騒がしい新年(決意)
ラドが言った通り、皇帝陛下たちは内閣の会議室で相談をしていた。ラドとともに会議室に向かうと、侍衛がすぐに通してくれた。皇帝陛下はいつもの席に座り、父親やスタブロスもいる。他にはロイン、アラリコ、ロレアノ、そしてエルグハもいた。壁には大きな地図がかかっており、父親が険しい顔で地図のそばに立っている。他の者も皆重苦しい表情をしていた。私が入ると、全員がこちらに視線を向けた。
「陛下。私はご信頼を裏切ってしまいました。どうかお咎めを。」私は皇帝陛下に跪き、泣きそうな声で申し上げた。
「今はそんなことを言っている場合ではないのじゃ。立って。反乱者が襲撃を仕掛けたのはお前の責任ではない。」皇帝陛下は手を振って言った。
私は立ち上がり、いつものように皇帝陛下の後ろに立とうとした。しかし陛下は私に前で座るよう指示した。やはり、親衛隊の副隊長の職を解かれるのだろうか。
「ダミアノス。ルチャノに今の状況を簡単に説明してやってくれ。」皇帝陛下が椅子にもたれかかりながら言った。
「はい。捕虜に尋問した結果、今回の襲撃を行ったグリフォン騎兵は、以前ヒメラ伯爵領に逃亡した元グリフォン軍団の部隊であることがわかりました。彼らは夜間に密かに近くの森に到着し、今朝の夜明け前に演習場の南側の森に到着していました。その後、地上を北へ進んでから、最後に空中から襲撃を仕掛けました。完全にやられました。」父親は怒りを含んだ声で言った。
なるほど。私たちが彼らを発見できなかったわけだ。演習場は広いで、今朝は北部地域のみを巡回していた。我々の行動は完全に相手に読まれていたのだ。私の経験不足であり、父親も同じ悔恨を抱いているのだろう。
「ロレアノたちは逃走したグリフォン騎士を追跡しましたが、次の攻撃が来ることを懸念し、途中で引き返しました。敵は途中で手紙を投げ入れ、我々もそれを回収しました。内容は、もし陛下がフィドーラ殿下を無事に取り戻したいのであれば、ヒメラ領での交渉に応じるよう求めるものでした。彼らは途中で殿下の正体に気づいたのでしょう。」父親は続けて説明した。
変装は全く効果がなかったのだ。受け入れがたい事実ではあるが、頷くしかなかった。もし私が敵なら、まずロレアノが率いるグリフォン軍団を引き離し、主力部隊で次の攻撃を仕掛けるような作戦をとるだろう。
「わしはすでにダシアンに命じた。北西の貴族領から軍を再集結させ、ヒメラ伯爵領への攻撃を準備する。ロレアノもグリフォン軍団を率いて進軍して、近衛軍団も増援を送るのじゃ。以前ヒメラ伯爵領への攻撃を止めたのはやはり誤りだ。再び待つことはできん。お前たちはヒメラ伯爵領の地形が険しく、逃亡したグリフォン軍団が危険であると言ったが、今日は彼らのグリフォンも多数戻らん。もう他の言い訳はないのじゃ。ダミアノス、お前には帝都に留まるがよい。近衛軍団の留守部隊を指揮するよう命じる。畿内地区に問題が起きてはならないのじゃ。ルチャノ、お前もここに残るのじゃ。親衛隊の副隊長として皇城を守るのじゃ。」皇帝陛下は厳かに命じた。
「承知しました、陛下。」父親は一礼して言ったが、彼の落胆が見て取れた。皇帝陛下が彼に進軍を任せなかったことが残念だったのだろう。
「陛下。フィドーラ殿下が危険に晒される可能性があります。」私はすぐに立ち上がって言った。フィドーラ殿下は現在敵の手にあり、人質として利用される可能性が高い。もし皇帝陛下の軍が直接攻撃すれば、彼女の命が危うくなる。フィドーラ殿下と別れたとき、彼女は急いでテントへ向かっていた。その顔を見られなかったことが、今も胸に引っかかっている。私はフィドーラ殿下と再び会うことを誓い、たとえそれが死を意味しても、その決意は揺るがない。
「ルチャノ。わしは反乱者との交渉はしないのじゃ。わしのやり方に反対することと、誓いに背いて旗を翻すことは別の問題じゃ。そのような者を処罰しないなら、今後頻繁に反逆によって脅迫されることになるのじゃ。そういうなら、わしにはもう権威があるのか。」皇帝陛下は穏やかに述べた。
