【07-15】
翌日――
『シェリー!』
廊下を歩いていると、遠くからモフモフがドフドフと走り寄ってくる。
あれはラウル……よね? うん? ラウル……なのよね?
シェリルは目を瞬かせてその姿を見つめる。
……なんかちょっと白くなってない?
確かもっと灰色だったはず、と困惑している間にも、ちょっと白くなったラウルがシェリルに飛びかかってきた。
『シェリー、シェリー』
「キャッ……! ラウ……ッ……、ちょっと、くすぐったいわ……」
シェリルを押し倒し、体を擦りつけるようにしてじゃれてくるラウルは、まるでご機嫌のわんこのようにハッハッハと荒く息をしながらパッと明るい笑顔を向ける。
『シェリー、なぁ、あの清いパリパリ、次はいつ作る?』
清いパリパリって、ラウル用に焼いたクッキーのことよね……とシェリルは少々混乱しつつ答える。
「えっ? 厨房を貸してもらえる時ならいつでも作るけど……?」
『早く作れ。あれ食べたら白くなったんだ。次は味も付けろ』
……待ってぇぇ!? 美白成分も漂白成分も入れた覚えはないんだけど!?
「白くって……それって大丈夫なの?」
『オレ、もとは白。よごれてるだけ』
……よ……よごれてる……?
「それは……お風呂に入ればいいんじゃないの?」
『お前バカだな。オレは綺麗好きだ』
……モフモフ辛口。
するとラウルが急に毛を逆立たせてブルブルッと体を震わせた。
『うわっ、そいつ絶対やべぇ。じゃあな』
「あ、ラウル!?」
ラウルが『そいつ』と言ったのは、どう考えてもすぐ後ろに控えているアニーではないか。
……え、何がやべぇのかしら?
••┈┈┈┈••
アニーはうっとりと目の前の光景に見入る。
ワゥ、ワゥワゥワゥ~ンと甘えるように吠えながら近づくラウル。飛び込んだ相手はシェリルだ。
「キャッ……! ラウ……ッ……、ちょっと、くすぐったいわ……」
ラウルが懐いてるなんて珍しい! 主様以外には懐かないのに。
そう思って微笑ましい光景に見惚れていると――
『ワゥ、バゥ、ワゥワゥワゥ~? バゥワゥ』
「えっ? 厨房を貸してもらえる時ならいつでも作るけど……?」
『バゥワゥワゥワゥ、バゥ』
「白くって……それって大丈夫なの?」
なんと! シェリー様がラウルと会話してるー!
さすがシェリー様、主様と同じくラウルの声を聞くことができるのですね。あぁ、あんなモフモフとお話しできるなんて羨ましすぎる!
わたくしも会話ができたなら……それはもう厳しく躾けて反抗なんて一つもしないくらい忠実な僕にするのに。
「ぐふ……ぐふふふふふ」
ついつい笑みが零れると、震えながらバゥワゥと何か言った様子のラウルが踵を返して遠ざかる。
「あ、ラウル!?」
すたこらさっさと逃げ去るラウルにシェリー様も首を傾げている様子だ。
「どうなさったのですか?」
シェリー様に問うと――
「ラウルがね、よくわからないけど……あなたのことを『やべぇ』って言って逃げてしまったの。変な子よね。……あぁ、やべぇくらいかわいいってことかしら? ラウルったら照れて逃げたのね。アニーは本当にかわいいもの」
そう言って、ふふふとかわいらしく笑うシェリー様こそ……やべぇくらいかわいいでーす。
「まぁ、シェリー様にそんなふうに言っていただけて光栄です」
『本当の』主様にかわいいと言われるなんて、嬉しくて卒倒しそう。
あぁもう、わたくし、やはり一生あなたに付いてまいりますわ。
••┈┈┈┈••