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侍女と王女(西北へ)

馬車が皇城の東門の小広場に止まった。以前貴族たちが皇城の馬車に乗り換えるための大棚の下に伏せているのは、フィリシアと他の数匹のグリフォン、そしてペーガソス。フィリシアは私が近づくと、右の翼を持ち上げてひと扇いだ。私も手を振り返して、先日に襲撃を受けた接待室に入った。みんながすでに揃っていた。


先頭にいるのはグリフォン軍団の新任の軍団長のロレアノで、その隣にはユードロスとグリフォン軍団の首席ペーガソスライダーであるソリナさんがいた。他には名前の分からない三人のグリフォン騎士もいた。机にはいくつかの杯が並んでいる。私が到着すると、ロレアノが立ち上がり、先に声をかけた。


「ルチャノ、シルヴィアーナ。準備は整ったか?」


シルヴィアーナと私は揃ってうなずいた。馬車の中で既に鎖帷子を身に着け、剣と弓も携えていた。でも今回は頭飾りとしての赤い羽根はヘルメットに挿していない。潜入でだから、戦闘の指揮を執るわけではないからだ。力が足りずから軍用標準弓を引けないため、この弓は特製の弱弓で、矢も軽いものを特注した。すでに準備万端だが、武器と鎧は旅の中の身を守るだけで、フィドーラ殿下の救出には用がないだろう。


ロレアノは私をよく見た。そして私の背負っているカバンを少し持ち上げながら言った。「そういえば、君はまだ実際にグリフォン騎士の任務をこなしたことがないんだったな。ソリナ、準備してあげろよ。」


「もしグリフォンから落ちて森に落ちたら、これらは必要不可欠よ。」ソリナは言いながら、匕首と小さな斧、それに布に包まれた包みを私に手渡した。斧は私の手のひらより少し大きいだけで、物を切るというよりも投げつけるのに向いている感じだ。匕首はシルヴィアーナのよりも短く、片手にすっぽり収まるほどの長さで、木製の鞘に収まっていた。それを引き抜くと、見事な鋼でできており、しっかりと研がれていて非常に鋭利だった。いい武器だな。


布の包みを開けてみた。中にはソーセージと火打石が入っていた。ソリナはさらにロープも手渡してくれた。私はシルヴィアーナを見た。彼女はペーガソスライダーの完全な訓練を受けていて、カバンの中に装備も揃っている。まったく、どうしてもっと早く教えてくれなかったのか。


「君の兜は鍋にもなるから、温かい食事も食べられる。お金は持っている?」ソリナが尋ねながら、布包みを私のカバンに詰め込んだ。


「いや、お金が必要ですか?」私は少し疑問を抱いた。


「もちろんよ。万が一落ちた場合、お金がなかったらどうやって駐屯地に戻るつもり?食事をするにしても馬車を雇うにしてもお金がいるでしょう?これは銀リネ20枚。後で返してくれればいいわ。これは何?どうしてウィッグを持っている?」ソリナは小さな布袋をカバンの隅に詰め込みながら、ウィッグが入った包みを見つけ、信じられないような表情を浮かべた。


「母が侍女に変装して城に潜入することも試してみろ、と言ったんだ。」私は顔を赤らめて答えた。


「ルチャノ。君は背も高くないし華奢だけど、本当にそれで大丈夫なの?見破られるんじゃないか?」ユードロスが驚いたように言った。


「母が無理やり持たせたものだから、必ず使うわけじゃないから。」私は慌てて言った。ユードロスに自分がルナであるとばれてはまずい。


「準備が整ったようだな。では出発しようか。ルチャノ、見ての通り、我々はこれだけの人数しか派遣できない。ごめん。皇都では襲撃事件が起きたばかりで、グリフォン騎士団の主力は警戒のために残らなければならない。あとは我々自身でなんとかするしかない。」ロレアノが私に向かって言った。


「わかりました。皆さんに感謝いたします。今回の作戦は私が提案したものです。私一人が危険を冒せば済むと思っていたのですが、皆さんを巻き込むことになってしまいました。本当に申し訳ありません。どうか戦争の神のご加護が私たちにありますように。」私は最後に胸の前で手を組み、古典語でそう言った。戦争の神に加護を求めるというよりも、母上が残してくれた赤い宝石のお守りに願いを込めていた。


