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【04-05】

◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇


封印を終えて長い眠りから目覚めたのちは、医官の診察を受け、薬湯を喉に流し、少しずつ食事を始めた。不思議と眠っていても体の機能を維持する最低限の栄養や筋力は保持され続けていたらしく、ゆっくりとであれば歩行もできる状態だった。


眠っている間は頻繁に医官が訪れ、シェリルの体調を維持してくれていたらしい。セイラは「奇跡だわ」と涙を流して医官に礼を言っていた。



「そうだ……ユリウスは元気にしてるのかしら?」



医官が帰った後でシェリルがそう聞くと、ブラッドとセイラは顔を見合わせた。そしてセイラは微笑みを向け、ブラッドは表情を変えないまま教えてくれた。



「あぁ、お元気でいらっしゃる」


「そう……それならよかった。きっとユリウスを待たせてしまったのよね……」



3年の間にお互い成人し、すでに結婚できる年を越えていた。



「まぁまず、体を元どおり元気にすることだけを考えなさい」


「もう元気よ」


「まだわからないだろう。数日は安静にして様子を見るように医官も言っていた。従いなさい」


「……わかったわ」



そう返事をしつつ、シェリルは視界に入ったセイラの表情を気にしていた。


笑顔が少しだけ歪に見えるのは気のせいだろうか。




数日後、王の呼び立てに従い、シェリルはブラッドと共に王城へ出向くことになった。



「シェリー、よく聞きなさい。この3年で王太子様は王様に即位なさった」



馬車の中でブラッドにそう言われ、シェリルは「へーえー、そうなんだ」と淡く嬉しさを滲ませて返事をする。ユリウスの父が王になったということは、ユリウスは王太子になったことになる。順調に未来へ進んでいるユリウスが誇らしいのだ。


そしてどうやら眠っている間にブラッドは大臣から宰相(さいしょう)に変わったらしい。国王が最も信頼する者をその地位に付かせると言われる宰相という職。立派に出世した父のことも誇らしく思うものの、時間の経過が身に染みる。


そしてシェリルには一つ気になってることがある。


目覚めて数日が経ったものの、ユリウスにまだ会っていないのだ。


彼ならすぐに会いに来てくれると思っていたのだが、王太子となった今は時間が取れないほど忙しいのだろうか。彼のことだ、きっと立派な大人になって真面目に公務に(いそ)しんでいることだろう。


シェリルにとってはここ数日で急に3年も経っているという感覚なのだが、確実に時は進んでいることがわかってきた。


ユリウスは一体どんな姿になっているのだろうか。


期待を膨らませていると、ブラッドが迷うように口を開いた。



「それとな、シェリー……」



硬い表情のまま言葉の続かないブラッドを見て、シェリルは首を傾げる。



「なぁに?」


「……いいかシェリー、王様や王妃様のおっしゃることを、玉座の間では拒否をしてはいけないよ」


「不敬だって言うのでしょう? それくらいわかってるわ」


「……あぁ、それならいいんだ」



ちょっと様子のおかしいブラッドの言葉に、言いようもない不安が(つの)った。



期待と不安を胸にブラッドと共に玉座の間へ向かうと、玉座にはユリウスの父と義母である王と王妃が座り、そしてそのすぐそばに立つのは……距離はあるものの、一目見てすぐわかった。ユリウスだ。


相変わらず目が真ん丸でかわいらしさは残っているものの、背がスラッと伸び、3年前より随分男らしい顔つきになっていた。



(すっかり大人の男性になって……)



国のために熱心に学ぶユリウスの姿をたびたび見てきただけに、ホロッと泣いてしまいそう。それはまるで、子の成長を喜ぶ親のようだ。


チラチラとユリウスに視線を向けつつブラッドと共に玉座に近づいて(ひざまず)くと、王がシェリルに告げる。



「シェリル・エレノア・レドモンド。よくぞ無事に戻った。その身をもってこの国を守ったことに感謝の儀を述べる」



王に感謝を述べられたものの、シェリルは聖女になることを全力で拒否しようとしていた手前、そんなに胸を張れるものでもないというのが正直なところだ。



(国を守ろうと思ったのではなく、家に帰りたかっただけです! 追い詰められて嫌々封印しました! とは言えないわ……)



ヒリヒリするような緊張感の中、威厳ある人物を前にしてなんと返したらいいのかわからず固まっていると、代わりにブラッドが返してくれた。



「恐れ多いお言葉です」


「何か褒美を取らせよう。望みはなんだ?」



するとブラッドがすぐに答えた。



「それはまた追々お伝えを……」


「そうか。ゆっくり考えるといい。……望むならば良い縁談も探させよう」



王にそう言われてシェリルは目を点にした。


……縁談? 縁談って結婚の話よね?



「あ、あの……私はユリウス殿下と結婚の約束をしているので、縁談は……」



どこか不穏な空気を感じつつシェリルがそう答えると、王がブラッドに告げる。



「話していないのか?」


「申し訳ありません。まだ目覚めて数日でしたので……」



すると王の視線がシェリルに向く。



「そなたは妃候補として最も有力だったが、長く眠っていた関係で候補からは外れた。しかしユリウスの強い希望もあってつい先頃までそなたを待ってはいたのだが、それ以上は待てなかったのだ。すでに別の者に決まった。これも定と思って受け入れてほしい」



……受け入れる? 何を? 


頭が真っ白になった。


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