表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/192

【03-07】

そう、偶然。偶然よ――



「ほかには何か言われたのか?」


「えぇっ!? は、はい!?」


「……どうした?」


「い、いいえ、何でも……。あぁえっと……ほかに? ほかには……そうだ、『すぐにその陣から出よ』とか言われて封印の邪魔をされたわ」



必死に笑顔を作るシェリルを、エリオンはじっと見つめる。



「……陣?」


「そう。封印の呪文を唱えてたら地面に大きな円が出てきて、ピカッと光って、読めない字や不思議な形がたくさん並んでるのが見えたの」



横向きのアランが「あぁ」と何かに気づいた様子で、エリオンに問う。



「それは何かの魔法陣では?」


「だろうな。魔法陣を介して何かを封印……してるのか……? だが、魔法陣を使った封印で、そのあと3年も眠り続けるというのは聞いたことがないな」


「うーん……そもそも、どの術も発動には少量でも魔力を必要とするはずですが……シェリー嬢は魔術を使ったことがないとおっしゃってましたよね? 実は使えるのでは?」



その問いにシェリルは首を大きく横に振る。



「わ、私は言われた呪文をただ唱えただけだもの。不思議な力のことなんて知らないわ」


「そうですか。呪文はなんと唱えたのですか?」


「……何だったかしら。覚えてない」



思い出せずにそう答えると、横向きのアランに再びバカにされたようにフンッと鼻で笑われた。


……だって仕方がないじゃない。無我夢中だったし、怖かったし、あんな切羽詰まった状況でわけのわからない呪文なんて覚えられないわよ。


シェリルがプゥッと口を膨らませると、目の前にいるエリオンはフッと小さく笑う。


……あら、やっぱり笑うとかわいらしいわね。


思わず尖らせた口を引っ込めてじっと見つめると、エリオンもシェリルをじっと見つめる。


……わぁ、本当に瞳が宝石みたいだわ。吸い込まれそうなほど綺麗で目が離せなく……あら、気のせいかしら? 真っ黒じゃなくて少し色が――



「そこのお二人?」



ゴッホンとアランの咳払いが聞こえて空気が断ち切られる。


ハッとしてエリオンを再び見ると漆黒の瞳がツイッと逸れた。


エリオンの瞳が少し青みがかって見えた気がするのだが、気のせいだろうか。



「さて、それなら何の魔法陣をどうやって起動をしたのでしょうね。少しは思い出す努力をしてくださいよ」



アランが嫌味ったらしく言うのを聞いてシェリルは不満を滲ませつ、さらに思い出したことを告げる。



「そういえば緑の欠片がたくさん落ちてて光ってたわ」


「緑の欠片? ……あぁ、魔石でしょうか。……でも、魔石の力だけでそんなに大きな魔法陣を必要とする対象を封印できるものですかね……」



すると外から「失礼します」と声が聞こえてアランが応対に出た。



「旧坑道に人影を発見。追跡中ですが逃げ足が速く、見失うのも時間の問題かと……」


「わかりました。……エリオン、すぐに出動を」


「あぁ」



どうやらエリオンとアランには急な仕事が入ったらしい。


エリオンの指示でアランがシェリルの手足に指でツンと触れると、たちまち拘束が解かれる。


そして「これを使ってください」と言われて毛布を1枚手渡された。


「あなたは今夜、この小屋に泊まりです」とアランが言い残し、シェリルに見張りも付けずに二人は足早に小屋から出ていった。



「えっ!? 待って、私は今すぐルミナリアに帰りたいの!」



訴えも虚しく彼らの背中は夜雨(よさめ)の闇に瞬く間に消え、小屋のドアがバタンと閉まる。


そこでシェリルは脱出を試みたが、ドアにも窓にも鍵がないのに、なぜか押しても引いても横にも縦にもビクともしない。



「なっ、何よこれ……どうなってるの!?」



伯爵令嬢を封印し、お転婆を全開放。蹴る、体当たり、椅子を投げる。


猛獣のごとく暴れたのちには蜘蛛(くも)のように地べたを這い、(せみ)のように壁にへばりついて隠し通路でも見つからないかと探る。


なのに……なぜだ、どうやっても出られない。


散々足掻(あが)いたのちにぐったり疲れて諦めた。



「帰らないと、お父様とお母様が心配するのに……」



落ち込んだ所に拍車をかけるように空に稲光が走り、辺りに轟音が鳴り響く。



「キャッ!」



虫を掴むことよりも、苦いピーマンを食べることよりも、淑女教育の先生に怒られるよりも……オカルトと同じくらいシェリルは雷が大の苦手だ。


雷の夜はいつも母か兄のベッドにもぐって耳を塞いで過ごしていた。でも今夜は母も兄もそばにおらず、あるのは薄い毛布一枚。非常に心細い。


しかも雷の轟音が魔物の声を彷彿とさせ、恐怖心は余計に増しているのだ。


そんな状況なのに、よりにもよって聞いたことがないほどに激しい雷鳴。


渡された毛布に頭からすっぽりと(くる)まって耳を塞ぎ、小屋の隅に小さく縮こまって恐怖に耐える。



「もう……家に帰りた――ッ、キャァァァッ! ち、近くに落ちた!? もうやだっ……怖いよぉ、お母様……」



怯えながら一人で過ごす夜は、シェリルの人生で最も長く感じられる夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