「いや、フィドーラ殿下を守り切れなかったのは我々グリフォン騎士団の失態だ。本来、都の空は我々が守るべきだったのに、コウモリごときに侵入を許してしまった。君がフィドーラ殿下の救援を申し出なくても、我々も陛下に上申するさ。一緒にこの屈辱を晴らそう。」ロレアノも穏やかに言った。


「それでは出発しよう。フィドーラ殿下がきっと私たちを待っている。」ユードロスが立ち上がり、机の上の杯を手に取った。私たちもそれぞれ杯を手に取った。


「では、我々全員が無事に戻り、フィドーラ殿下と一緒に戻ることを願って!」ロレアノが叫んで、私たちは一口飲んだ。てっきりビールだと思ったが、実際には水だった。もちろんだ。ソリナがいるから、離陸前に酒はあり得ないことだろう。


グリフォンとペーガソスにはすでに鞍が取り付けられていた。私はフィリシアに手を伸ばしながら言った。「ごめんね、遠くまで飛んでもらうことになって。」フィリシアは立ち上がり、軽く翼を広げただけで、「こんなのは朝飯前だよ」と言わんばかりだった。私は微笑んだ。


「心配するな。グリフォンはもともと長距離の飛行もできる生き物だ。人を乗せない場合、オルビアからアイラまで一気に飛ぶことができるんだ。私が心配しているのは、夜間の視界が悪いことだ。ただ最近は雲がないから、空の上で北極星を目印に航路が逸れていないか確認できるだろう。」ロレアノは自分のグリフォンの鞍の隣にカバンと武器を縛り付けながら言った。オルビアは西北辺境の都市で、パイコ領との境に位置している。アイラは東南の海沿いの港都だ。つまり、グリフォンは大陸を一気に横断できるということだ。


「そうか、それなら安心です。」私は言った。星空を知ってはいるものの、グリフォンに乗りながら星で導くのは経験したことがない。ロレアノが一緒にいるのは心強い。

シルヴィアーナもペーガソスに跨った。私は近づいて彼女に尋ねた。「シルヴィアーナ、怖くないか?」


「全然怖くないわよ。ヒメラ伯爵領はパイコ領の近くにあるから、あそこに行くのは家に帰るようなものよ。」シルヴィアーナは弓を背負い、ペーガソスに乗っている彼女の姿はまるで狩りの女神のようだった。


「うん、ごめんね。また戦いに巻き込んでしまって。本当は君に踊りを教えたばかりだったのに。」私は感慨深く言った。


「大丈夫よ、本当に大丈夫。子供の頃に狩りに行ったときみたいなものだから。」シルヴィアーナは微笑みながら答えた。私も微笑み返してからフィリシアの元に戻った。水袋と食料を鞍の横に置き、これで準備は完了した。


ロレアノの合図で、私たちは次々と飛び立った。グリフォン六匹とペーガソス二匹、、まるで鶴の群れだ。まだ夜明け前で、空は真っ暗だった。東の空だけが他より少し明るい。一片の残月が天に浮かび、無数の星々が輝いている。キャラニの町もほとんど灯りが消えており、皇城の城壁にある松明だけがぼんやりと光を放っていた。ロレアノが私たちを導きながら、どんどん高度を上げると、やがてキャラニの灯りは完全に見えなくなった。足元は漆黒の闇に包まれ、頭上には満天の星空が広がっていた。


しばらくすると、後ろの東の空が徐々に明るくなり始めた。星々が次第に消え、空全体が淡い光に包まれていった。そして突然、背後にオレンジ色の光を放つ太陽が顔を出した。私は後ろのシルヴィアーナに目をやった。ちょうど彼女のシルエットが太陽を遮っていて、まるで彼女自身が光り輝いているように見えた。ますます狩りの女神に似ているんだ。


キャラニは大陸の西側の丘陵地帯と東側の平原地帯の境目に位置している。日の出とともに私たちの足元にはもう平原は見えなくなり、丘陵が広がっていた。丘陵には盆地や谷間が点在し、村や町がその間に散在している。この地域は木材の伐採場や採石場としても使われている。木材や石材は丘陵を流れる河川を通じてキャラニに運ばれる。しかし今は川が凍結していて、銀色の帯のように見える。時々貴族の城が目に入る。城は雪に覆われ、いくつかの家からは煙が立ち上っている。暖炉の前で熱いミルクを手にリクライニングチェアにくつろぐ彼らの姿を想像すると、私の手はますます冷たく感じた。そしてこっそりと手をポケットに入れたが、すぐにソリナに叱られた。まったく、厳しいな。


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