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【12-05】

「シェリー、リュウが乱暴なことをしてごめんね? 大丈夫?」



目の前に来て優しげな顔を張り付けながら見下ろすユリウスの白々しさ。それに苛立ったシェリルは、ユリウスを睨みながら告げる。



「あなたの目的は私でしょう? アニーにこれ以上何かするなら、舌を噛み切って死んでやるわ」


「わぁ、怖い怖い。いつからそんな生意気な子になったの? びっくりだよ。でも君が死ぬなら、どのみちあの子も死ぬことになるって忘れないで?」


「――ッ……」


「運命共同体だなんて美しい関係じゃないか。……あぁそうだ、あまり怒らせると君に燃やされてしまうね。気を付けなくちゃ」



揶揄するかのような歪んだ笑顔でフフフッと笑うユリウスを見ていると薄気味悪くて寒気がする。



「さぁ、怒ってないで僕たちの結婚式の準備をしよう、シェリー?」



ユリウスはそう言いながら、縄で拘束したアニーの顔にわざと見せつけるようにナイフを近づける。拒否は受け付けないと言いたいのだろう。


シェリルは奥歯をギリギリと噛みしめながらも、ユリウスの言葉に従うしかなかった。


こうしてシェリルは王城へ連れて行かれた。





(どうしてもっと早くリュウがいないことに気づかなかったんだろう……。ごめんねアニー、どうか無事でいて……)



白を基調とした家具で整えられた部屋に軟禁されたシェリルは、捕らえられたアニーの無事を祈りながら、どうにかここを脱出する方法を考えていた。


するとドアがノックされて、ユリウスとリュウが部屋に入ってきた。



「シェリー、紅茶とお菓子を用意したよ」


「いらないわ。……アニーは無事なのよね?」


「君の大好きなお菓子ばかりだよ。クッキーにマドレーヌにタルトに――」


「答えて! アニーは無事なの?」


「うるさいな、大声出さないでよ。ただ牢にいるだけだ」



その言葉にサッと血の気が引くような思いがした。



「牢だなんて酷いわ!」


「そんなことを言われてもね。だってゲストルームでおもてなしするわけにもいかないだろう? 別に折檻してるわけでもないんだからいいでしょ」



いいわけがない。無理強いしようとする兵から守ってくれただけのアニーが牢に入って、自分だけがのうのうとこんな場所で過ごしているだなんて……。


エリオンには『アニーと離れるな』と言われていたのに、それを守らずに離れたのは自分だ。相手がユリウスだと思って気を緩めてしまったのがいけなかった。それなのに、自分で犯したミスを取り返す力すらない自分はなんて情けないのだろう。


とにかく一刻も早くアニーを助け出したい。アニーがエーデルアルヴィアの者だと露見するのはあまり都合がよくないと言っていたのだからなおさらだ。


その時ハッと思い出した。



(そうだわ、エリオンは王族の護衛をするって言ってた。しかも隊長を務めるほどの凄腕だもの……王族のすぐそばで護衛をしているかもしれない。それなら今、この城内のどこかにいるかもしれないわ)



自分のことは自分でどうにかすればいい。でも牢にいるアニーは何としても助け出さなければ。エリオンに、アニーが捕らえられていることを知らせなければ……。



「シェリー、何を考えてるの?」


「……えっ?」


「よからぬことを考えるのはやめてよ?」



内心ギクリとしながらも、考えが露見しては都合が悪い。シェリルは誤魔化すようにユリウスに問う。



「ユリウスがこんなことをする理由が何なのか、気になって考えてただけよ。どうしてなの?」


「だって君が僕のものになろうとしないから仕方がなかったんだ」


「私をどうするつもりなの?」


「え? だから、僕と婚礼の儀を行うのは君なんだって、そう言っただろう?」


「欲しいのは私じゃなくて後ろ盾? レドモンド伯爵家の家柄が必要なの?」


「……もうそろそろ準備を担当する侍女たちが来るよ。あの赤毛の女の命は君次第だってこと、忘れないでおとなしくしてね」



返事を誤魔化してニッコリといつもの笑みを見せるユリウスが、今はただただ不気味で恐ろしい。


ずっとこの笑顔をかわいらしいなどと思っていたバカな自分。何も気づかなかったことが腹立たしくて仕方がない。


ただ……ユリウスの強い執着には何か別の理由があるような気がしてならない。一体どこからこの執着は来ているのだろう。



「どうしてそんなに私にこだわるの?」



そもそも自分に触れるつもりもなく子供を作る気もないユリウスが、なぜ自分との結婚にこだわるのかが、シェリルには不可解に思えるのだ。


まして王位継承順位一位のユリウスには、どのみち将来的には子供が必要なはずだ。



「言ったじゃないか。君がいいって、好きだって。愛だよ」


「愛ですって? こんなふうに閉じ込めて、無理矢理なのが愛なんておかしいわ」



目を据えてユリウスを睨むと、ユリウスはわざとらしく肩を竦める。



「そんなに怒らないでよ。君じゃないとダメなのは本当なんだ。だって、そうじゃないと……いつまでも僕はアイツに負けたままだ。ようやく……ようやく僕はアイツに勝てるんだ」



……アイツ?


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