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【07-02】

(ほわぁぁ~、おいしぃぃ! ほっぺたが落ちそうってこういうことを言うのね!)



シェリルは落っこちそうな頬を押さえながら満面の笑みで食事を頬張る。豪華な食事であることも理由だが、何かよくわからないが美味な食材や豊潤な味付けに、舌もお腹も心も喜びの声を上げている感覚だ。



「うまいか?」



エリオンが微笑みながらじっと見つめているのに気づいて、慌てて口元を隠して俯いた。



「え、ええ……とても。こ、この薄い四角のものは何かしら?」



すると侍従がそばに来て料理の説明をしてくれる。



「そちらはガレットと申しまして、ソバ粉を薄い生地にして具材を乗せて焼いたものです。本日の具材はハム・トマト・バジル・卵・チーズを使用し、――、――」



苦笑いしながら説明に頷く。


……しまった! 淑女らしく振る舞わなければならないのに、食欲が勝るだなんて……。空腹って怖いわ。はしたないと思われたかしら。


不安になってチラリとエリオンを見る。


日の光の下で正面からじっくりとエリオンを見るのは初めてなのだが……日の光を浴びて艶めく長めの黒髪なんて、どうやってお手入れしてるの? と秘訣を聞いてみたいほどで、吸い込まれそうな輝きを宿したミステリアス感漂う漆黒の瞳は、目を伏せた時の長いまつげとの共演が実に美しい。


整った顔立ちに、立ち姿となれば均整の取れたスタイル。フォーマルな装いなんてしたらずっと見ていられそうだ。


こんな人、老若男女問わず誰でも見惚れてしまうものだろう……と思いながらついつい釘付けになって見つめる。



「――い。聞いてるか? シェリー嬢」


「……へっ!? あっ……ご、ごめんなさい。何?」


「どうした? ボーッとして」



あなたに見惚れてました、なんて言えるわけがない。気が付けば料理の説明は終わっていたらしく、侍従の男性はいなくなっていた。


……あぁ、我ながら失礼すぎる。



「う、ううん、ごめんなさい。何でもないわ」


「そうか。……それであなたは仮に国に戻ったとして、その後どうするつもりなんだ?」



そう聞かれてシェリルはにわかに意味を理解できず首を傾げる。



「えっ……どうするって?」


「カミラとかいうルミナリアの第一王子の婚約者があなたを攫うように仕向けたとして、それをうまく利用すれば……王族の動き次第でもあるが、ルミナリアの女神とも称される聖女を死に追いやろうとしたカミラは、王子の妃候補の座が危うくなると思うぞ」



崖の上でエリオンが捕らえたテッドら4人は、エーデルアルヴィア国内でも様々な悪事を働いていたらしく投獄したままにしているらしい。彼らの証言があればカミラを追い込むことも可能なのだろう。



「あー……そう……ね……」



少なくとも王の側近で宰相であるシェリルの父・ブラッドが黙っていることはないと思うのだ。



「そしてあなたは健在。妃の座があなたの手に……戻ってくるかもしれないな」



私が妃に……? またユリウスの婚約者に……?



「……うん」


「浮かない顔だな。あなたは元どおりの地位に収まるということだろう? 戻りたくはないのか?」


「うーん……」



帰りたい気持ちばかりで先のことまで考えていなかったが、もしかしたらまだ幼い頃からの夢は(つい)えていないということなのなのかもしれない。そしてそれは嬉しいことのはずなのに、なぜかそういう気持ちが湧かない。3年眠って目覚めてからの自分はどこかおかしい気がするのだ。


……なぜ? 


よくわからない自分の感情に戸惑っていると、赤ワインのグラスを手にしたエリオンがじっとシェリルを見つめて問う。



「あなたは……カミラと婚約したそのルミナリアの第一王子のことが、まだ好きなのか?」



エリオンの問いに、シェリルの頭はにわかに混乱した。



「……え……?」


「結婚したかったのだろうし……交わることまで考えてたくらいだし」



何か飲んでたらブーッと吹き出して咽てたと思う。ぜひ『交わる』の件は忘れてほしいところだが――



「す……き……?」


「あぁ。好きだったのではないのか? 男として」



ユリウスを……好き? えっ、男として……って何? 


ユリウスは確かに性別・男性という区分なのはわかっているが、それが何なの、という感覚だ。


どうしよう、意味がわからない……と思ってる自分は何かおかしいのだろうか。


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