【07-01】好き?
連載お休み中はサイドストーリーの執筆に時間を取りました。
ではまたがんばっていきますよぉぉぉ୧(⑉•̀ㅁ•́⑉)૭✧
ベリタス城に来て6日目。
前日にはエリオンが滞在中の別館内だけならどこへでも行けるようにしてくれて、少しだけ行動範囲が広がった。別館内だけとは言っても図書室や食堂、聖堂などの設備が整っていて、過ごすには十二分だ。
早速図書室で本を物色して読みながら過ごしていると、しばらくしてアニーが顔を出した。
「シェリー様、主様がお話ししたいことがあるらしく、昼食を一緒にとおっしゃられておりますがいかがいたしますか?」
そう問われてどこか心がソワソワするのは、空腹で食事が楽しみなのと、話って何だろうと気になって仕方がないのと、一人で過ごすより誰かに会っているほうが楽しいのと……あとは何?
またもや故障したかのように跳ねる心臓に困惑しつつ返事をした。
「えぇ、行くわ」
こうして、エリオンと食事の席を共にすることになった。
別館内にある食堂は、数多く設けられた窓から太陽が室内に燦々と降り注ぎ、過ごすのに気持ちのいい場所だ。
「こちらへどうぞ」
侍従の男性に案内されて席に着くと、テーブル上にはパンやスープ、肉料理、チーズ、フルーツ等が並び、なかなか豪華な昼食。捕らえられ、小屋に放置され、この城に来てからも体調を崩していた関係で、エーデルアルヴィアに来てからこういうしっかりした食事をとるのは初めてだ。
見ているだけで食欲が刺激され、グゥゥゥ~っと鳴るお腹は早く寄越せと催促するかのようだ。
するとエリオンがクスッと笑う。
「好きなだけ食べるといい」
……聞こえちゃったかしら? 恥ずかしい。
「う、うん……ありがとう。お言葉に甘えるわ。あら、これはジャム?」
こんがり焼かれたパンに添えられている飴色のジャム。何のジャムだろう。
するとそばに控えていたふくよかな体型の女性が微笑む。
「そちらはリンゴのジャムです。エリオン様はそういった甘――」
するとエリオンの妙に大音量の咳払いが響く。
「ベルナ、下がれ」
「あらあら、失礼いたしました」
フフッと笑ったベルナという女性は下がっていったが……言いかけたのは『エリオン様はそういった甘いものが好き』……とかそんな感じ?
エルは甘いものが好きなのかな、と考えつつ、とりあえず喉が渇いたのでグラスに手を伸ばす。
「あ、待て、それは――」
エリオンの声が聞こえると同時にゴクリと飲み込んでゴホッと咽た。喉が燃えるように熱い。
「なっ、何これ……」
「白ワインだ。俺が食前酒として好んで飲んでいるものだが、あなたは酒が飲めるか? ……と聞く前に飲んでしまったんだ。言うのが遅れて悪いな」
「うん……今初めて飲んだわ」
「そうか。この国は子供でもワインを口にするが、ルミナリアは確か成人してからだったな。何か別のものを用意させようか?」
本当は優雅にワインを嗜みたいところだが、淑女教育でもぶどうジュースで作法を学んだところで止まっているのだ。
淑女としてはなんかちょっと悔しい……っ……けど……別のがいい……。
「うん、お願い」
「では飲み物は何が好きだ?」
「えっと……ジュースやミルクは何でも好きで、あとは紅茶が好き」
「ほぉ。紅茶はそのままがいいのか? 何か味が付いたものが好きか?」
「うーん、そうね……シャリマティーが好き」
「シャリマティー? それは何だ?」
「紅茶にオレンジの輪切りを浮かべたものよ。爽やかないい香りがして好きなの」
「そうか。ではそれを食後に用意させよう」
エリオンはベルで侍従を呼ぶと、新鮮なフルーツでジュースを作ることと、食後にシャリマティーを用意することを命じる。
「希望があれば何でも言え。できうることは叶える」
ほかにも食べるものは何が好きかとか、どんな本が好きかとか、エリオンはシェリルの答えを聞いては侍従に命じて、何でもかんでも叶えようとする。
……保護されてるだけなのに、すっごい至れり尽くせり感。
ただ――
「エル……ッ、待って」
「ん?」
まるで自分が魔法の呪文でも唱えているかのようだ。ちょっと口に出した希望が次々と叶えられていく。それが案外怖い。
「そんなに叶えてもらう理由がないわ」
そう言うと、少しだけエリオンは寂しそうな顔をした。
しょんぼり顔がかわいい……けど、だからって絆されてはならない。
「そうか。調子に乗り過ぎたようだ。悪い。あなたの好みを知れたのが嬉しくて、つい……」
そう言ってフイッと顔を背けるエリオンの耳が赤い。
……何よ、そんなことが嬉しいの!?
シェリルまで伝染したように赤面して俯いていると、クスッと笑う声が耳に入ってハッと顔を上げる。
「ぶどうジュースをお持ち致しました」
先ほどのベルナという女性だ。
「あ、ありがとうございます」
「甘酸っぱさが堪りませんね」
「えっ?」
するとエリオンが照れと不満の混じったような顔で「ベルナ、お前はもう来るな」と命じる。
ベルナはオホホホと笑って下がっていった。
……まぁそうね、ぶどうジュースは甘酸っぱさが魅力ね。
だけど生温かい目で見て微笑んでいったのは何だったのかしら?