騒がしい新年(婚約式への旅はドキドキ)
新年の間、皇城での舞踏会が毎晩開かれた。これは一年一度だけ帝都に集まった大人物たちを招待するためのイベントだ。時には貴族に爵位を授けるような儀式もこうした舞踏会で行われる。先月、皇帝陛下は私がアウレルの反乱で活躍したことを称えて、勲章と名誉子爵の爵位を授けると言っていた。皇帝陛下はもともと私に名誉公爵の爵位を授けようとしていたが、フィドーラ殿下と一緒にそれを断った。名誉騎士からいきなり名誉子爵に昇進するのも大げさだと思ったからだ。でもその後、私は帝国の歴史をきちんと調べてみた。実は反乱で皇帝を守ったことで平民から直接領地が持ち伯爵に封じられた者もいたらしい。だから、皇帝陛下がそうするのもそれほど大げさではないのかもしれない。
しかし、本当に重要なのはフィドーラ殿下との婚約式だ。だから午後からは念入りに準備をした。今回の準備はビアンカが担当し、母親がそばで指導してくれた。まずはしっかりと風呂に入り、その後ビアンカがアドリア領地から持ってきた新しい礼服を取り出した。礼服の装飾は全て商会を通して帝都で購入したものだと聞いている。高価で驚かされた。礼服にはパイコ領地の討伐で得た銀のグリフォン勲章をつけている。髪もきちんと整えられ、ビアンカが化粧までしてくれた。ルナとしてシルヴィアーナやアデリナにお人形のように着飾られた時と比べると、今日の準備はかなり楽だった。そのおかげで少し気が楽になった。
婚約の贈り物はハルトが持ってきてくれるので、今日彼もきちんと身なりを整えた。父親が用意してくれたティアラとベールも今は箱の中に収められている。これはニキタス商会に依頼して作ってもらったもので、ティアラの主体は銀製で草花のような模様が彫られている。ティアラというより、銀で作られた花かんむりといった感じだ。ベールはシルクので、日月星辰が刺繍されている。フィドーラ殿下はまだ姫であり、以前のアウレルのように純金に宝石をあしらったティアラを持つことはできないため、こうした朴素なティアラしか着用できない。
また、フィドーラ殿下には精油のセットを贈ることにした。これは家で蒸留機を使って自作したものだ。そのおかげて、半月以上もフローラルウォーターを飲み続けたものだ。精油はニキタス商会から購入した小さな銀瓶に入れている。以前、ルナとしてフィドーラ殿下を訪れた際にも一瓶贈ったが、昨晩彼女がそれを使ったらしい。気に入ってくれているのだろうか。
今日、家の従者や侍女、それにミハイルたちも招待されていた。彼らも礼服に着替え、私たちと共に出発することになっている。フィドーラ殿下は特にルナとシルヴィアーナを招待した。しかし、私はフィドーラ殿下にルナが急な知らせを受けてアドリア領地に戻ったことを伝えた。殿下はとても怒って、どうして事前に教えてくれなかったのかと不満を漏らしたが、どうにかして彼女の機嫌をとり直すことができた。でもとりあえずルナのことはしばらく心配しなくても良さそうだ。
出発までまだ少し時間があるが、私は緊張し始めていた。母親の私を見る目は、まるで嫁に出す娘を見送るようだ。でも婚約を前にしてもフィドーラ殿下に自分の秘密を話していないことが気がかりだった。このまま婚約した後に話すのは、彼女を欺いていることにならないだろうか?昼間には話す時間があったのに、なぜその機会を逃してしまったのだろう。心の準備をする必要があるのだろうか、そんなことに気を取られてしまう自分が情けない。
母親と共に皇城へ向かう馬車に乗り込んだ。従者たちは後ろの馬車に乗り、私たちに続いていた。今夜の式典は私を中心としたもので、舞踏会にはフィドーラ殿下と私に関係する人たちが招待されているが、具体的に誰が招かれているのかは知らされていない。
揺れる馬車の中、私の心も揺れ動き、緊張が募っていた。ふと、自分がまるで前世のおとぎ話に出てくる継母に疎まれる娘のように感じられ、カボチャの馬車に乗って舞踏会へ向かうような気持ちになった。現実と童話の境界が曖昧に感じられている。実の親ではない今の両親の元で育ち、騎士という仮面の下で本当の自分は最も姫の夫にふさわしくない存在だと思ってしまう。しかし、フィドーラ殿下は間違いなく皇帝陛下の娘であり、高貴な血筋で、次の皇帝になる可能性もある。それでも私はこうして馬車に乗り、礼服に身を包み、フィドーラ殿下との婚約に向かっている。こんなことが童話のように、夜中の鐘が鳴るとともに元の孤児に戻ってしまうのだろうか。そう考えると、私は一層緊張してきた。
「ルチャノ、今緊張しているようね。」母親が微笑みながら私に声をかけた。
