騒がしい新年(ユードロスからの教え)
地面に降り立った瞬間、フィリシアは大きな頭を私の胸に押し付けてきた。私は手を彼女の頭の羽毛の中に差し入れ、そっとマッサージをするように撫でてあげた。フィリシアは気持ちよさそうな表情を見せ、翼を少し広げ、再び「グルグル」と鳩のような声を出した。やっぱりグリフォンは基本的には鳥なんだなと感じた。私はフィリシアの背を撫でた後、ふとした思い付きで彼女の大きな爪を触ってみた。フィリシアは不機嫌そうに爪を後ろに引き、さらに爪を持ち上げて私の手を押さえつけようとした。フィリシアの爪は柔らかいが、爪は鋭く、まるでナイフのようだ。私は彼女の爪を触り続けたが、フィリシアは不満げに「ピピ」と鳴き、大きな頭で私を後ろへ押しやった。そのせいで私は地面に尻もちをついてしまった。
「もう、本当に着替える服がなくなっちゃうよ!」私は怒ったふりをしてフィリシアの嘴を押し返した。彼女はまた私の髪を軽くつついてきたが、その間に私は彼女の首をもう一度撫でた。本当に犬みたいだ。
「ルチャノ。本当に泥遊びをしたいなら、訓練が終わってからにする。」背後から翼が羽ばたく音が聞こえた。振り返ると、それはユードロスだった。
「泥遊びなんてしてない!フィリシアにまた押し倒されだけです。」私は不満そうに言った。
「どちらでもいい。ロレアノ様がもし君の飛行が順調なら、次は戦闘訓練に入ると言っていた。」ユードロスが言った。そして私に弓と槍を手渡してきた。
私は頷いて弓を背負い、矢筒を腰に固定した。顔と手が冷たかった。空にいる間はあまり感じなかったが、弓を操作するのは少し手がかじかんで不自由だった。グリフォンの鞍には槍を固定する場所があり、多くの槍を持ち運ぶこともできるようだった。ユードロスは再びグリフォンに乗り、私を連れて空へと舞い上がった。
「空の敵には弓を使う。地上の敵には槍を投げつける。」ユードロスは郊外の空き地を指して実演してくれた。弓の使い方は流鏑馬などの騎射と変わらない。以前はペーガソスライダーの武器訓練も受けたが、あの時使っていた弓はまるでおもちゃのようだった。もともとペーガソスライダーは戦闘が得意な兵種ではないので、仕方がないことだ。地上の敵には槍を使う。まず急降下してから槍を投げれば、命中精度が高くなる。しかし低空で戦うと弓矢の攻撃を受けやすい。そのため水平飛行中に地上に短槍を投げることもある。命中させるのは難しいが、地上の敵が避けようとするため、陣形が崩れる。すると地上の味方が攻撃しやすくなる。帝国が大陸を統一できた理由も納得できる。グリフォン騎士の存在は帝国軍に大きなアドバンテージをもたらしているのだ。
ユードロスが説明を終えると、私もいくつか練習をしてみた。幼い頃からペーガソスに乗っていたこともあって、弓も槍もすぐに慣れた。あとはひたすら練習あるのみだろう。しかし最近は時間があまりないのが悩みだ。途中でロレアノもやってきて、シルヴィアーナに飛行訓練をさせるようソリナに手配したと教えてくれた。しかし彼女が単独で飛行できるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
武器の訓練を終えた後、ユードロスは私をもうしばらく空で飛ばせてくれた。私たちは演習場の南にある小さな村の近くに降り立った。フィリシアは道路の上に降りた。さすがに賢いグリフォンだ。家屋や畑を傷つけないようにしている。私は彼女を褒めるように頭を撫でてやると、フィリシアはまた「ピピ」と嬉しそうに鳴いた。
村から数台の馬車が出てきた。御者たちは恐る恐る私たちに道を開けてくれるようお願いした。私はフィリシアを引いて道の端に移動し、村に小さな食堂があるのを見つけた。
「ユードロスさん、何か食べられるものがあるか見に行こうか?少しお腹が空いでした。」私は食堂を指さしながら提案した。
