表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/192

【11-07】

「ユリウス殿下とは何を話したんだ?」



遠ざかっていくユリウスを見送りつつエリオンに問われて、伝えるべきか迷うが……



「うん……婚礼の儀は私と行いたいって……」



何となくエリオンの顔が見られなくて、シェリルは目を逸らしたままそう答えた。



「へーえ。それでどうするんだ?」



エリオンに平気そうに聞かれてズキンと胸が痛むとともに、ユリウスの言葉を思い出す。



『あの人のことが好きなの?』

『彼は上級貴族なの?』

『許されるわけがないよ。好きになっても無駄だ。レドモンド伯爵が許すはずがない』



まさに核心をついた言葉で、自分でもそうわかっている。


それにエリオンは他国の人で、忘れられない相手がいるんだ。


そう考えれば自分が選べる道なんて限られている。


……だから迷うな。



「そうね、私の小さい頃からの夢だから……約束したから……だから、ユリウスと結婚するのが……いいの……かも……っ……」



言葉とは裏腹に、胸に無数の針が突き刺さるかのようにズキズキと痛くて堪らない。自分の気持ちに踏ん切りをつけるために嘘を言っただけだ。


ユリウスとカミラの婚礼の儀は今さら止められないように思えるし、止めるつもりもない。それでもどのみち自分にはいずれきっと別の縁談が来て、いつか心からその人を愛して、その時にルカニエルの呪いも解ける。


それが自分の選ぶべき最良の道なのだろう。



「そうか。そう決めたなら、その方向で進めよう。あなたが望むように進めば、きっとルカも救える」



そう呟いたエリオンを見てハッとした。


……まただ。ううん、あの時以上に……帰国前にバルコニーで話した時以上に、酷く痛々しい微笑み。あなたは一体何を思うの? それでも私にはこれ以上踏み込む権利なんてない。だってあなたと私の間に未来なんてないのだから。それにあなたとはもうすぐお別れなのだから。




帰りの馬車の中では、ぼんやりと外を見つめるエリオンとは目すら合わなかった。


その漆黒の瞳に自分を映してほしいなんていう身勝手な気持ちを、胸の奥深くに仕舞う。


この人の温かさを知っている自分は、いつかそれを忘れることができるのだろうか。この苦しくて痛くてどうしようもない、叶わない恋心が、いつか癒やされる日は来るのだろうか。いや、来ないのではないか。


そう思うと明日ですら果てしなく遠い日のように感じられた。



「今夜から明日の一日中、仕事があるからそばにはついてられない。アニーと離れるな」



神殿から戻って宿泊先の宿の前で馬車を降りると、エリオンはそう言って去っていった。



「シェリー様、主様と何かあったのですか? シェリー様も主様も、どことなくお元気がなかったような……」



アニーが不安そうにシェリルを見つめる。



「あー……うん。……でもよくわからないの」



自分の決意が苦しくて、今は話をできる状況ではなかった。



「そうですか……。明日は婚礼の儀です。正直言って我々はとにかく暇! ですから、ここでのんびりと羽を伸ばして過ごしましょう」



アニーの言うように、エリオンのいない明日はとにかくただ待機の日となる。危険だから出歩くなと言われているのだ。


きっとエリオンも含めた兵士や使用人たちは猫の手も借りたいくらい大忙しなのだろう。


そういえば……ルミナリアへの道中の宿で使用人に紛れた時、エーデルアルヴィアの侍女たちが不思議な噂話をしているのが聞こえた。



“ねぇ、今回の婚礼の儀、『あの御方』が参列されるって本当かしら?”


“どうかしらね。今や幻の御方だもの。公務にお出になったのは幼少期に数回だけみたいだし”


醜男(ぶおとこ)とも美男とも言われてるけど……実在するのなら一度くらいお顔を拝見してみたいわ”


“でもそばにいるだけで何人もの使用人が気を失ったって聞いたわ。呪われるって噂よ?”


“えー、怖ーい”



おそらく婚礼の儀に参列するエーデルアルヴィアの王族の話だと思うのだが、エリオンはそんな危険な人物を護衛しているのだろうか。



「ねぇアニー、エルが護衛している王族の方ってどんな方なの?」



するとアニーはニッコリと笑みを向ける。



「そういったお話は禁止されておりますので、どうかお許しを」



国内でも秘されているのだからそれはそうだ、と納得していると、アニーは再び笑みを向けた。



「何か気になることでも?」


「あっ、ううん。ただ……エルは大丈夫かなって」


「シェリー様がご心配なさるようなことは何もありませんよ」


「そ、そう……よね」



確かに自分が心配したところでどうにかできるわけでもないし、ましてそれ以上踏み込む権利もない。彼との距離は遠い、とただただ実感させられるようで苦しかった。



「シェリー様、ここから出られない代わりに、外にいる者に何か美味しいものでも届けさせましょうか?」



アニーはきっと気遣ってくれているのだろう。



「うん、お願いするわ」



王都にある美味しいタルトやクッキーの店をアニーに伝えていると、少しだけ元気が出てくる。


楽しいことを考えて、楽しく過ごして、それで……



『婚礼の儀は君と行いたい』

『明日の早朝に返事を聞かせて? 会いに行くから』



ユリウスは一体どういうつもりなのだろう。そんなことを推し進めれば、カミラが黙ってないと思うのだが……。


考えると気が重い。


アニーと話しながら過ごし、静かな夜を眠れずに過ごし、そして鉛のように重い気持ちのまま翌朝を迎えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