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番外編2-13

馬車は着々とベリタス城へと向かう。



「ねぇエル、気になってるのだけれど……」


「何?」


「私って……やっぱり残虐かしら?」



不安ではっきり確認しておきたかったのだ。


するとエリオンはフッと笑う。



「いいや、全然。どう考えてもクローヴィスの方が残虐だろう。いつもちょっとズレてるんだ。気にするな。まぁ神だからな、俺たち人間とは感覚が少し違うんだろう」


「そう……かしら」


「俺は、父が受けたのがシェリルの裁きでよかったと思っている。だから心配するな。それよりシェリルはいつの間にあんなに神力を操れるようになったんだと、どちらかというとそれに驚いた。成長が嬉しかったよ」


「本当? あれは、アニーと一緒に暴漢対策で使えるように練習したの。くすぐるのはアニーと遊んでいるうちに編み出して……」


「そうか。……シェリル?」


「うん?」


「父を救ってくれたあなたを、心から誇らしく思う。よく頑張ったな」



そんな労いの言葉と共にエリオンが頭を撫でてくれるとホッとして緊張の糸が切れ、途端に堰を切るように涙が溢れた。



「エル……ッ……」


「またあなたに救われた。ありがとう、シェリル」



ギュッと抱きしめてくれるエリオンの腕の中が、いつも以上に恋しく感じられた。




シェリルが泣き止んだ頃、エリオンが問う。



「クローヴィスが怖くはなかったか?」



思い返せば、そういう感覚はあまりなかった。自分に向けられる表情は非常に優しいものだったからだ。


……最後は引いた目で見られたが。



「怖いというより……ちょっと短気で変な人だったわ」


「それはそうだな。俺もそう思う」



二人で顔を見合わせてクスッと笑う。



「エルとは全然違う感じだった」


「そうだろう?」


「ねぇ、クローヴィスは私に会ってどう思ったのかしら?」


「んー……」


「なぁに?」



するとエリオンはクスッと笑って告げる。



「騒がしくて残虐で愛い奴だ、と言っている。シェリルのことが気に入ったみたいだ」


「……さすが変な神様ね。全然意味がわからないわ」


「意志の強さを宿す眼差しが好きだ、とも言っている。……それは同感だな」



残虐さに引いた目をしていたのに、気に入られる理由がいまいちわからない。


するとエリオンがシェリルをじっと見つめる。



「シェリル、俺も気になってることを聞いていいか?」


「何?」


「あなたの中にはクロティルダがいるだろう? クローヴィスを好きにはならないのか?」



シェリルは目を点にする。エリオンの言葉があまりにも意外だったのだ。



「……考えたこともなかったわ」


「そうか」



神だろうと人だろうと、ほかが入る余地は自分の心のどこにもないのだ。



「私が好きなのは……」


“エルだけだから、エル以外になんて全く目がいかないの……って本音をそのまま伝えたら重いかしら? ちょっと遠回しの方が……って、あれ!? また私閉じるの忘れてるかも!?”



するとエリオンがニヤリと笑う。



「シェリル?」


「は……はい……?」


「きちんと……このかわいい口で、かわいい声で言って?」



そう言って、エリオンはシェリルの唇にスルリと指で触れる。



「今の……聞こえ……ちゃった?」


「あぁ」



ザル並みに思考がダダ漏れな自分が憎らしい。



「シェリル?」



ほら言ってごらん、と言わんばかりの余裕顔のエリオンに……ちょっと反撃したくなった。



「じゃあ……言ったら何かご褒美がほしいわ」


「いいよ。シェリルのしてほしいことを何でもするし、ほしいものは何でもあげる」


「本当?」


「あぁ」



よーし、反撃だ。食らえ!



「じゃあ言ったら……たくさんキスしてくれる?」



どうだ!



「そっ――……」



そ? 続きは何だ。


だが、作戦成功。エリオンの余裕顔がクシャッと崩れた。


すると「ウッ……」と小さく声を上げたエリオンが頭を抱える。



「あなたは……やっぱりもう少し自分を大切にした方がいい」


「えっ?」


「そういう俺を喜ばせるようなことを悪戯に言うと危ない、ってことを教えておいてやろう」



グイッと馬車の座席に押し倒されたシェリルは目の前の恋しい人を見てゴクリと喉を鳴らす。ぺろりと舌なめずりするエリオンは、深い青の瞳に獰猛な光を宿していた。



「エッ……エル……?」


「シェリルの望み通り、たくさんキスしてやろうな? あぁまた、唇が美味しそうだ」



フッと一つ笑みを零したエリオンがガブッと噛み付くようにシェリルの唇を食んだ時、シェリルは思った。



(反撃してはいけなかったのね。……っていうか、本音を声で伝えたご褒美にキスっていう話だったのに、関係なしにキスする方向になってるのはなぜな――ッ、キャァァァ……!)



と、声なんて出ない。唇を塞がれているから。意味をなさないくぐもった声が小さく溢れるだけだ。




ベリタス城に到着した時には、シェリルが再び真っ赤な顔でアニーの元に飛び込むことになったのは言うまでもない。



「グッジョブわたくし」



アニーがほくそ笑んだのも、言うまでもない。




〈番外編2. 神の裁き end〉


番外編にも長々お付き合いいただき感謝感謝の気持ちでいっぱいです。


これにて、本編・番外編ともに完結となります。

最後までご覧いただきありがとうございました。


あかつきみくも

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