騒がしい新年(皇妃たちの家族)
扉が開くと、白い高位神官の法衣をまとった老人と、その妻と思われる女性が現れた。修道院に入っていない限り、教会の神官たちは結婚が禁じられていない。多くの帝国貴族も教会に関わりを持っており、この神官もその一人なのだろう。背丈は低いが、体格はがっしりしている。もし聖典を手にしていたならば、それは異端者を物理的に叩く武器にさえなり得そうだった。自分が異端者のことを考えると、私は思わず身震いする。私のような前世の記憶を持つ存在は、教会から不吉とされることもあるが、この神官が本当に私を退治しに来たのではないだろうか?
「エルグハ様、ご到着いただきありがとうございます。」アラリコがまず礼を取った。私もみんなに倣って頭を下げた。身の上のことが原因で、私は宗教に対して信仰心が深くない。だから教会の大人物たちにも面識していない。
「おお、アラリコ。元気にしていたか?しばらくうちに顔を出していないようだが、忙しかったのだろう?」エルグハはアラリコを手で支えながら微笑んだ。
「はい、エルグハ様。ご存知の通り、父上の後継者争いで忙しく、最近は都に来る貴族たちとの交際に追われております。」アラリコが答えた。
「時間があれば、うちの家とか、教会とかにも顔を出してくれ。」エルグハが言った。
「承知しました、エルグハ様。儀式の際もお疲れ様です。」アラリコが返答した。
「いいや、私の務めだからな。クレイオー、オーラニア、元気でなりよりだ。」エルグハは双子の方を向いた。
「ええ、エルグハおじさま。またお会いできて嬉しいです。」クレイオーが言った。
「エルグハおじさま、昨日もお会いしましたよ。城で神学の講義をしてくださいましたから。」オーラニアが一礼しながら答えた。
「はは、私にとって、それも長い時間だったのだよ!」エルグハは大笑いした。今の彼は慈愛に満ちた長老のようで、教会の高位神官には見えなかった。
「エルグハ様、ご健勝で何よりです。」エリジオも挨拶して、フィドーラ殿下も頭を下げた。
「フィドーラ、お会いできて嬉しいよ。ああ、そちらの小柄な方がルチャノだな。初めまして。私はエルグハ、今はシッラー侯爵であり、教会の枢機卿とも任せた。君のことは教会でも有名だ。神学の特別試験に合格して学院に入学できる人は少ないからな。」エルグハは笑顔で答えた。えっ、シッラー侯爵?それは第二皇妃のクリナの家系ではないか?
「エルグハ様、お会いできて光栄です。」私は急いで礼を取った。
「ハハハ。ルチャノ、君には感謝している。ありがとう。あの日君がいなければ私は今日この宴会場に来ることができなかっただろう。我が家も反乱軍に襲われたのだ。クリナたちも皇城内で危険な状況だったが、親衛隊が最後まで踏ん張ってくれたおかげで助かった。」エルグハは感慨深げに語った。
「私は自分の務めを果たしたに過ぎません、エルグハ様。誓いを果たすのが私の役目ですから。」私は答えた。
「はは、誓いを真剣に守る者が今の時代にいるとはな。ところで、今日はどうしてここにいるんだ?宴会には参加しないはずでは?」エルグハが微笑んで尋ねた。
「エルグハ様。私は現在親衛隊の副隊長として、今日の宴会の警備を担当しております。」私は答えた。
「そうか、そうか。それにしても君にぴったりの仕事だな。さあ、忙しそうだし、頑張ってくれ。」エルグハは私の背後で警戒をしているラドを見て言った。
「エルグハ様、本日も宴会を楽しんでください。」私は一礼した。
エルグハは軽く頷き、アラリコ夫妻に導かれて席の方へと向かった。私はほっと一息ついてフィドーラ殿下に別れを告げ、宴会場の扉を出た。
冷たい風が吹き、私は思わず身を縮めながら上着をさらに締め直した。ラドは無言で私の後ろをついてくる。東門から儀式区にかけては多くの松明が灯されている。周辺を照らしているが、寒さはやはり厳しい。一台の馬車がちょうど門前に停まり、ロインがオティリアの手を取って降りるのを助けていた。
「ロイン様、こんばんは。」私はすぐに頭を下げて挨拶し、宴会場の門を開けた。本来これは門番の衛兵が行うべき仕事だが、私は先んじて彼らを手伝った。
「ああ、ルチャノ。こんばんは。外は寒いから早く中に入れ。おや、礼服の下にラメラーアーマーを着ているのか?」ロインは空いている手で私の肩を軽く叩いた。
「はい、ロイン様。本日は宴会の警備を担当しておりますので、東門の様子を確認しに向かうところです。お許しください。」私は答えた。