「ええ、母親。婚約を迎える普通の男もこんなに緊張するものですか?」私は右手で髪を弄りながら、少し自信なさげに答えた。
「多少は緊張するでしょう。でも、みんなもっと喜んでいるわ。」母親が言った。
「母親、まだフィドーラ殿下に何も伝えていないんです。こんな弱い私では、殿下に普通の結婚生活を与えることなんてできません。本当にこんな幸福を手に入れる資格があるのでしょうか?目を閉じるのが怖くて、目を開けたときに目の前の全てが泡のように消えてしまうんじゃないかと心配なんです。」私は窓を少し開け、外の景色をぼんやりと眺めながらつぶやいた。
「本来なら婚約前に言うべきだったけれど、今は叱る時じゃないわ。よく聞いて、ルチャノ。いいえ、セレーネー。あなたは当然、幸せになる資格があるわ。あなたは何も劣っていない。誰にでも秘密があり、それぞれの幸せが待っているのよ。あなたも同じ。結婚する前にお互いに秘密を持っている夫婦も多いのよ。結婚後に少しずつ本当の相手を知っていくの。あなたと彼らに違いなんてないわ。人は変わるものよ。結婚は寄せ集めのキャンディのようなもので、包み紙を剥がして口に含んでみて初めて本当の味がわかるの。」母親が結婚について教えながら、まるで先生のような表情を浮かべていた。
「でも、私の秘密は大きすぎませんか?」私は髪を弄り続けながら答えた。
「そんなことはないわ。あなたの周りの絆を信じなさい。どんな形で結ばれたものであれ、それは確かに存在する絆よ。それに、フィドーラ殿下を騙そうとしたわけじゃないでしょう?男の姿で生きるのも自分を守るためだった。婚約を決めたのもあなたじゃない。頭を悩ませるのは陛下に任せておきなさい。」母親が微笑みながら言った。
「わかりました、母親。」私は母親を見つめて返事をした。今の両親は血の繋がりこそないが、間違いなく私を愛してくれている。私も貴族の家に生まれ、すぐに名誉子爵に封じられる。全てが現実で、前世の童話とは違う。少しだけ緊張が和らいだ気がした。
馬車は皇城の東門で停まり、ここからは皇城の馬車に乗り換えて宴会場へ向かうことになった。議会が夜初の鐘まで続くため、まだ少し時間がある。私たちは全員、宴会場の横の待機室で少しの間待機することにした。舞踏会は議会終了後に間もなく始まる。皇城の召使いたちが昼間に使用された長いテーブルを壁際に寄せて並べ、壁沿いに円卓を配置する。中央の空間が踊る場所になるのだ。円卓には食べ物や飲み物が並べられる。立食パーティーと舞踏会を兼ねた形式だ。
家の従者たちは最終準備に忙しくしていた。ハルトは礼服を着て鏡の前で髪を整えている。今日の礼服は特に仕立てがぴったりで、シャツ越しでも筋肉がはっきりとわかる。アデリナとシルヴィアーナも華やかなドレスに身を包んでいる。ドレスを着たアデリナは本当に美しかった。背中や腕の筋肉も目立ち、それがかえって格好良さを引き立てていた。私は思わず見惚れてしまった。シルヴィアーナはいつも通り長ズボンを履いている。まだ未成年なので、社交ダンスを踊ることはないが、リノスのダンスを私がしっかりと教えていて、それが私と彼女の毎朝のラジオ体操のようなものになっている。今日はシルヴィアーナが食事を楽しむつもりのようだ。まったく、以前の私と同じじゃないか。
「アデリナ、ハルト。今日のあなたたちは本当に素敵!」私は彼らを見渡しながら言った。
「ありがとうございます、若様。」ハルトが本当の騎士のように一礼して答えた。なんどイケメンなの!
「今夜の舞踏会でパートナーを見つけてみてはどうかな?」私は半分冗談で聞いてみた。
「まったく、そんなことはしたくないじゃないの。まだその年齢じゃないし。」アデリナは顔を背け、不機嫌そうに言った。
「まあまあ、アデリナ。この間教えたダンスのステップは覚えてるだろう?」ハルトがアデリナに話しかけた。
「あまり覚えていないけど、どうでもいい。誰も私を誘うことなんてないし、今日の目的は皇城の美酒を楽しむことだもの。」アデリナは眉をひそめて言った。
「アデリナ、あなたが舞踏会に参加するのはフィドーラ殿下からの任務だ。転んだらあなたを招待してくれたフィドーラ殿下に迷惑がかかる。ハルト、アデリナにもう一度ダンスの練習を頼むよ。」私は両腕を組みながら言った。
「承知しました、若様。」ハルトが再び一礼し、アデリナの前に立って彼女の手を取った。どうしよう、アデリナとハルトもお似合いじゃないか!二人が結婚してくれたらいいのに。でもそんなこと口にしたら、アデリナに怒られるに違いない。




