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【05-02】


視界は真っ暗闇。


体に纏わりつくのは……布? 


……あぁ、そうだ、あの時――



◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇



「あのね、お母様……お願いがあるの」



ユリウスとの関係を清算すると決めた昨夜、シェリルはリボンでラッピングを施した包みを手に、いつもの時間に屋敷の門の外に出てユリウスを待った。


手にしているのはマドレーヌ。聖女に選ばれる前、『次の時に焼いて持ってくるね』とマドレーヌを焼くことを約束したのを思い出し、先ほどセイラと共に焼いたのだ。そしてこれはユリウスへの最後の贈り物だ。


シェリルはセイラの話を聞き、ユリウスに会うのはこれで最後にすると決めた。


自分の知らない3年という間に一変した状況。受け入れるのは未だ苦しいままだが、ユリウスのことを考えれば、こんなふうに会っていることは良くないことだと納得した。きちんとお別れを言おう。そして婚約おめでとうと伝えよう。


そう決意してユリウスを待つ間、天を見上げれば夜空に少し雲のかかった月が見える。



「ユリウスが……幸せになれますように……」



月に向かってそう呟くと、自然と涙が零れ落ちた。


次々と零れ落ちる涙を必死に止め、(うつむ)いたまま一つ大きく息を吐き出した。もうユリウスが来る頃だから泣いてちゃダメだ。


そう気持ちを切り替えて涙を拭い、口角をキュッと上げ、顔を上げたその時――



「キャッ!」



シェリルの視界は突如、夜空よりもずっと真っ暗闇に包まれた。頭から何かを被せられたのだ。


何が起きたのかわからず声も出ず、ただ必死に暴れる。ところが体を包む布のようなものに邪魔されて身動きが取れなかった。



「暴れるな。殺すぞ」



その男の声に、途端に体が委縮。恐怖で体の震えが止まらなくなった。


そして担がれて乱暴にどこかに下ろされると、ガタガタと揺られるままどこかへ運ばれていく。


屋敷の門の前には、シェリルの抱えていたお菓子の包みだけがポツンと残された。




何も見えないまま、声も出ないまま、身動きも取れないまま、どこへいくかもわからないまま……シェリルはただ体を震わせて縮こまった。体を包むものの中で、自分の震える息遣いだけが荒く激しく聞こえる。



(……何なのこれ? 一体どうなってるの? 怖い……)



しばらく運ばれたところでまた担がれ、また運ばれ、担がれ。


途中「どこへ連れて行くつもりなの?」と震えながらも声を上げれば、「痛い目みたくなかったら黙ってろ」と言われて怖くなってまた口を閉ざす。


そうしてたどり着いた先で被せられたものがようやく外され、最初に目に映ったのは――



「よぅ、長旅ご苦労さん」



明らかに柄の悪い複数の男たちの顔だった。


狭い小屋のようなところでニヤリと笑う男たちに囲まれ、地べたに座り込んだままたじろぐと、そのうちの一人の男が口を開いた。



「兄貴、随分いいとこのお嬢さんって感じだけど、コイツが、相手のいるやつを(たぶら)かすような悪い女なわけ?」


「そうらしいぜ。まぁ見かけによらず、『そういうの』が好きなんだろう」



兄貴と呼ばれた男がそう言うと、へっへっへっと周りにいる男たちは小汚く笑う。



「好きなようにしていいって言われてるけど……お嬢さん、『そういうの』が好きなら俺たちとヤる?」


「おいテッド、もうちょっとお上品に言葉を選べよ」



再び男たちは小汚く笑っているが……テッドと呼ばれる男の言葉にシェリルは首を傾げる。



「そ……そういうの……?」



って何? 何をする話? いい話の予感は全然しないけれど、何かはよくわからない。


するとテッドは訝しげにシェリルを見つめる。



「何とぼけてんだよ。今さら蒲魚(かまとと)ぶったって無駄だぜ」


「えっ? かま……とと?」



とぼけてるわけでも何でもなく、本当に意味が分からないのだ。それでも漠然とした不安と恐怖に怯えて脚が震える。



「何だよ、本当にわかってねーのか? しょーがねーな。男と交わるのが好きなんだろうって言ってんだよ」


「まっ……まじ……わ……!?」



14歳直前で知識が止まってるわりにはシェリルにはそれがなんとなくわかってしまった。


……あれでしょ? 男の人と唇を合わせたり、何も纏わずに肌を見せ合ったりするんでしょ? ――とそんな程度に。


それを自分が好むと思われてる理由は謎ではあるが、小汚い薄ら笑いを浮かべる男たちがじりじりと近づいてくれば、ただただ恐怖心が(つの)る。



「こ、来ないで! あなたたち、い、一体何なの?」


「何って……人攫って金貰う仕事をしてるんだよ、って言えばお嬢さんにもわかるかな?」



テッドはバカにしたような言い方で(あざけ)るように笑う。



「悪い人たちってことね?」



震える声で必死に虚勢を張ると、テッドがニヤリと笑った。



「人のモンに手ぇ出すお嬢さんに言われてもな」


「人の……モン……?」


「相手のいるやつに手ェ出してんだろ? 男を誑かす悪い女だって言うからよ、世のため人のために俺らが成敗してやるんだよ。俺たち正義のヒーローだな」



がっはっは、とテッドが下品に笑うと、それに続くように男たちも皆、粗野な笑い声を上げた。



「だ、誰がこんなことを……」


「そんなの知るかよ。俺らは金の払いっぷりさえよければどこの誰だろうとどうでもいいからな。まぁどのみち売るなり殺すなり好きにしろって言われてるから……なぁ、どっちがいい? 特別に選ばせてやるよ」



売るか殺す? 殺すは否応なしに意味がわかるが――



「売るって……何?」


「はぁ? お前結構バカなんだな。そりゃ、あんたが奴隷になって働くか、体を売るかってとこだろうがよ」



奴隷はわかるけれど、体を売る? 体って売れるの? 手とか脚とか……? 考えるだけで痛そうで恐ろしい。いい予感なんて一つもしなかった。



「そ、そんなのどっちも嫌!」


「嫌だって言われても知らねーよ。じゃあ、しょーがねーから決まるまで俺らが遊んでやるよ」



遊ぶって何するの? と一瞬疑問に思う間にも、テッドに乱暴に突き飛ばされたシェリルは床に倒れ込む。


そしてすぐさま別の男に両手を押さえつけられると、胸元に掛けられた目の前の男の手によって、シェリルの服は乱暴に引き千切られた。


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