「ロレアノ様に怒られる。」ユードロスが断った。
「大丈夫、さっと食べてしまおう。」私はそう言って食堂に足を踏み入れた。やはり村の小さな店なので、店主は何度も頭を下げながら、肉料理がまだ準備できていないと謝ってきた。しかし塩味のミルクティーはあるという。わあ、これは嬉しい!私は店主にミルクティーを一壺頼んだ。店主は今朝釣ったばかりの魚があると言うので、私はグリフォンたちにあげるために二匹買うことにした。
「ユードロスさん、グリフォンは魚を食べても大丈夫ですか?」私は先にユードロスに確認した。
「問題ない。鷲は魚を獲って食べるから。グリフォンは鷲の頭を持つけれど、性質的には鷲に近い。私たちもよく買ってくるんだ。」ユードロスが説明した。私はうなずいて、店主に魚を購入するようお願いした。
店主の娘が熱々のミルクティーを運んできたので、私はユードロスを誘って一緒に飲むことにした。顔を覆う兜を外すと、冷たい風にさらされた顔がほとんど感覚を失っていることに気づいた。
「冬用の服をもっと暖かくできないかな?」私は温かいミルクティーを手で包み込みながらユードロスに尋ねた。空の上では気づかなかったが、今は手もとても冷たかった。私は退屈そうに地面に横たわるフィリシアに目をやった。彼女のように全身がふわふわの毛で覆われていたらどれだけいいだろう。
「服が厚すぎると動きが不便になる。そうなると弓を射るのが難しくなるだろう。」ユードロスは容赦なく指摘した。私は落胆しながらミルクティーを一口飲んだ。あの日平民街で飲んだものと同じ味がした。やはり、この飲み物はどこでも同じ味がするのだな。温かさが胃から体中に広がり、自分がまだ生きているという実感が湧いてきた。店主の娘がまたリンゴを持ってきてくれた。おそらく貯蔵していたリンゴだろう。冬に果物を食べたいとき、最も手頃な選択肢はリンゴだ。地窖に保存しておけば、何ヶ月も腐らないのだから。店主の娘はまだ7、8歳ほどの少女だった。私は彼女の頭を撫で、チップとして銅リネを1枚手渡した。
「ユードロスさん、ルナの件では申し訳ないでした。」しばらく沈黙のうちにお茶を飲み続けた後、私は勇気を出して謝った。ルチャノとして彼に一定の距離を保ってきたが、ユードロスは本当にいい人だ。もし私がまだリノス王国の王女だったなら、ユードロスを好きになったかもしれない。客観的に見ても、私は彼に対して嘘をついていたようなものだ。ああ、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「君が謝る必要はない。これはルナ自身の決断だから。彼女が誓いを重んじていることを知って、やっぱり見込んだ通りだったと思っている。」ユードロスは視線を遠くに向けて答えた。これで本当に私は罪深い女と感じた。
「ルナは新年後にはアドリア領に帰る予定です。帰る前にユードロスさんに食事をおごるようお願いしておくつもりです。彼女を助けてくれたお礼と、この前の食事のお返しとして。」私は言った。
「いや、それはやめておこう。ルナが自分の選択をして、もう会わないほうがいいだろう。お互いに辛いだけだ。私には愛人もいるけれど、ルナとそのような関係には発展させるつもりはなかった。ルナ自身も望んでいないと思う。」ユードロスは断固として答えた。自分が帝国貴族と愛人関係に発展する可能性を考えるだけで、私は思わず身震いしてしまった。うっ、気持ち悪い。
「分かりました、ユードロスさん。ルナに伝えておきます。」私は再び静かにミルクティーを飲み始めた。
「うん、ありがとう。」ユードロスも再び沈黙した。
