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【06-12】

「ねぇエル、カミラ様は私を許してくれるかしら?」


「うーん……あなたを消そうとしたんだろう? そこまでしてきたのなら無理じゃないか?」



グサッ。それはつまり恨まれ続けるということになるのでは? 


別に好かれたいわけではないが、憎まれるというのは不本意で苦しい。



「そ、そんな……だって、寝て起きたらユリウスに別の婚約者がいるって言われて、そんなの『はい、わかりました』ってすぐ受け入れられるわけがないじゃない。それで向こうが会いに来れば少しでも話したくなって……たぶん現実を受け入れるためにもそういう時間がほしかったの。それで会いに行ってた。でも本当にユリウスとは会ってただけ――」



と話していてハッと気づく。


……あ、ついつい名前を出してしまったわ。



「あっ、えっと……ユリウスっていうのは、私が結婚の約束をしてた人の名前なの」



そう伝えると、エリオンはシェリルをじっと見つめて暫く黙り込んだ。ピクリとも動かない表情は何を思っているのかわからない。



「エル?」


「……ん? あ、あぁ、いや……ルミナリアの第一王子がユリウスっていう名前だったなと思っただけだ」



まぁ、さすがユリウス。隣国にもその名前は知れ渡ってるのね、なんて祖国の王子をちょっと誇らしく思いつつ、もう今さら知られたところで過去の話。何があるわけでもないから素直にエリオンに話すことにした。



「うん。私が結婚の約束をしてた人ってルミナリアの第一王子なの。もう無理になっちゃったけど」



夢破れたことを再確認して苦笑いしていると、無表情のエリオンが視線を逸らして「へーえー」と流れるように返事をする。


さほど驚いた様子がないのは、もう過ぎた話で特に興味がないということなのだろうか。



「とにかく、ユリウスとはただ会ってただけよ」


「そうか。何にしても、そのカミラっていう婚約者をなんとかしないとな。あなたが生きてるとわかればまた命を狙われるだろう」


「そうよね……」



ゾワッと背筋を寒気が駆け抜けて腕を摩る。カミラ様が怖い……。



「とりあえず、ここは一旦退却だな」



エリオンの言葉に、シェリルはハッとして眉尻を下げた。



「えーっ、もう? せっかくルミナリアに帰ってきたのに……」


「言っただろ。偵察に来ただけだ。それにあなたを攫わせたやつの目星も付いたわけだし大収穫だ。とりあえずテッド達(こいつら)は後で連れていくとして……帰るぞ」



すると「よし、下りるか」とさも当然のように崖に向かうエリオンに、シェリルの肌が粟立つ。


……何ですって?



「待ってエル……まさか、下りるって……」


「ん? もちろんここから戻る。大丈夫だ、しっかり掴まれ」



ここ、とはもちろん崖のことだ。


……嘘でしょ!? 全然大丈夫ではない上に、心臓に悪いから待ってぇぇぇッ! 


という心の叫びも虚しく、グイッと腰を押されて崖からエリオンと共に飛び下りた。



「ヒッ……!」



図らずもむんずと蝉体勢でしがみついて落下。


こうして崖下にたどり着いた時には――



「おーい、シェリー嬢、しっかりしろ」



エリオンにペチペチと頬を叩かれて、シェリルはハッと目を開ける。気を失っていたらしく、上った時より『一瞬でヒュンッと瞬間移動』という感覚だった。


……が、それでいいわけがない。



「しっ、信じられない……もう……こんなの嫌……」


「大丈夫だって言っただろ。結構怖がりなんだな」



……違うと思うの。200メートルの崖から飛び下りて正気で平気な人なんて、あなたくらいだと思うわ? 白目を向いて泡を吹いてたりしたら居たたまれないけど大丈夫だったのかしら、と不安と恥ずかしさが込み上げる。



「エルのバカ! もう二度とエルと散歩なんてしないんだから!」



ありったけの苛立ちと悔しさと恥ずかしさを込めて文句を伝えると、なんとも悲しげにしょんぼりするエリオンの姿が目に映る。



「悪かった……」



……なっ、何よそれ。


血走った目であっという間にテッド達をやっつけた強者(ライオン)が、シェリルの一言で小さくなって項垂れる。


かっ……かわいい。


いやいや、そんなかわいくしたってダメよ。そんなのに絆されて許したりしないんだから。許したり……しないんだか……ら……。


え~、そんな悲しそうにしなくても……。


……うぅぅぅ、無ぅぅぅ理ぃぃぃ。



「う、嘘よ……。エル、一緒に偵察に行ってくれてありがとう」



なんて言って微笑んでしまう絆されやすい自分が憎い……。



「……怒ってないか?」


「うーん、怒ってなくはないけど……感謝の気持ちの方が大きいわ」



それは本当のことだ。



「そうか」


「ええ。あなたのおかげで『依頼者も』わかったことだし、とても感謝してるの。だから――」



話してる途中で嬉しそうに破顔するエリオンの表情が目に映り、途端に心音が爆速で駆け上がる。


あらら、グッドルッキングはしょんぼりしても笑ってもかわいいのね、なんて壊れんばかりに高鳴る胸を押さえてエリオンを見つめていると……シェリルはふと首を傾げる。



「……あ……れ……?」


「ん? どうかしたか?」


「あっ……ううん、何でも……ない」



何となく、このかわいらしい笑顔を知っているような……。でもどこで見たのか思い出せない。



(どこで……?)



解決されないまま、エリオンと共にベリタス城へ戻った。


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