【05-03】
※少々残酷な表現が含まれます。
「やっ……ッ!」
こんなよくわからない男たちに肌を見られるなんて屈辱的でしかないのに、両手を押さえられて隠すことができなかった。
「あーあ、せっかく売れそうな服だったのに」
「あぁ、悪い。めんどくさくてよ、つい」
だんだん何をされるか状況が呑み込めてきたシェリルがカタカタと体を震わせると、それを見てニヤニヤと男たちは笑う。
これはユリウスとの逢瀬が許されないことだったと、神様にお仕置きをされているのだろうか。
天罰として受け入れるには辛すぎる現実に、恐怖でシェリルの奥歯はカチカチと音を立てる。
「なんだ、震えてらぁ。こういうの好きなんじゃねーの?」
「ほらあれだろ、武者震いってやつだ。俺たちと遊ぶのが楽しみなんだろ」
がっはっは、と男たちは小馬鹿にしたように笑う。
(嫌よ……夫となる人以外に体を見せてはいけないんだもの。触られたくない)
「誰か……助けて……!」
必死に声を上げると、さらに別の男がスカートの裾をめくってシェリルの脚に手を這わせた。
「残念。俺らの仲間しかここにはいねーよ」
「ひっ……ゃ……や、やめ……ッ!」
男の手が気持ち悪くて咄嗟にじたばた暴れると、足が弱々しくも一人の男の顔に当たる。その拍子に抑える力が緩んだことを「やった!」と喜んだのは一瞬だった。
「いてーな! 暴れんな!」
振り下ろされた男の分厚い手が頬を打ち、重い衝撃を頬に感じる。視界がクラッと霞んで暗くなり、口の中には生温い鉄の味が広がった。
「おい、顔殴るなよ。売れなくなったらどうすんだ」
「あぁ、悪い悪い。やられたからやり返しちまったんだよ」
がはは、と笑う男の声が頭の片隅に聞こえると、また別の男が加わって脚を押さえられる。そして頬を打った男によって首にはナイフが突きつけられ、最早少しの抵抗すらもできなくなった。
するとさらに大きく胸元の服を破かれ、ボタンが無残に弾け飛ぶ。
「――ッ、ぅ……っ……」
(怖い……こんなの嫌よ……見ないで……私に触らないで……)
そう思うのに身が竦んで力が入らない。恐怖でワナワナと唇が震え、声が出ない代わりに涙が次々と零れ出た。
(嫌……嫌……! 誰か助けて!)
そう思ってハッとした。
(……あぁ、でもそうだ。封印の時だってそうだった。誰も私のことなんて助けてくれなかったんだ)
あの時は自分で何とかして乗り越えた。でもこんなのをどうしろというのだろう。力の強い男たちに押さえ付けられ、自力でなんてどうにもできない。これ以上頑張れない……。
どんなに望んでも叶わないことがあるんだ……。
そんな絶望感が次第に心を覆い尽くし、体が、心が、侵食されるように闇に溶けていく。
相変わらず男たちが小汚く笑っている声がぼんやりと耳に入る中、シェリルの体からはダラリと力が抜け、表情からは嘲笑が漏れ出た。
「何だ? 急にコイツ大人しくなったな」
「笑ってるぜ。イカれたか?」
するとシェリルの頬を打った男がシェリルの胸元を覗き込む。
「……ん? こいつ、なんか変な痣があるな」
「痣? どれ?」
「ほら」
そう言って男が痣に触れようとしたその時、シェリルの頭の中には別の声が響き渡っていた。
『選び選ばれよ』
『許し許されよ』
『可否を選択せよ』
すると一際大きな声が響いた。
『審判を下せ』
「――私に触れるな!」
体も思考も乗っ取られたかのようにシェリルが目を見開いてそう叫んだ瞬間――
「ぎゃぁぁーーッ!」
右手指先で痣に触れようとしていた男の口から断末魔の叫びが上がった。男の右腕が黒い炎に包まれ、瞬く間に灰になるように脆く崩れて消えていったのだ。
我に返って見えたその光景に、シェリルは驚愕し戦慄する。一体何が起きたのかわからなかった。
肩まで真っ黒な火に包まれて地面でバタバタと転がり苦しむ男の様は、吐き気をもよおすほど凄惨で、血の気が引いて奥歯がガチガチと鳴った。
「お、おい! 何なんだよこれ! 女、何をした!」
何って、こんなの知らない。こっちが聞きたい。そう言いたくても独特の焼け焦げる臭いが鼻を突いて、喉の奥からせり上がるような気持ち悪さから声を発することができなかった。
「くそっ、こんな話聞いてねーぞ! テメーら、この女に近づくなよ!」
「兄貴、この女どうすんだよ」
そんなやり取りにハッとして男たちを見ると、悪臭に手で鼻や口を塞ぐ男たちの間には明らかな動揺が見て取れる。そして惨状に恐れをなして男たちが離れていったおかげで、シェリルの手足は自由になっていた。
(は、早く……早く逃げなくちゃ……ッ……)
二度とないかもしれない好機。扉が開きっぱなしの小屋から飛び出すのは容易なはずだ。
せり上がってくるものなんて喉の奥に押し込み、シェリルは震える手でそばに落ちているナイフを拾う。
そしてそれを叫び声を上げながら一心不乱に振り回すと、頽れそうな脚に鞭打って、脇目も振らずに小屋から逃げ出した。