「結局のところ、ルナは辺境貴族領の下級貴族の娘に過ぎないから、平民とほとんど変りません。私たちは新貴族の家柄だけど、ユードロスさんの家はオーソドックス貴族です。ユードロスさんが結婚相手を探そうと思えば、候補はいくらでもいるんだろう?」私は尋ねた。心の中にはもう一つ気になることがあった。ユードロスがなぜルナを好きになったのかということだ。オーソドックス貴族の基準で見るなら、ルナは適切な結婚相手ではないはずなのだ。私はこれまでずっと考え続けていたが、その答えを見つけることができなかった。
「君には理解できないだろうね。だって君はもう王女の心を手に入れているんだから。」ユードロスはあまり面白くなさそうに言った。
「え?それはどういう意味ですか?」私は尋ねた。
「オーソドックス貴族の結婚というのは、ただの家と家の結びつきに過ぎないんだ。親の命令に従って、家族の利益のために結婚する。子供を産んで、二つの家族の血筋を融合させること。それと一つの屋根の下に住むことを除けば、家庭と社交界は何も変わらない。愛とは一体何だろうか?私は結婚にそのようなものを見出すことができないんだ。彼女たちはみな伯爵夫人の称号が欲しくて私に近づいてくる。それを私も彼女たちもよく分かっているんだ。でもルナは違った。彼女は侯爵の跡継ぎにも興味を示さなかった。まるで自分の剣術さえあれば、何でも解決できると信じているかのようだった。私は彼女に久しぶりに心がときめくような感覚を覚えた。」ユードロスは低い声で語った。
私は自分が剣術で何でも解決できるなどとは全く思っていない。前回のアウレル事件での活躍も、板金鎧とアデリナやハルトの守護があったおかげだ。自分の剣だけに頼っていたら、今ごろ私はきっと死んでいただろう。
「ルナは君が思うほど立派な人ではありません。彼女は自分に自信がなくて、他人の意見に流されやすいです。剣術だってそれほど強くないです。コンラッドみたいなへっぽこ相手には通用するかもしれないけれど、ユードロスさんには絶対勝てないです。」私は言った。
「ははは、冗談を言っているのかい?ルナが私に勝てるわけがないじゃないか。私は一応グリフォン騎士で、フィドーラ殿下の侍衛を務めている。最初から彼女が私に勝てるとは思っていない。」ユードロスはまるで面白いことを聞いたかのように笑った。ぐぬぬ、少し悔しかったが、私は反論することができなかった。
「確かに、女の子相手に勝っても嬉しいことはありません。」私は答えた。ルナは騎士ではなく、ただの侍女だ。もしルナに負けるようなことがあれば、騎士としては恥ずかしいことだろう。
「それが運命というものさ。ルナは空を舞うイヌワシのようだった。私がグリフォンに乗って彼女に近づけたとしても、彼女はすぐに飛び去ってしまう。私にとって、ルナと一緒にいられなくても失うものは何もない。彼女はまるで月光のように、私の闇を照らしてくれた存在だ。そして今月が消えただけで、私は再び闇に戻っただけだ。」ユードロスはつぶやいた。
「さすが学院の先輩、修辞表現がすごく上手です。ユードロスさんが元気を取り戻してくれて、私も嬉しいです。」私は自分の内なる罪悪感を押し隠しながら言った。もしあの時、私が思いつきでルナに扮して平民区に行かなければよかったのに。アデリナの言った通り、私はただ人に迷惑をかけているだけなのかもしれない。
店主が魚を数匹持ってきたので、私はお金を払い、ユードロスと一緒にグリフォンたちのもとに向かった。フィリシアは魚を見ると大喜びで、すぐに魚をくわえて飲み込んだ。しかし二匹目にはあまり急がず、魚を口にくわえて空中に投げ、ジャグリングをしているかのように遊び始めた。私は彼女が油断している隙に飛び上がり、魚を奪い取った。フィリシアは不満げに私の頭を突き、大きな頭で私を押し倒してきた。どうしてグリフォンはこんなに頭突きをするのが好きなんだろう!なんで羊のふりをした!




