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【06-05】

崖際から10mほど離れた場所に放心状態のまま着地。フワフワの綿のような感触の魔法陣の上だからちっとも痛くなかったわけだが――



「よし、無事着いたな」



どこをどう取ったら『よし』で『無事』なのだろう。


満足げなエリオンに対してシェリルはというと、魂が抜けたかのように放心してその場から動けずにいた。



「震えてるな。立てるか?」



今すぐスクッと立ってツンとした態度で「平気よ!」と言って、なんなら文句すら言ってやりたいくらいなのに……悲しいことに腰が抜けて足に力が入らない。



「もうっ……信じられない。一生分叫んだ気分」



ついつい不満を前面に押し出してシェリルがそう呟くと、エリオンはフッと笑って腕を引いて立たせてくれた。



「怖かった?」


「当たり前じゃない! こんなの二度とごめんだわ!」



と口調は強気なのに足元はガクブル。支えがないと立ってられないという、情けないことこの上ない状況なのが居たたまれない。



「だから目を瞑ってていいと言ったんだ」


「そうだけど……こんな方法なら先に言ってよ」


「言ったぞ。『一気に上がる』と」



ウッ……確かに……確かにそう言ってたけど!



「もっとこう、シュッと一瞬で着くものかと思ってたのよ」


「一瞬……? あぁ、空間移動術は繊細で不得手だ」



出た、繊細=不得手。治癒術に関してもそう言っていたはず。


そういえば空中でも、広範囲な方が得意とかなんとか言ってたような……と思い出していると、エリオンの言葉が続く。



「もっと一瞬のうちに高速移動をすることも可能だが……加速度(G)の影響でシェリー嬢は即気絶すると思うぞ」



……CだかGだか知らないけど、そんなの関係なしにすでに即気絶しそうだったわよ! とは恥ずかしくて言えなかったが、言いたいことはほかにも多分にあるのだ。



「もっとゆっくり上ってくれればよかったのよ!」


「ゆっくりは……不得手だ。すまない」



ぐぬぬ……また出た、不得手。なるほど、とにかくダイナミックなのが得意ということか。



「そっ、そもそもカウントからおかしいのよ! 普通は3、2、1って言うものだわ」


「シェリー嬢があまり身構えずにいられると思ったんだ。リラックスしててほしかった」


「リラックスなんてしてたら、落差で余計に即気絶してたわよ!」


「そういうものか?」


「そういうものよ!」


「そうか……怖ければ、もっと(せみ)のようにへばりついてもよかったんだぞ?」



エリオンにクスッと笑いながらそう言われると、カッと顔が熱を持った。なぜだか妙に恥ずかしくて仕方がない。


シェリルは羞恥で顔を赤く染め、プルプルと肩を震わせた。



「もうっ、笑わないで!」


「ん?」


「何よ……ッ……蝉のことなんて忘れてほしいのに……エルの意地悪!」



あれぇ!? 何これ……どうしていきなり泣きたくなるの!? 少しだけ恥ずかしかったことを少しだけ笑われただけのことなのに……。


思えば今日の自分は少しおかしい。ちょっとしたことでドキドキしたり泣きたくなったりする。


大分元気になったつもりだったが、まだ元気とは言えない……のだろうか? 


戸惑っているのはシェリルだけではないようで――



「あぁ……泣くな。悪かった。からかいが過ぎたようだ」



エリオンの漆黒の瞳は細かく揺れ、シェリル以上に動揺している様子だ。



「べ、別に泣いてなんかないもん……」



と言いつつ、ぐすんと漏れる鼻すすり。



「うん、そうだな、あなたは泣いてない。俺の見間違いだ。すまない」


「……エルの……バカァ」



――と口を尖らせて悪態をつく自分にシェリルは内心驚いていた。


淑女らしくない自分を、エリオンには真っ直ぐぶつけていることに気づく。知り合ってからそう日が経っていないというのに。


きっとエリオンという人が全部受け止めてくれる人だから……子供っぽい部分も丸ごと全部受け止めて包み込んでくれそうな人だからなのだろうと思う。



「うん、俺はバカだ。悪かった。シェリー嬢が元気に叫んでるのが嬉しくて調子に乗った」


「元気に叫んでるっていうより必死に怒ってるのに……」


「そうか、怒らせてすまない。どうか許してほしい」



エリオンは申し訳なさを滲ませた困ったような顔で見つめる。


紳士的な態度で許しを懇願するようなエリオンに、感情のどこか一端をくすぐられ、(ほだ)され……シェリルは口をキュッと結ぶ。


大人らしく穏やかに振る舞うエリオンを見ていると、子供みたいに一人で怒ってメソメソしてるのがちょっとバカらしくも恥ずかしくもなってきたのだ。



「……怒ってごめんなさい」


「いいや、全て俺が悪い」


「そんなこと……」


「いいや、俺が悪い」



この潔さにも、負の感情がどんどん削がれていく。


シェリルは深く息を吐くと、ややモジモジしながら話し始めた。



「エルってずいぶんめちゃくちゃな人ね。本当に落ちて死ぬかと思ったのよ?」


「あなたを落とすようなことは絶対にないよ」


「すごい自信ね」


「あなたのことは俺の命に代えてでも守るつもりでい――……」



さらりと放たれた言葉は、何の準備もしていなかったシェリルの心にトスッとスムーズに刺さった。


……今、とんでもなく熱烈なことを言われた気がするのは聞き間違いだろうか。


突沸するかのように顔に熱が集まっていくのを感じながらシェリルが大いに動揺し始めると、目を丸くしたエリオンはシェリルから離れて顔を背けた。



「あー……悪い……」


「え? う、ううん……」


「その……俺には、あなたを保護している責任があるから……という意味だ」



あ……あー、うんうん、なるほどなるほど。保護者としての責任で守ってくれるという意味ね。それに騎士には騎士道精神というものがあると聞くから……それを重んじてるのよね。


そうわかれば、顔の熱がぷすんと鎮火するように冷えていく。



「そうよね……でも命に代えなくてもいいわ」


「あ、あぁ……」



危ない危ない、おかしな勘違いするところだった、とシェリルは安堵の息を漏らす。


そしてチラリとエリオンを見ると、パチッと目が合う。ハハハハッと互いに乾いた笑い声をあげ、次には互いに逸らす視線。


何だか気まずい感じがするのはなぜだ……。


勘違いとはいえ、シェリルの心の奥には鎮火せずに小さく燻ぶるような熱がまだ密かに残っているような感覚がした。


なかなかしっくりこなくて、更新を見送っておりました(。>ㅅ<。)ゴメンナサイ

今後、ブラッシュアップのため更新頻度が少し落ちます。

気長にお付き合いいただけると嬉しいです(*´˘`*)

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