「そうか、フィドーラとの結婚はまだ先だからな。行ってきなさい。」ロインは笑いながら宴会場へと入っていった。フィドーラ殿下と結婚すれば、私もロクサネのように来賓を迎える側だな。
「ルチャノ、酒を贈ってくれてありがとう。ただ今後は控えてほしいわ。」ロインの妻であるオティリアが少し厳しい表情で私を見つめながら言った。
「えっ、口に合わなかったでしょうか?」私は驚いて尋ねた。ロインは喜ぶだろうと思っていたので意外だった。
「いえ、むしろ逆よ。ロインとクロドミロは初日で酔いつぶれてしまって、警備隊の仕事も滞ったわ。今、家のワインセラーの鍵は私が管理しているし、酒の一部は警備隊の同僚に配っておいたの。まったく、家の男たちは自覚が足りないわ。」オティリアはロインに視線を向けながらため息をついた。ロインは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ロインおじ様、オティリアおば様。」フィドーラ殿下が近づいてきた。
「フィドーラ、あなたも同じよ。これからは気軽に酒をおじ様や従兄弟に送らないで。」オティリアがフィドーラ殿下に言った。
「分かりました。でも、今夜はどうかロインおじ様が存分に美酒と宴を楽しめるようにしてあげてくださいね、オティリアおば様。父上の宴会では、お酒を控えるのは難しいでしょう?」フィドーラ殿下がオティリアの手を握りながら微笑んだ。
「うまく言い訳を見つけてくれたわね。」オティリアも笑いながらフィドーラの頭を軽く撫でた。フィドーラは私に一瞥をくれた後、ロイン夫妻を席へと案内していった。
私はフィドーラ殿下の背中を見送ってから、再びラドを伴って宴会場を後にした。今度こそ完全に離れるつもりだ。次々と馬車が私のそばを通り過ぎていく。沿道に立つ衛兵たちが私に挨拶をしてきたので、私も一人一人に返礼をした。
道端の松明はまるで星のように輝いている。月がまだ昇っていない夜空の下で、雪が松明の光を受けて静かに溶けつつあった。私はラドとともに儀式区全体を巡り、記憶を頼りにすべての哨兵の位置を確認した。異常がないことを確認すると、再び東門へ向かって歩き出した。
宴会場から東門まで歩くと、10分ほどで到着する。貴族たちの馬車はすでに東門内の小広場に並び、彼らは皇城の馬車が宴会場へ迎えるのを待っているようだった。今日の来賓のうち、迎賓を担当する皇族は5人だけで、そのうち2人はまだ子供だ。もし全員が一度に宴会場に向かってしまったら、フィドーラ殿下たちも対応しきれないだろう。
東門内の小広場は通常、城内で働く文官たちが点検を受けたり、馬車を預けたりする場所だ。馬小屋や従者の待機室も備えられている。特別な許可がない限り、城内では武器の携行が禁止されている。だから今日の貴族たちは従者に剣を預けるか、馬車に置いている。従者たちは待機室で待つことになる。そこは4階建ての石造りの建物で、長いテーブルが並べられており、まるで平民街の安酒場のような様子だが、安全のためにここでは酒の提供はなく、パンとお茶だけが配られている。でも自分が持って来る酒を飲むのは禁じてない。
私は貴族の従者たちに紛れて待機室に入り、壁際の扉と階段の間に立った。出入りが多く、騒がしいせいか、誰も私の存在に気づかない。待機室の中は蝋燭が灯されているが薄暗く、空気も少し淀んでいるため、私は思わず鼻を押さえた。従者のほとんどは男性で、三々五々に集まって話しており、持って来る酒やつまみを出して静かに飲んでいる者もいた。上階からも賑やかな声が聞こえてくる。建物の管理人は少し嫌な顔をしながらも、黙々とテーブルにお茶やパンを運んでいた。私の姿に気づいた執勤中の衛兵たちが直立不動で敬礼し、周囲の者たちが驚いた顔で私たちを見つめる。
「若様!」左側からハルトの声が聞こえた。振り向くと、ハルトとアデリナが私の元へ駆け寄ってきた。
「待たせて悪かった。こちらは騒がしくて居心地が悪いだろう。衛兵の待機室に移動しよう。」私は二人に声をかけた。午後にここを訪れたときにはまだ人影もなく、ハルトたちは家庭教師の宿題をしていたはずだったが、さすがにこの環境は酷だと感じた。
「いいえ、若様。衛兵の待機室にいると他の貴族家の情報が得られるかもしれません。このままここに留まらせてください。」ハルトが答えた。
「アデリナはどうだ?」私はアデリナに尋ねた。
「まったく。仕方ない。ハルトをここに一人で残しておくわけにはないじゃないの。」アデリナは不満そうにハルトに視線を向けながら答えた。




