騒がしい新年(未来への理想)
「そして結婚したから、何か考えていることはある?」フィドーラ殿下が尋ねた。
「私は殿下のそばにいられればそれで十分です。」私は答えた。
「それだけじゃなくて。あなたがあのとき卒業したでしょう?卒業したら、何をしたいの?」殿下が言う。
「まだ具体的には考えていませんが、きっと陛下が私を必要な場所に送り出してくださるでしょう。」私は少し困ったように笑った。
「それなら、父上に頼んで少し楽な任務を与えてもらうようにするわ。軍隊や親衛隊は大変すぎるもの。それに、わたくしは結婚したらすぐに子どもを育てたいの。皇位を継ぐ頃にはきっと忙しくなるから、今のうちに準備を整えておきたいわ。もしかしたら、今すぐにでも結婚するのがいいかもしれない。神々の教えでは、成人したら結婚してもよいとされているものね。あなたももうすぐ16歳になるでしょう?」
「そこまでは考えていませんでした。」私は恥ずかしそうに答え、少しうつむいた。婚約したばかりなのに、結婚や子どもの話になるとは思わなかった。こんな大切な話なら、せめて部屋の中で二人きりの時にしてほしいものだ。
「まあ、考えておいてちょうだいね。ところで、どうしてわたくしが皇帝になりたいと思っているのか、興味がない?」フィドーラ殿下が突然言った。
「もちろん、殿下は私を守るために皇位を望んでいるとおっしゃっていましたよね?」私は少し驚きながら尋ねた。
「それも理由の一つよ。しかも一番重要な理由なの。帝国を全て手に入れることができれば、今のように貴族たちに頭を下げて、支持を得る必要もなくなるでしょう。でも、実はそれだけじゃないの。今はあなただけのためじゃないの。」殿下は少し肩をすくめながら言った。
「殿下は私のために本当にたくさんのことを考えてくださっていました。心から感謝いたします。」私は心から感謝し、胸が熱くなるのを感じた。
「それが妻の務めだもの。わたくしたちの運命はもう一つの糸で結ばれているのよ。それに、帝国はみんなが本当の意味で幸せを感じられない場所だと思わない?新貴族とオーソドックス貴族は互いに憎み合い、平民と貴族も同様に対立しているわ。北方の旧王国は圧迫され続け、辺境の蛮族は毎年のように奴隷を貢がされている。商人は領主が課す重税に苦しみ、命令一つで商売が立ち行かなくなることを恐れているの。教会も信者の信仰心が足りないと不満を抱いているけれど、内部の異端者がわたくしの髪の毛より多いのが実情だわ。皇族ですら、わたくしのようにただの政略結婚の道具として育てられる人があるし、皇太子だったアウレルでさえあのようなことを起こしたの。父上は唯一愛する息子と妻を失い、深い悲しみの中に落ちる。なぜそうになったの?あなたはどう思うの?」フィデーラ殿下が突然足を止め、真剣な表情で私に言った。
私はドキッとして周りを見回した。従者たちはみんな後ろについていて、周囲には誰もいない。フィデーラ殿下の話が他の人に聞かれなければいいのだが。
「人生って、そういうものかもしれません。神々がこの世界に塗った基調は灰色であり、私たちは一瞬の光を自ら見つけ出すしかないのだと思います。フィドーラ殿下に出会うまでは、人生に意味など見いだせず、ただ家族との約束のために一日一日生き延びるだけでした。でも今は、フィドーラ殿下が私の生きる意味です。生き甲斐を見出させてくれて、ありがとう。」私は勇気を出してフィデーラ殿下にそう告げた。
「まあ、さすがは特別入試で学院に入った優等生ね。他の女の子にはこんなこと言ったことないでしょう?」フィデーラ殿下は少し微笑みながら私に目を細めた。
「ありません。孤児院出身の新貴族の私生児に興味を持つ貴族の娘なんていないでしょうから。」私は照れ笑いを浮かべて答えた。
「つまり、皇族の娘でなければあなたを好きになる資格はないって言いたいのね。まあ、それはさておき、わたくしたちどこまで話してたっけ?」
「フィドーラ殿下がなぜ皆が幸せでないのかを尋ねておられました。」
