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【01-02】

すると苦労人インテリ従者が90度横を向いたまま問う。



「それで……あなは一体何をしたのですか? 正直に白状したほうが賢明ですよ?」



誰に向かって話してるんだかわからないシュールな絵面で真面目に問われて拍子抜けしそうだが……


何をしたかと問われれば、それは――



「ゆ……許されない密会を……したわ」



思い出すだけで涙が溢れ出しそうだが、地獄の番人には逆らえない。



「ほぉ。それで、何の取り引きをしていたのですか?」


「取り引き?」


「密会してたのでしょう?」



シェリルは唇を噛み締めて思う。


取り引き。取り引きか……。大人はそういう言い方もするということなのだろうか。言うならば、元婚約者と秘密の取り引きをしていたということになる。誰にも言えない秘密の取り引きだったが、地獄に落ちてまで隠しても仕方がない。そう思って正直に白状することにした。



「そ、そうね、してたわ。でも許されないってわかってるの。国の宝を自分勝手に奪うなんて……そうよね、ダメなことよね。ごめんなさい……。だから……っ、諦めるって決めたのに……それなのに攫われて、襲われそうになって……なんとか逃げたのに、足を踏み外したの……ッ……」


「なるほど、あなたは国宝に狙いを定め、諦めようとしたものの諦めきれずに、結局盗みを働いた。しかし仲間割れした挙句に、道理から外れるような行為をした、と?」



苦労人インテリ従者にそう言われて、ちょっと疑問で首を傾げる。



「仲間割れ……? よくわからないけれど……そうね、でも彼の心を盗んだところで何の意味もなかったのよ……」


「彼の心……? いまいち話が見えませんね……」



すると変態グッドルッキング魔王がハァッと呆れ顔で息を吐き出して苦労人インテリ従者に告げる。



「おい、この人は(もぐ)りではない」


「は? なぜそう言い切れるのです?」


「俺の勘」



モグリって何かしら? と思うシェリルを置いていくように、従者と魔王は――



「勘って何ですか。そんないい加減な」


「結構当たるだろ」


「そんなもので決められては困りますよ。示しが付かない」


「俺が責任を取るからいい」


「あなたが責任を取ったらここのボスがいなくなるでしょうが」


「どうして外れるのが前提なんだよ」



とか何とか非紳士’sはごちゃごちゃと小競り合いをしているのだった。



(ねぇ、モグリって何なのってば?)



シェリルが目をパチクリさせて話の行方を探っていると、従者が咳払いをして横向きのまま再びシェリルに問う。



「それで……あなは一体何をしたのですか? 正直に白状したほうが賢明ですよ?」



なぜ話が最初に戻ったのだろう。従者は何でもない素振りで聞いてるけど……あなたたち、ちょっとおかしいわよ? と、その意味不明さにシェリルは顔を引きつらせた。



「ついさっき正直に白状したのに……」


「ちょっと誤解がありました。ですから改めて話してください」


「そんな……」



地獄というのはやはり酷い場所らしい。思い出しただけで涙が溢れそうな話を繰り返しさせるだなんて、ずいぶん辛い罰だ。


今にも泣き出しそうになって黙っていると、従者がしびれを切らしたように話し始めた。



「一度話を整理しましょう。ここはエーデルアルヴィア王国内にある辺境の地・ベリタスです」


「……えっ!? エーデルアルヴィア王国!?」



エーデルアルヴィアといえば、シェリルの住むルミナリア王国の隣国。その国土面積はルミナリアの3倍以上、人口も5倍以上の大国で、もちろん地獄でもなく魔王がいる世界でもなく、生きてる人々が暮らす国だ。



「嘘……私、崖から落ちたのに生きてるの!?」


「……は? あなた、崖を落ちてきたんですか?」


「うん、そう。私生きてるのね……」



暗くて下が見えないくらいの切り立った崖。そこから落ちたはずなのに……。



「本当にあの崖から落ちたんですか? 上から?」


「そう……だと思うけど、必死だったし、途中から記憶がないの。でもてっきり地獄かと思ってたわ。違うのね」


「地獄? あなたはずいぶん不思議なことをおっしゃいますね。私たちが一体何に見えていたのでしょう……」


「えっ? それは……変態グッドルッキング魔王と……苦労人インテリ従者? 二人合わせて非紳士’s、みたいな感じ?」



正直にそう答えると、従者の顔はみるみるうちに怒りで赤色に染まる。



「なっ、何ですかそれは……。この際、魔王とか従者とかグッドルッキングとかはいいとして、変態とか苦労人とか非紳士’s とはどういう意味です?」


「だって恥ずかしいって言ってるのに胸を隠させてもくれなくて……従者のあなたは女性に騙されて苦労をしたことがあるのでしょう? 辛い経験だったのね」


「……はぁ?」


「こっちの魔王は私の胸元をじっと見てたわ」



するとインテリ従者が背けていた顔をぐるりと魔王に向ける。



「あなたという人は……じっとなんて見てたんですか!?」


「だ、断じて違う! それにそういう意味で見たわけではなくてだな……」


「せめて相手を選んで見てくださいよ」


「何だそれ。選べば見ていいのか?」


「……まぁ、そういう時は、一応お相手に一言添えて――」


「『見ていいか』って聞くものなのか?」


「……」


「お前苦労人なんだな。知らなかった」


「あなたのおかげで苦労はしてますね。ですが女性を騙しても、騙された覚えはありません」


「堂々と言うことじゃないな」


「あなたのせいで騙す羽目になるんじゃないですか」


「え、俺? 知らんな」


「それはそうでしょうよ。私が影武者の如く雑務処理をしてますからね」


「これからも頼む」


「嫌ですよ!」



とか何とか非紳士’sは再びごちゃごちゃと小競り合いをしているのだった。


(ねぇ、あなたたち仲良しね。暇だわ……)


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