【07-03】
ユリウスには自国の王子として尊敬の念を抱いており、結婚して王妃になって彼を支えたかった。それが自分の目標だったから。それが幼い頃からの約束を果たすことになるのだろうから。
そういうものが、エリオンの言う『男として好き』ということなのだろうか。
よくわからなくてグルグルする頭で考え込んでいるとエリオンが首を傾げる。
「違うのか?」
「えっ? 違……わない……? うん?」
「何だその返事」
「だって……約束したから……」
「約束?」
ユリウスのことをわざわざ『男の人』だなんて考えたことがなかった。『王子』で『将来結婚する人』で『幼い頃に約束をした人』で、ユリウスに結婚の意思を示されれば従うのは当然のことで……。
『将来結婚するのは君がいい。ずっと君のことが気になってたんだ』
ユリウスから言われた熱烈な言葉。好意を向けてもらっているのだから愛のある結婚だ。
そう思っていた。
でも――
「……あれ?」
ユリウスは好意を向けてくれる。それなら私は……?
考えれば考えるほど、頭がグルグルグルグル。
「ん? おーい、大丈夫か?」
「だ、大丈……夫……」
必死に平静を装うが、体がフワフワポカポカ。視界はクラクラ。そして、非常に眠い……。
「おい、シェリー嬢? おーい」
ふぁ~い、とふにゃふにゃの返事をしたのを最後に、シェリルの瞼はパタリと閉じたのだった。
――甘い匂いがするわ。
このいい匂いは……エル。
そしてこの匂いを知ってる気がするのに、相変わらずいつどこで嗅いだものか思い出せない。
どこだったかしら……?
ハッと目を開けると、シェリルは滞在中の客間のベッドに横たわっていた。食堂にいたはずなのに。そして頭が少々クラクラする。
しばらく経つとドアがノックされ、アニーが入ってきた。
「シェリー様、お加減はいかがですか?」
「何だか頭がボーッとしてるわ」
「恐らくワインを一気にお飲みになった影響かと」
なるほど、つまり酔っぱらったのか。クラクラの原因もそれか。
「ここに帰ってきた記憶がないわ……」
「主様がお運びになりました」
「エルが?」
「はい。私がお運びしようと思ったのですが、主様が運ぶとおっしゃって」
ふふふ、とアニーが生温かい目で見つめて微笑んでるのが不思議だ。
「そ、そう……また迷惑かけちゃったのね」
「迷惑だなんて思ってらっしゃらないと思いますよ」
そう言って、アニーはまた、ふふふ、と微笑む。
……私は笑えないのだけれど。
「私、眠ってばかりね」
一気に飲んだとはいえ、少量のお酒だったのに……。最近寝てばかりなのが小さな子供みたいで恥ずかしい。最近というか、そもそも3年間も眠っていた身。まだ寝るのかと自分で自分に突っ込みたい気分だ。
「だからシェリー様はお肌が艶々なのでしょうか」
美しいです、とうっとり見つめるアニーに苦笑いを返す。
「眠気ってどうにかならないのかしら……」
そうぼやくと、アニーが「うーん……」と考え込んでからニッコリと笑みを浮かべて答える。
「私でしたら、基本的に何か刺しますが」
「……へ? 刺す……?」
「えぇ……ザクッと」
……待って。チクッと、じゃなくて、ザクッと?
痛そうな響きに困惑していると、アニーが微笑みながら話を続ける。
「そうですね、シェリー様でしたら……ちょっと痛いツボを押すのがいいのではありませんか?」
なるほど、ツボか。アニーに目覚めのツボを習って痛気持ちいい程度に押しながら、頭の中ではエリオンのことを考えていた。
また彼に迷惑をかけてしまった。ここまで頼って迷惑をかけてばかりだから、一度きちんとした形でエリオンにお礼をしたいと考えていた。
そうは言っても贈り物を買うお金も持ち合わせておらず、この別館内から出ることもできないのだから、できることは限られている。
さて、何でお礼をしようか。
翌日――
「ねぇアニー、ちょっとお願いがあるの」