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【04-04】

うるさいくらいに鳴る心臓は、恐怖のせいか緊張のせいか故障のせいか、それともそれ以外のせいなのか。


……は? それ以外って何よ? と自身に疑問を投げる間にも、掴まれた手が熱を持ち、今にも汗が吹き出しそうだ。


とにかくわけもわからず爆速で拍動を繰り返す心臓。



「お、お願いだから放して……ッ……」



手は震え、顔にまで熱を持ち、息苦しくなってくる。拍動と一緒に視界まで揺れてるような気がして、しまいには頭がクラクラしてきた。うわぁぁっと叫び出したいような胸いっぱいの感覚。


なんだこれ、どうなってるんだと自分のことなのに困惑する事態に、足の力がカクンと抜けて後方にヨロッとよろける。



「……おい、大丈夫か?」



エリオンの手が腰に回って力強く支えられる。



「へっ、平気!」



体重の9割をエリオンの腕に委ねているという状況なのに、「平気」とはよく言ったものだ。


心の中で震える足にムチ打って自分の力でどうにか体勢を立て直すと、エリオンはまた憂いを滲ませて見つめる。



「すまない、怖がらせたいわけではないんだ。少し気持ちを落ち着けてはもらえないだろうか」


「へ?」


「アランにうるさく言われたからな。形式上整えておくだけだ。辛くも痛くもないから動かないでもらえるか?」



穏やかな声でそう言われると、心臓がうるさく鳴る中でもようやくきちんと息を吸えた心地がした。


するとエリオンが目を伏せ、漆黒の黒いまつげが瞳を僅かに覆うのが目に映り……シェリルはそれをおとなしく、というより釘付けになって見つめる。



(まつげ、長い……。今は瞳が真っ黒に見えるわ……)



(まばた)きのたびにハタハタとはためく漆黒のまつげと、美しい漆黒の瞳のコラボレーション。


それが美の競演のように見えて、別にまつげフェチでも瞳フェチでもないのに、ついつい見惚れる。



(こういうのをなんていうの? 綺麗? 目を引く? ……あ、そうよ……これが色っぽいというものかしら?)



街中の女性たちの言葉に遅ればせながら共感していると、エリオンがおもむろにシェリルの手の甲に指を走らせ始めた。


恐怖や痛みどころか、体を(よじ)りたくなるくすぐったさに思わずくふっと笑いが零れる。


これは……ある意味辛い。


それに気づいたエリオンもクスッと笑っているのがちょっと(しゃく)だ。



「エル、意地悪なことしないで」



と言ってる間にも再びくふっと笑いが(こぼ)れた。



「意地悪をしたいわけではないんだ。悪いな、少し我慢してもらえるか?」



そう言ってエリオンは考え込みながら甲に何かを描いていく。とは言っても指でコショコショとなぞられているだけだから、何を描いてるのか目には見えない。



「ねぇ、何してるの?」


「ん? この城は俺の『巣』であり『テリトリー』でもあるんだ。だからここに滞在する者には基本的に行動に制限をかけていて――」



するとエリオンとパチッと目が合う。



「ここからは……簡単には逃げられない」



じっと間近で見つめられてゾクッと背筋に寒気が走ったのは本能的な恐怖によるものだろうか。


まるで監禁されるかのようではないか。


あら私、来る場所間違えたかしら? と思ってももう遅い。


シェリルの手の甲が金色に光り、円とシンボルと文字がパッと浮かび上がった。



「えっ? これって……」


「簡易型の魔法陣」



ルミナリアの神殿で見たものはもっと複雑で細かい文字が刻まれていたが、確かに似たような感じだ。



「エルは魔術が使えるのね」


「あぁ」


「もしかして、私に魔術をかけたの?」


「そうだな」


「私どうなるの?」


「動けるのはこの部屋からすぐそばの浴室まで。しばらくは大人しくしていてほしい」


「……それ以上先に行こうとするとどうなるの?」



するとエリオンが申し訳なさそうに眉尻を下げる。



「サービスで雷撃や火炎は出ないようにしておいたが、見えない壁にはぶつかる。気をつけて」



……はい? これって「サービスしてくれてありがとう」ってお礼を言うべきところなの? 


えっ? 待って待って、雷撃って何? 火炎って何? この人、サービスしなければ雷や火を出す力があるってこと? 


綺麗な顔をしてるわりに、ずいぶん恐ろしい人なんじゃない? やっぱり魔王? 


えっ、冗談よね? 


頭の中が疑問符でいっぱいになる中、エリオンが再び口を開いた。



「シェリー嬢、申し訳ないが、あなたのことを調べるためにももう少しだけ話を聞かせてほしい。3年眠って目覚めてからはどうなったんだ? 確か『許されない密会をしていた』と話していたな。地獄に落ちるほどの許されない密会だったのだろう?」



そう言ってエリオンにクスッと笑われて、シェリルは居たたまれず苦笑いを向けた。



「それはまぁ……そうね。してたわ」


「そうか。それに……なぜ崖から落ちたのかを聞いていない」



そう言われた瞬間、キュッと喉が狭まるような感覚がした。


重苦しい音を立てる胸に手を当てていると、その様子をエリオンがじっと見つめていることに気づく。


……ダメよ、淑女らしくしていなくちゃ。



「あ、あぁ、そのこと? それは――」



ゾクッと背中に寒気を感じつつ、何でもないふりをしながらエリオンに話すことにした。


ご覧いただきありがとうございます。

このあとは、10日ほどさかのぼったシェリルの少し辛いお話。

書いてて苦しくなりますが、がんばります。

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