アウレルの反乱以前、フィドーラ殿下は自分がただ皇帝陛下の道具に過ぎないと感じていたようだった。私はそれが単なる彼女の思い込みで、陛下が実際には彼女を子供として見ているのだと考えていた。時間をかけて接すれば、彼女の不安感も和らげられるだろうと思っていた。しかし、私の考えは間違っていた。皇帝陛下は明らかに彼女を道具と見なしている。陛下にとって、彼女は人形のような存在なのかもしれない。若い貴族の娘たちは、いくらでも皇帝陛下のために子をもうけたいと思う者がいるのだから。ひょっとして陛下にとって、私はもっと重要なのかしら。
「わかりました、陛下。ヒメラ領への攻撃が始まる前に、どうかフィドーラ殿下を救出する機会を私にお与えください。」私は片膝をつき、皇帝陛下に懇願した。陛下にとって、皇女はフィドーラ殿下だけではないかもしれない。でも私にとって、フィドーラ殿下は唯一無二の存在だ。彼女は梅雨の季節の厚い雲間からわずかに差し込む陽光のようで、私は彼女を決して手放したくないのだ。
「どうやって救出するつもりのじゃ?危険すぎる。忘れるな、パナティスを殺したのはお前じゃ。捕まれば、安らかに死ぬことすらできぬぞ。」皇帝陛下は言った。
「グリフォンに乗ってヒメラ領に潜入し、フィドーラ殿下を連れ戻したいのです。」私は答えた。これが私の考え得るベストの方法だった。敵がグリフォンを使って襲撃できたのだから、私もフィリシアに乗って敵の城に潜入することができるかもしれない。
「危険すぎる。必要はない。わしはお前を養子にして、皇族としての地位を与えることにしよう。今はお前を失いたくない。」皇帝陛下は首を横に振った。
「陛下。フィドーラ殿下は私にとって唯一の存在です。私たちは神々の祝福を受け、誓いの神と運命の神の見守る中で婚約を結びました。もし私を信じてくださらないのであれば、どうか神々の力を信じてください。神々は私たちを導いてくださるはずです!」私は再度懇願した。もし陛下が許可してくださらないのなら、一人でもフィリシアに乗ってヒメラ領へ向かう覚悟はできていた。何があっても、フィドーラ殿下を見捨てるつもりはなかった。
「陛下。私からもお願い申し上げます。軍隊の集結にも時間がかかります。グリフォンでヒメラ領に向かうのはわずか二日もかかりません。ルチャノに五日の時間を与えることができます。この期間、ヒメラ領と今までのような、攻撃もせず、交渉も行わないようにすればよいでしょう。フィドーラ殿下は私の姪です。どうか彼女にもう一度チャンスを与えてください。」ロイン様が会議室で声を上げた。ロイン様が私を支持してくださったのは、本当に嬉しい。感激のあまり少し震えていた。私はこっそりと顔を上げ、陛下の表情を見た。彼は顎に手を当てて考え込んでいるようだった。
「陛下。私はアラリコの祖父ではありますが、枢機卿としても一言申し上げたいと思います。フィドーラ殿下とルチャノは神々の祝福のもとに婚約を交わしたのです。神々は必ずや二人を守り、導いてくださるでしょう。どうか彼らに対する神々の愛と、彼らの堅い信仰を信じていただきたい。神々はきっと彼らを守ってくださるでしょう。」エルグハが言った。皇帝陛下は依然として同じ姿勢のままで、沈黙を保っていた。
「ふむ。しかしヒメラ伯爵の城は警備が厳重だろう。城自体が小さい分、防備は今日の演習場よりも強固なはずじゃ。グリフォンで潜入するだけでは、城下町に入ることすらできない。どうやってフィドーラを連れ出すつもり?」皇帝陛下が問いかけた。私は沈黙した。それは確かに難点だ。
「陛下。その件について、私に提案があります。」スタブロスが口を開いた。まさかスタブロスが賛成してくれるとは思わなかった。彼はアラリコを支持しているはずなのに。私は少し驚いてスタブロスを見つめた。
「私たちが旧ミラッツォ侯爵傘下のヘクトル商会を接収した際、彼らが密かにヒメラ伯爵領に物資を密輸出していることがわかりました。その件に関する商会の幹部を逮捕しましたが、まだ幹部の一人がヒメラ伯爵領に滞在しています。彼は北部の村に住んでおり、こちらから密輸出した物資を受け取る役割を担っているようです。その幹部の家族はキャラニにおり、罪人の家族として逮捕しています。もし彼とその家族に恩赦を与えることを条件にすれば、彼の協力を得て、ヒメラの城への潜入も可能かもしれません。」スタブロスが提案した。
