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【04-03】

結局足場の悪いところなんて見当たらないままエスコートされて向かった先は――



「着いたぞ」



エリオンにそう言われて、シェリルはあんぐりと口を開けた。



「あ、あの……えっと……エリオン様?」


「『様』なんていらない。そ、そうだな……『エル』と……呼び捨てで……呼んでもらえれば……」


「そう? それなら……エル?」



遠慮なく言われたとおりにそう呼ぶと、クワッと目を見開いたエリオンがすぐに顔を背ける。



(びっくりした。何、どうしたの?)



顔を背けているため表情は見えないが、なぜか肩を震わせている。



(……え、怒ったの?)



そう呼ぶように言ったのはエリオンなのに、よくわからない不思議な人だ。



「ねぇ……エルさん」


「だから『さん』なんていらない」



え~、よくわからない人だなぁ。


シェリルは溜息を一つついて改めてエリオンを呼んだ。



「じゃあ……エル?」


「……ッ……うん……何だ?」



不審な反応をするエリオンのことも気になるが、それより何より――



「あの……ここって……」


「あ、あぁ。一応、俺の家だ」



目の前にそびえ立つのは巨大で強固な石造りの門。そしてぐるりと一帯を囲む頑丈そうな壁。開かれた門の向こうには大きな建物が見え、さらには高い塔が幾つも見える。


……これを家とは呼ばないと思うのよ? だって――



「家っていうか、お城じゃない!」


「そうだな。ベリタス城だ。規模は大したことはないが城塞の役割をしていて……住み心地もそう悪くない」



なんだかこの人、尺度がおかしいと思うの……。それとも大国エーデルアルヴィアではみんなこんな家に住んでいるのだろうか……? 


いや、そんなわけあるか落ち着け、とシェリルは自分に突っ込みを入れる。


塀に囲まれた城塞に住まうこの人物。一体どういう人なのだろう。


シェリルはノコノコ付いてきながら、エリオンという人のことを『魔王ではなくて人間』『アランよりは偉い人』というくらいにしか知らないことに今さら気づいたのだった。


そして……手はまだエスコート中なのだけど、いつ離すのかしら?



「さぁ、行こうか」


「え、ええ……」



エスコートされたまま城内に向かって足を進める。門に立つ兵士が「おかえりなさいませ、隊長」と綺麗に敬礼をすると、エリオンが「あぁ」とちょっと偉そうに返事をした。



(この人って何かの隊長なの?)



シェリルのイメージする『隊長』の姿は、ルミナリアの近衛隊に所属するもっと無骨でもうちょっと年上の人物なのだが、エリオンはそれとはずいぶん違って華奢で品があって若く見える。年齢なんてユリウスや兄・デヴィットと変わらないくらいではないだろうか。


ナチュラルに整えられた少し長めの漆黒の髪は艶っとしていて、男らしいというより美しいという見た目。


貸してくれたマントは上品なデザインで非常に肌触りがよく質のいいものだ。おまけにふんわりと甘くていい匂いがする。



(これで隊長って……あぁもしかして、戦う方じゃなくて頭を使う方ね? 司令官のようなお仕事をする隊長かしら?)



と一人納得しつつ、何はともあれシェリルも「ごきげんよう」と門番に挨拶をして入城した。



案内されたのは、本館の隣にある別館3階の一室。客間らしいが、ずいぶんかわいらしく整えられてる。


いかにも女性向けと思われる部屋だが……これが客間? 


何となくだが……モテる人ゆえに必要な女性専用の部屋かな、とシェリルは拙い知識で何となく理解した。



「まだ身元が確定していない他国の人物に城内を勝手にうろつかれると保安上困ることも考えて、あなたには基本的にこの部屋にしばらくとどまってもらう。いいな?」



有無を言わせない形でそう言われて、シェリルは不満を滲ませた。



「えっ、それだと結局ここに一人ぼっちってこと?」


「侍女を一人付ける」


「……そう。わかったわ。でもそんな困るような私がお城になんて入ってもよかったの?」



自国の城ですらなかなか入れないのに、他国のよく知りもしない人間をあっさり城に入れるこの人物。


そんな調子で大丈夫なのかしら? もしかして未だ繋がれたままの手は、手枷(てかせ)の代わりだったりする? なんて疑っていると、エリオンが不意にシェリルの正面に立って距離をグッと詰める。


ドキッ! 


びっくりするくらい大きく跳ねる心臓は故障でもしたかと思うほど拍動を早める。


シェリルにとって今の自分の身長は3年前と比べて随分高くなっている感覚なのだが、エリオンはそんな自分よりはるかに背が高い。


そんな人に間近で正面から見下ろされれば……ただただ恐怖。そう、この故障(ドキドキ)は恐怖のせいだ。


シェリルは繋がれた手を無理矢理引き剥がし、サッと後退りして距離を取る。



「なっ、何よ……急に近づかないで!」



異常にバクバク鳴る心臓と、急に温度をなくして冷えていく手。


自分でもわかる。情けない……ちょっとビビってるわ、私。


警戒して毛を逆立てる猫のように護身の姿勢をとると、エリオンがガックリと項垂(うなだ)れた。



「すまない……逃げないでもらえると助かる。実務的にも……精神的にも」


「……え?」



どういう意味? と目をぱちくりさせていると、エリオンが顔を(しか)めながら再び距離を詰めてシェリルの手を掴む。



「ちょっ……ちょっと、何するつもり? 放して!」



見上げれば、黒に僅かに青の混じって見える瞳の美丈夫と目が合って、大袈裟なほどに心音が大きく鳴る。


そして眉根を寄せて憂いを滲ませたエリオンの表情に、シェリルはどう反応したらいいのかわからず困惑して顔を引きつらせた。



「そう怒らないでくれ。すぐに済む」


「す、すぐに済むって何!? 何しようとしてるのよ!」



怖っ! と内心思いつつ、でも……触れる手はすごく優しくて嫌じゃない。


意味不明な故障(ドキドキ)は続く。


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