せっかく腕を振るったのに!」
「だって、私なんかがエルの好きな色を身につけるなんて……」
そんなの婚約者に申し訳なさすぎるではないか。
するとアニーが微笑む。
「シェリー様……主様って、わたくしたちの前では全然笑わない方なのをご存知ですか?」
「えっ……」
「ちなみに、わたくしに直接笑顔を向けてくださったことなど過去に一度もございません」
「えぇぇっ!?」
シェリルにとっては食い気味に返事をするくらい驚くことだった。
最初こそ怖そうな人だと思っていたエリオンだが、ベリタス城に来てからは穏やかで優しい印象。そして不器用ながらも優しく微笑む様子や楽しげに笑う様子を何度も見ているのだ。
するとアニーの言葉が続いた。
「お立場やお育ちの環境により、主様は感情をストレートに出すことをあまり許されていないのです。でもシェリー様の前では自然と表情が柔らかくなり……まぁ、止められずに溢れ出してるとも言いますが、シェリー様とご一緒に過ごされるのがとても楽しいのだと思いますよ。だから、『私なんかが』なんておっしゃらないでください」
「そ……そう……?」
「ええ。ですから主様の婚約者のお話、きちんと聞いてみてはいかがですか? 案外聞いてみるとスッキリするかもしれませんよ?」
「そういう……もの?」
「ええ、そういうものです。頭の中でごちゃごちゃ悩むよりも、一歩踏み込んでみると案外すんなり、ということもございます。大丈夫です。全ては私のせいにしていただいて結構ですから。さぁ、間もなく夕食のお時間ですよ。このまま参りましょう」
「えっ、この格好で行くの!? パーティーでもないのに!?」
「はい、ぜひ主様にご覧いただきましょう。きっとこれを見ただけで主様はお喜びになります。それに戦いに挑むのでしたら、女は女の戦闘服で勝負するのです!」
ニヤリと笑うアニー。
……謝りたいだけで、戦いを挑むわけではないのだけれど。
その笑顔、企みがありそうで怖いわ。