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【08-03】

しばらく経って涙が落ち着いた頃、紅茶を入れてくれたアニーに、気になって仕方がないことをまずは確認することにした。



「ねぇアニー、教えてほしいのだけれど……世の中の『男女の相性の確認方法』ってどういうもの?」



そう聞くと、アニーは爛々(らんらん)と目を見開く。



「まぁぁぁっ、どなたか確認なさりたい方がいらっしゃるのですか!?」


「そ、そういうわけではないのだけれど……」


「何にせよ、シェリー様と女子トークなんて夢のようです。わたくし、胸が踊りすぎて粉微塵に弾け散りそう。嬉しいぃぃ……あ、シェリー様が落ち込んでいるのに不謹慎でした。鞭打ちでも火炙りでもどんな拷問もお受けいたしますわ。それでもワクワクが止められないわたくしは罪深いぃぃ」



とアニーは悶えるように胸を押さえる。


どこをどう突っ込んでいいのかわからないが……とにかくこんな話で喜んでくれるのはアニーの優しさなのだろう。



「アニー、私ね、3年眠ってたせいもあって男女の事情については、まだほとんど学んでないの。だから……きちんと教えて?」


「もちろんでございます! そうですね……相性の確認方法というといくつかございますが、世の男女は一般的に――」



ノリノリのアニーがゴニョゴニョと耳元で呟く内容に、シェリルはうんうんと頷き、徐々に顔が真っ赤に。



「……想像以上だったわ」



最終的に茹でたカニ並みの赤さに達したシェリルの顔を見て、アニーはクスッと笑う。



「なんてかわいらしい。シェリー様こそ想像以上です」


「……あぁ、ごめんなさい。私ったら、男女の事情を知らなすぎよね。一応大人なのに恥ずかしいわ」


「いいえ、そういう意味ではなく、想像以上に愛らしくていらっしゃいます、という意味ですが、そんなわたくしのマニアックな感情はひとまず置いておくとして……急にそんなことをお知りになりたいなんて一体どうなさったのです?」


「あ、あのね――」



そこでアニーに事の成り行きを話すと、アニーは優しい微笑みを向けた。



「そうでしたか」


「私が酷い態度をとったから、エルが傷ついた顔をしたの。きっと嫌われたわ」


「そんなことは……」


「ううん、きっとそうよ。私ね、自分が何をしたいのか、自分のことなのによくわからないの。エルの前でどういう顔をしていればいいのかわからなくなってしまって、うまくいかなくて、あんなにもひねくれた態度をとってしまった自分が恥ずかしいわ。エルに謝らなくちゃって思うけど、嫌われたかと思うと、もう会うのも怖いの……。意気地なしよね」



目を潤ませて項垂れると、アニーは「なんてかわいらしい」となぜか手で顔を覆ってクネクネしている。


かわいらしい? かわいくない、の間違いでは?



「ところでシェリー様、先ほど世の中の『男女の相性の確認方法』をわたくしにお聞きになったのって、もしかして……」


「うん、エルが言ってたから。婚約者の方と相性を確認したら、かなり……よかったって」



と言ってるそばから悲しくなってきた。



「あー、なるほど。主様のお言葉でしたか。そうですね……主様も年齢とお立場上いろいろなご経験があって(しか)りですが、恐らく違っ――……あぁでも、このままの方が都合が……」



そう呟いてアニーはニヤリと笑う。



「……え?」


「あぁ、いいえ、失礼いたししました。それではシェリー様、そんなお話を堂々となさる主様のこと、お嫌いになりましたか?」



不安そうに眉尻を下げるアニーに問われて、シェリルは首を大きく横に振る。



「ううん、命の恩人だし、よくしてもらっているし、そんなことはないわ。でも……ちょっと嫌だったのは確かで……正直に言うと、腹が立つの」


「腹が立つ? なぜです?」


「エルが……優しくするから」


「優しいとダメなのですか?」



キョトンと首を傾げるアニーに、シェリルはモジモジしながら不満げに呟く。



「ダメっていうか……胸がギュッと絞られるようになったり、ズシンと重くなったりして苦しい。だからやめてほしいの」


「まぁっ!」


「そもそも大事な人がいるのなら、私になんて優しくしなければいいと思うの。エルも酷いと思うのよ。だってあんなふうに優しくされたら誰だって……喜んでしまうものでしょう?」


「あんなふう……?」



怖い時にそばにいてくれたり、守ってくれたり、手をギュッと握ってくれたり……なんて言えなくて、シェリルは赤くなった顔を手で隠した。



「ううん、何でもないわ」


「大いに喜びましょう!」


「何も言ってないのに……」


「何となく想像がつきます! 守っていただきましょう! 抱きしめていただきましょう! キスしていただきましょう!」



シェリルはプシュッと湯気が出そうなほど顔を赤くしつつ、大いなる誤解を解かねばと落ち込む自らを鼓舞した。



「ち、違うわ! そ、そんな、キ……キ……スなんて……そんな大それたこと……いけないことよ」


「あら、してらっしゃらないのですか?」


「す、するわけないじゃない! ダメよそんなの! だってエルには婚約者がいるのでしょう? 私を相手にそんなこと……そんなの絶対に……ダメ……よ……」



言ってるうちに悲しくなってきて一転してしょんぼりと俯くと、アニーは再び「かわいらしい」とニマニマしながらモジモジしている。



「アニー、私は真剣なのに」


「申し訳ありません。あまりにも愛らしくて。そうだわ……シェリー様、こんな時はとびっきりおしゃれをしませんか?」


「……へ? なぜ?」


「少し気分転換をいたしましょう」



シェリルはアニーの意図がよくわからず「はぁ」っと腑抜けた返事をして、とりあえずアニーにされるがまま従ったのだった。


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