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【03-03】

王城の門前に着いて父・ブラッドと別れると、シェリルは別の馬車に乗り換えて神官長のカルロと共に東の森の奥にあるという神殿へ向かった。



「さぁ聖女様、封印に先立ち、まずは体を内側から清めるための清めの水をお飲みください」


「う、うん……」



聖女になることをお断りしたい自分が『清めの水』なんて飲むのはおかしいと思えて、渡されたグラスを手に取って、飲まずにそれをじっと見つめる。


だがカルロに「さぁ、お早く」と急かされ、仕方がなしに透明な液体をゴクリと喉に流し込んだ。


ちょっと不思議な香りがする水をちびちびと飲み込む。森の木の香りを飲んでるみたいな感覚だ。



「それでは封印の儀の手順をお伝えいたしますのでよくお聞きください」



カルロにそう言われて、シェリルは苦笑いを向ける。



「随分忙しいのね。深呼吸もさせてくれないなんて」



逃げたい気持ちで話を逸らそうとすると、カルロからは思わぬ言葉が返ってきた。



「きちんと手順を守らなければ、お命に係わるやもしれません。どうぞしっかりとお聞きください」



そう言われると急に鳩尾(みぞおち)のあたりをギュッと掴まれたような苦しさと共に心細さを感じる。



「命にって……本当にそうなの? 神殿には何がいるの?」


「真剣にお聞きくだされ。ペンダントはきちんと身に付けていらっしゃいますね?」


「付けてるけど……ねぇ、どんな魔物なの? 大きい? 恐ろしい? 怖いのは嫌よ……」



一人で乗り越えると意気込んでいた自分なんて、あっという間にクシャクシャに(しお)れていく。


シェリルが涙目になりながら自らの腕を抱え込んでブルッと体を震わせると、カルロは特に表情を変えることなく無機質に告げる。



「そのペンダントは御身を守る役割をするもの。決して外さないでください」



大きい・恐ろしい・怖い。カルロがどれも否定してくれないことがシェリルに不安を募らせた。



「このペンダントが本当に? 嘘じゃない? でもね、封印した後、目覚めなくなった聖女もいるっていう話を聞いたの。それって本当? どのくらい眠るの?」


「何の心配もございません。今は封印することのみをお考え下さい」



カルロは穏やかそうな微笑みを浮かべる。だが、妙に背筋の寒くなる顔だ。



(この人、さっきから全然聞きたい答えをくれない……)



恐々としつつカルロに疑いの眼を向けていると、不意に瞼の重さを感じる。


頭もぼんやりしてきた気がするが、聞きたいことはまだまだあるのだ。



「ねー、聖女は……結婚に……不……不幸が……付き纏うって本当? 離縁とか……子供が……できない……とか、そういう……こと?」


「……」


「ねぇ……教えて? どう……なるの?」



シェリルは頭をブンブン振って目を擦る。


……おかしいな。すごく眠い。



「それを聞いてどうなさるおつもりですか?」



まるでカルロの声が頭の中で反響するかのようにボワンボワンと響いて聞こえる。



「だって、もしも本当なら……困るもの。私……結婚して……子供を産むのが夢……だもの。私以外の人が……聖女に……なる……っ……方法は……ないの……?」



大事な話をしているのに眠くて仕方がない。


頭を振って眠気と戦いながらカルロを見ていると、カルロは背筋の寒くなる笑顔からはっきりとした不快を示す表情に変えた。



「ほぉ、聖女の役割を拒否しようとは、なんと御労(おいたわ)しいこと。仮にもこの国の大臣の娘が、国の守護の役目を拒むと申されるか」



そう言われると、自分がすごく悪いことをしているような気分になって一瞬言葉に詰まる。


でもここで引くわけにはいかない。夢を諦めるつもりはないのだ。


シェリルは重い瞼を必死にこじ開けながらカルロに告げる。



「ごめんなさい……だって……私……約束……っ……し……たの……だから、夢を……叶え――……」



耐え難い眠気が襲ってきて、瞼が鉛のように重い。


どう頑張っても閉じていく瞼。徐々に沈んでいく意識。


手の力が抜けて床にグラスが転がり落ちると、必死な抵抗も最早そこまでだった。


頭の中には、淡く輝くあの日の光景が広がる。



『将来は僕のお姫様になってくれる?』


『うん、いいよ』


『じゃあ約束だ』



……私は約束を守るの。


だから聖女になってる場合じゃないのに……。


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