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【07-07】


◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇



ユリウスの二番目の妹が生まれた年、王城では生誕の儀が行われ、当時4歳だったシェリルは父母兄と共にその式典に参列した。


幼かったことで記憶は(おぼろ)げだが、式典開始から時間が経ってくるにつれてシェリルにとっては退屈なものになっていき、こっそりと会場を抜け出したことを覚えている。



「おっきな木がある~」



王城のすぐそばにある丘の上にまっすぐに立つ大きな木。シェリルにはまるで目的地のようなゴール地点のようなものに思えて、そこまで全力で走った。


すると木の根元には先客がいた。顔までははっきり思い出せないものの、日陰でも金の輝きを失わない美しい髪の、少し年上の少年だったことを記憶している。


さらにシェリルが近づくと、ブルーの瞳がじっと観察するように見ていることに気づいた。



「わぁ、髪キラキラ色だね。目も青くて宝石みたいでキレイ。いいなぁ……」



もっと近くで見たくて、シェリルはその少年の隣に座ることにした。そして座ってすぐ、びっくりして少年の腕にしがみついた。2メートルほどの位置に蛇が這っているのが見えたのだ。



「うわぁ~っ! 怖いよぉ……」



蛇は毒のあるものもいるから気を付けなさいと両親に言われていることから、幼い頃のシェリルは蛇には強い恐怖心を抱いていた。怖くて目を瞑ってうわぁぁんと泣きながら少年の腕にしがみついていると、間もなく少年の声が聞こえた。



「もう大丈夫だぞ」



見ていなかったのでよくわからなかったが、どうやら少年が退治してくれたらしい。


そんな頼もしい男の子のことが気になって仕方がなくなったことを覚えている。



それからは、まるでおとぎ話に出てくる王子様みたいなキラキラした少年と一緒に、セイラが持たせてくれたクッキーを食べながらとりとめもない話をして過ごした。


少年はとてもクッキーが気に入ったらしく、「美味しい」と言ってパクパク食べていた。


何を話したかまではあまり覚えていないが、とても楽しくてたくさん笑った記憶がある。



それからしばらく話していると、突然木の上から男の人の声がした。



「殿下、大人の女性がこちらに向かって来ます」



木から下りてきた赤い髪の男の人にシェリルがびっくりしていると、少年はスクッと立ち上がった。



「シェリル、僕、もう行かなくちゃ」


「えー、やだ! もっとお話ししたい!」



シェリルにとっては、そんなわがままを言いたいほど楽しかったのだ。


するとはにかんだ笑顔を浮かべた少年が告げた。



「将来は僕のお姫様になってくれる?」



そう言われてシェリルは目をパチクリ。


お姫様? おとぎ話のお姫様みたいになるってこと? 素敵! 


そう思ってシェリルは元気に答えた。



「うん、いいよ」


「じゃあ約束だ」



少年はそばに咲いている淡いピンクの花を手に取ると、シェリルの左手首にキュッと巻き付けた。


花がキラキラと輝きを纏って見えたのは幼心ゆえの幻想だと思うが、美しい花で飾られた自分の腕がすごく特別になった気分だった。



「うん、約束」



すぐに少年は木の上にいた男性と共に去っていったが、手首に巻かれた花が気持ちを妙にソワソワさせた。また会えると花が言ってくれてるみたいで、花が少年との心を繋いでいるような感覚がした。



「シェリー!」


「あ、お母様」



セイラは去っていく少年ともう一人の男性の後ろ姿を見て首を傾げつつ、ムッと顔を顰めてシェリルに告げる。



「シェリー……もう、勝手にどこでも行かないでちょうだい!」


「ごめんなさーい」



てへへ、とシェリルが誤魔化すように笑うのをセイラは文句ありげに見やり、次に木の根元に置かれたクッキーの袋に目を移した。



「クッキー食べたの?」


「うん。あのね、ここにいた男の子と一緒に食べたの」


「男の子って、さっき向こうへ行った子? お名前は?」


「うーんと……えっと……何だっけ?」


「もうっ、困った子ね」


「えーとね、髪がピカピカな色で、目がお人形さんみたいに綺麗な青い色だったんだよ」


「えっ……青い目だったの?」


「うん。それでシェリーのこと助けてくれて、王子様みたいで……そうだ! デンカくん!」


「デンカくん?」


「うん。おっきいお兄さんから『デンカ』って呼ばれてたもん。……そういえばあのおっきいお兄さん、木登りしてたのかな?」



そこでセイラはハッとした。



「殿下ですって!? やっぱりさっきの方はユリウス殿下だったのかしら。黄色っぽいゴールドの髪だったからユリウス殿下にそっくりな色って思ったのよね……。一緒にいたのはきっと護衛の方ね」



ブツブツと独り言のように話すセイラに、シェリルは疑問顔を向ける。



「……なぁに?」


「あなたが会った男の子。きっとユリウスというお名前の王子様よ。青い瞳に生まれるのは王族だけだもの」


「王子様? ふぅん、あの子、ユリウスっていうんだ……」


「もう、呼び捨てになんてしないでちょうだいね」


「はーい。……ユリウスくん? でんかくん?」


「違うわよ。ユリウス殿下とお呼びするのよ」


「ユリウスでんか! 約束したからきっとまた会えるよ。次はいつ会えるかな」


「約束?」


「うん。あのね、ユリウスでんかがお花巻いてくれたの。かわいいでしょ?」


「まぁ、素敵ね」



◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇


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