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【12-04】

思わず感心してアニーに見入っていると、目を真ん丸にしてパチパチと拍手をするユリウスが、近づきながらアニーに告げる。



「いやぁ、君すごいね。驚いたよ。僕を護衛する精鋭たちなのに」


「お褒めいただき光栄にございます」



アニーは素早くシェリルの前に立ち、麺棒の先をユリウスに真っ直ぐ突き付ける。



「おっと、怖い怖い。もしかして、昨日シェリーと一緒にいた護衛の男の仲間?」


「あなた様にお答えする義理はございません」


「ふぅん。でも君、不用意に刃物を振り回さないのと、僕に敬意を払うくらいの礼儀はきちんとあるみたいだ。つまり君は、どこかで特別に躾けられてる子だね?」


「返答いたしかねます」


「やっぱりそうだ。だったら、僕のことは倒せる?」



そう言って、ユリウスは薄気味悪い笑みを浮かべながらさらにシェリルとアニーの元へ近づく。



「それ以上お近づきにならないでください。わたくしの最重要任務はシェリー様をお守りすること。御身を傷つけたくはありません」



シェリルを庇いながらアニーはジリジリと後退し、宿の出入口扉までたどり着く。



「わぁ、怖いこと言うね。足が震えて近づけないよ。どうやら “今は” 僕の負けみたいだ。ざんねーん」



フフフッとかわいらしく笑うユリウスが不気味に目に映る。残っているのはユリウスただ一人なのに、妙に余裕な様子。どこか違和感がある。


何だろう、何かがおかしい……。


アニーも何か不審に思った様子で、背後にいるシェリルに密かに告げる。



「ここは危険です。追手が来る前に移動しましょう」


「わかったわ」



そう返事をしてすぐ、シェリルはハッと気づく。


そうだ、『彼』の姿が見えない!



「シェリー様、その扉から裏口に出られます。出てすぐ右の宿にほかの護衛の者が待機しておりますので、そこへ向かいましょう」


「うん。あのねアニー、ユリウスには――」



すると突如、アニーのすぐ目の前に人影が降り立ち、小さなうめき声と共にアニーが蹴り飛ばされて吹き飛んだ。



「アニー!」



地面に倒れ込んだアニーの方へ向かおうとすると、目の前の人物に腕を乱暴に掴まれて阻まれる。



「シェリル嬢、お久しぶりです」


「痛っ……放して、リュウ!」



ユリウスの側近・リュウが建物の上から突然降ってきたのだ。



「まったく……誰です、あの恐ろしい女」


「……ッ……卑怯者!」


「卑怯で結構。あんなのとまともにやってたら命がいくつあっても足りませんからね。それにしても、まさかあなたがご存命とは……どうなってるんでしょうね、この国。さぁ、殿下のご命令です。おとなしく我々と共に参りましょう」


「嫌よ!」


「抵抗なさるなら、あの女をもっと痛めつけましょうか?」



一人の兵が近づき、ぐったりするアニーの赤毛を引っ張って持ち上げながら首に剣を構えるのが見えた。



「ダメ! やめて!」


「それなら静かにしてください」


「あなたって人は……!」



キッと睨むと、リュウは侮った表情でハハッと笑う。



「そんな汚いものを見るような目で見ないでください。所詮私も王家に付き従う側の人間というだけのことですよ。さぁ参りましょう」



一緒に歩けば頼もしい存在だったリュウが、今はただただ恐ろしく思える。



「待って! アニーには乱暴なことをしないで! それに怪我をしてるなら手当てを――」


「こちらでお預かりしますのでご心配なく」


「で、でも――」



抵抗していると、リュウの大きな手のひらがシェリルの鼻と口を乱暴に塞いで呼吸を阻む。



「ンッ……っ……!」


「これ以上騒ぐなら、あの女の安全は保障しませんよ」



息ができないまま、リュウにギロリと凄むような目で睨まれると、息苦しさと恐怖で体がガクガクと震える。



「おい、リュウ。僕の大事な花嫁を乱暴に扱うなよ。顔に痣でもできたらどうするんだ」


「あぁ、申し訳ありません」



ユリウスに言われてフッと笑うリュウが手を離すと、シェリルは(くずお)れるように地面に座り込む。そしてようやく吸えた空気を大きく吸い込み、肩で呼吸を繰り返した。


力のない自分はなんて情けないのだろう。


助けてもらうだけで何も返せない……。


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