「だめだ、ルチャノ。この計画は危険すぎる。ヘクトル商会の幹部など信用できない。彼は次の瞬間にはお前を裏切るかもしれない。スタブロスの言葉に惑わされるな。」父親は眉をひそめながら言った。
「ダミアノス様、ごもっともです。この計画は確かに危険です。私はアラリコ殿下を支持しているが、ルチャノはフィドーラ殿下の味方です。だから私は完全の好意から提案をしているわけではありません。しかしどうか私を信じてください。私はこの計画に罠を仕掛けるようなことはしません。さもなければ、私自身もコスティンの二の舞を踏むことになるのですから。」スタブロスは肩をすくめながらそう言った。彼の言葉には一理あった。この計画は成功の可能性が高くない。フィドーラ殿下は皇族であり、タルミタ侯爵家の血を引いている。ロイン様との関係から見ても、ヒメラ伯爵が彼女を殺す可能性は低いだろう。
しかし私の場合は違う。オーソドックス貴族とは血縁関係がなく、計画が失敗した場合、彼らは私をためらいなく殺すだろう。アラリコを次の皇帝にするための障害を取り除くために。さすがスタブロスだ。でも少し安心した。せめて罠ではない。
「陛下。私たちグリフォン軍団にもルチャノの行動を支援させてください。敵の襲撃を見抜けなかった上、フィドーラ殿下を救出することもできず、恥ずかしい限りです。どうか名誉挽回の機会をお与えください。」ロレアノも立ち上がってそう述べた。
「陛下。私も同じ思いです。新年が始まってから二度の襲撃が起こりましたが、どちらの時も適切に対処できませんでした。今日の襲撃が始まったときも、私は指揮に立っていませんでした。このような不名誉を晴らす機会をどうかお与えください。」私は再び頭を下げて言った。新年になってから私の指揮する衛兵隊が続けて問題を起こしている。さらにはフィドーラ殿下に危険が及んでしまった。皇帝陛下から与えられた爵位や徽章に対して、私は本当にふさわしいのだろうか。
「その話はもういいのじゃ。フィドーラがお前を連れて、散歩に行くことを許可したのはこのわしだ。さもなければ、他の人に親衛隊の責任者が勝手に離れるはずがないだろう?」皇帝陛下は右手で額に手を当て、少し自責の念を含んだように言った。
「陛下。私はやはり陛下の盾ではなく、剣であるべきです。どうか私に戦場で陛下のために勝利をもたらす機会をお与えください。」私は少し間を置いて、心にある罪悪感をこらえて言った。自分は不吉な存在であり、周囲の人々に不幸をもたらしてしまう。皇城の守護者としていると、守るべき人たちをかえって危険にさらしてしまうかもしれない。しかし戦場にいるなら、不幸に見舞われるのは敵側であると信じている。だが、それでもフィドーラ殿下のそばを離れるべきかどうか、迷いが生じた。
「陛下。こう言うのも恐縮ですが。衛兵隊はすでに再建され、新年の警備体制も近衛軍団としっかり調整済みです。我々だけで陛下の安全を守ることができます。ルチャノ様が親衛隊で果たすべき役割はすでに完了しています。」ラドが横から口を挟んで言った。よくやった、ラド!
「ルチャノ、お前はフィドーラを心から愛しているのか?」暫くすると、皇帝陛下は手を下ろし、真っ直ぐに私を見て尋ねた。
「はい、陛下。」
「ならば、この旅の危険について、覚悟はできているのだな。」
「はい、陛下。皇室をお守りするのは私の使命です。どうか私にこの恥辱を雪ぐ機会をお与えください。」
「そこまで言うのなら、許可する。ダミアノス、ダシアンに攻撃の開始を遅らせるよう伝えよ。ルチャノ、お前はスタブロスたちと計画を練り直すがよい。」皇帝陛下は疲れた様子で椅子にもたれかかった。
「承知しました、陛下!」私は喜びにあふれて答えた。やった!フィドーラ殿下、どうか少しの間だけ待っていてください。すぐにあなたのもとへ駆けつけます!
読者の皆様、おはようございます。これで物語が一段落でした。ここまで読んでくれて、本当に心から感謝いたします。
ここまでの内容は、主人公が段々新生活が馴染んでいる。でもやはり物語には意外はたくさんあります。暫くして連載を再開するので、短いの間、お待ちください。
引き続きよろしくお願いいたします。