「そう。わたくしはその原因が帝国そのものにあると思うわ。帝国は千年以上も続いてきて、たくさんの問題を抱え込んでしまったの。いくつかのことはもう変わるべき時期に来ている。父上もこの問題を理解していて、変えようと努力しているわ。でも北方王国を併合してオーソドックス貴族を抑え込もうとしたり、平民や新貴族に頼ろうとしたりしたけれど、どれも上手くいかなかった。今では継承者も失ってしまっている。彼はまだ精神的には元気だけど、医者によればもう数年しか持たないらしい。わたくしは父上の意思を継いで、帝国を希望に満ちた場所にしたいと思っているの。あなたにもこの帝国で楽しく生きてほしいわ。それが神々がこの世界をわたくしたちに授けた真の意味だと思うのよ。」フィドーラ殿下は再び前を向いて歩き出した。陽光の中、その背中はまるで聖女のようだった。
「フィドーラ殿下、私はあなたを信じています。あなたは私の世界を希望に満ちたものにしてくれた。だから、一緒にその願いを叶えていきましょう。でも陛下は今も元気で、これからも長く生きるだろう。」私はフィドーラ殿下の背に向かって深々とお辞儀をし、心からそう言った。皇帝陛下が現状を打破しようとした努力が、私に悲劇をもたらした。でも、フィドーラ殿下がいるなら、すべてがまだ取り戻せるかもしれない。急に心が軽くなった。フィドーラ殿下は私の伴侶であるだけでなく、彼女が築く未来の帝国が私の居場所にもなるのだ。私は皇帝陛下に感謝したくなった。こんな素晴らしいフィドーラ殿下を私の側に送ってくれたことに。
「わたくしをこんなに信じてくれてありがとう。正直言って、わたくしは以前、本当にあなたを気に入っていなかったの。父上がわたくしの皇女としての努力を認めてくれないで、辺境の坊やを押し付けたように思えたわ。でも、あなたが本当に童話の中にあるようなことを成し遂げてくれるとは思わなかった。ペーガソスに乗った瞬間、まるで自分が童話の主人公になったような気がしたわ。これは全部父上のおかげね。」
「ええ、私も陛下のご配慮に感謝しています。」私は答えた。リノスでの悲劇は彼が引き起こしたものだけど、今はそれを忘れることにした。
「うーん、これがただ未来への理想だけど、やるべきことは山のようにある。まずは父上の後継者の争いに勝たなければならないわ。大半の貴族はわたくしを支持していないけれど、何とかする方法はある。父上の認可さえ得られればいい。あなたがわたくしのそばにいるなら、アラリコ兄上やエリジオ兄上に劣ることはないと思うわ。どうにかなるわよ。わたくしが言いたかったのはこれで全部よ。さて、あなたはさっき何を言おうとしていたの?」フィドーラ殿下が私に顔を向けて尋ねた。
しまった、さっきまでの話に夢中になりすぎて、フィドーラ殿下にはまだ私の秘密を打ち明けていないことをすっかり忘れていた。今こそ、思い切って告白すべきだろうか?フィドーラ殿下がこんなにも私のために尽くしてくれている今、これ以上隠し通すのは失礼だと感じた。私は唾を飲み込み、なんとか勇気を振り絞って口を開こうとした。
しかしその瞬間、空から号笛の音が響き渡った。これはグリフォン軍団の警戒信号だ!私はとっさにフィドーラ殿下を後ろにして、右手で剣を抜いた。アデリナたちもすぐに駆け寄ってきた。
「あれは何だ?」フィドーラ殿下が驚きの声をあげた。
「警報です。まずは陛下のもとへ戻りましょう。」私は短く答え、急いで兜を被り直した。殿下はうなずき、私と共にテントの方へと走り出した。
近衛軍団の兵士と衛兵たちはすでに警戒態勢を取った。一部は弓を構え、一部は槍を構えていた。皇帝陛下もテントから出てきて、ラドに何やら指示を出しているようだった。貴族たちも動揺しながら、自分たちのテントへと急ぎ始めた。その時、南の森の方角からも近衛軍の兵士たちの号笛が聞こえてきた。どうやら敵は南側から来ているようだ。
私は急いでフィドーラ殿下の南側に立ち、剣を抜いて戦闘態勢を整えた。敵の狙いは明らかに皇帝陛下だ。殿下の背後には湖があり、その向こうには皇城がある。あちら側は比較的に安全だろう。
次の瞬間、遠くの木々の梢から黒い影が現れ、素早く私たちの方へ向かって飛んできた。それはグリフォンに乗った騎士たちだった。グリフォンたちは次々と皇帝陛下のテントへと飛んで行き、うちの兵士たちは盾を構えて陛下を守ろうと必死だった。陛下も素早く小屋の中へと避難し、遠くの衛兵たちは弓で応戦していた。何羽かのグリフォンが矢に当たって地面に落ち、倒れた騎士たちはすぐさま地上で近衛兵たちと交戦を始めた。彼らの左腕には白い布が巻かれている。どうやら、ヒメラ伯爵領に寝返った裏切りのグリフォン騎士たちだ。




