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騒がしい新年(初めてのグリフォン飛行)

「ロレアノ様、フィリシアはどうして王女なんですか?」シルヴィアーナが尋ねた。


「グリフォンは母系社会だ。フィリシアの母親がこの群れの族長だ。だからフィリシアは王女だ。彼女は同じ歳のグリフォンよりも少し大きいだろう?」ロレアノは答えた。


「なるほど。それで彼女の雰囲気がフィドーラ殿下に似ているのか。」シルヴィアーナが納得したように頷いた。


「シルヴィアーナ、フィドーラ殿下は私をこんな風にからかったりしない。」私はシルヴィアーナに注意した。グリフォンなんかがフィドーラ殿下に匹敵するわけがない。


「でも、フィドーラ殿下はよく両手であなたの顔を挟んでいるでしょう?フィリシアがあなたを爪で押さえつけるのと同じよ。」シルヴィアーナは自然に言った。


「うっ、それはそうだ。」私はもう一度鞍を確認し、問題がないことを確認した。


「君とフィドーラ殿下、本当に仲がいいんだな。」ユードロスが横で不満そうに言った。彼は以前フィドーラ殿下が私にダンスを教えてくれたのを見たはずなのに、なぜ今さら驚くのだろう?


「さて、次は飛行だ。今度は私も一緒に飛ぶ。グリフォンの乗り方はペーガソスとほとんど同じだが、フィリシアと話しながら乗ってみてくれ。うまくコミュニケーションが取れればいい。優れた相棒はこうして試しながら見つけるものだ。がんばれ。」ロレアノはもう一頭の鞍をつけたグリフォンの手綱を引きながら言った。


私は包帯を巻いた右手でフィリシアの頭を撫でた。彼女は大きな頭を軽く振り、もう悪ふざけをしないと伝えているようだった。私はフィリシアをじっと見つめた。彼女は百科事典の挿絵に載っているグリフォンそのものの姿をしていた。大きな瞳は私の心を見透かすようで、灰色の翼は力強く美しかった。彼女はもう「グルグル」ではなく、「ピピ」という小鳥のような声を出していた。さっきの荒々しい態度がまるで別の生き物のようだった。ああ、さっきの試練もこのようにおとなしくしてくれていればよかったのに。


「フィリシア。私はリノスのセレーネーー、これからあなたの騎士になる。ふつつかものですか、どうぞこれかれらよろしく。」私は彼女の耳元で古典語を使ってそっと言った。この大きな瞳を前にして、私はルチャノという仮面をつけたくはなかった。どうせフィリシアは話せないから、私の秘密を漏らす心配もない。フィリシアは目をぱちぱちさせて、再び「グルグル」と声を出した。これで受け入れてくれたのだろうか?


私は鐙に足をかけてフィリシアの背にまたがり、シートベルトをしっかりと締めた。そして兜とゴーグルをつけ、離陸の準備を整えた。ロレアノは私に向かって軽く頷くと、先に自分のグリフォンに乗って空に舞い上がった。フィリシアが頭をかしげて私を見つめてきたので、私も彼女に軽く頷いた。そして嬉しそうに助走を取ると、勢いよく翼を広げて空に飛び上がった。


最初は少し揺れたが、それはフィリシアが前方の森を越えようと羽ばたいていたからだ。その後フィリシアの羽ばたきは穏やかになり、揺れをほとんど感じなくなった。フィリシアは本当に優れたグリフォンだ。ペーガソスに乗るのとは全く違い、グリフォンはずっと速い。兜とゴーグルがなければ、顔が風に吹かれて変形してしまうだろう。森や湖、凍った小川が私の足元を矢のように通り過ぎていった。そして高度はどんどん上がり、足元にあった建物もどんどん小さくなっていった。ロレアノは空に舞い上がった後、東南の方角へと飛んでいった。


こんな角度からキャラニ周辺を見下ろすのは初めてだ。キャラニの西と北は丘陵と山脈、南と東は広大な平原が広がっている。サヴォニア川は北西の丘陵から南東の平原までながれ、まるで巨大な銀竜のようだ。私は大将軍の邸宅とニキタス商会の蒸留酒工房を必死に見分けようとした。雪が降ったばかりなので、西北の丘陵も東南の平原も真っ白だ。平原はまるで真っ白なドレスのようで、村々が縫い込まれたレースの飾りのように見える。城塞は宝石のように目立っている。背後を振り返ると、丘陵がまるで真っ白な大福のようだ。柔らかそうで、つい触ってみたくなる。道は雪が取り除かれ、地面に茶色の線がくっきりと浮かび上がっている。まるで大地を包む漁網のようだ。ユードロスが以前言っていた「グリフォンに乗ると空の支配者になった気分になる」という言葉を思い出したが、本当にその通りだ。


丘陵と山地の間に見えるのが皇城とキャラニの街並みだ。この高さから見ると、皇城や市街はまるで模型のように見える。東側の皇城は高くそびえ、貴族や教会区の建物も美しく整っている。しかし西に向かうにつれて街並みは乱れ、高層の木造建築が雑然と並ぶようになる。あのあたりがニコラの故郷なのだろうか。サヴォニア川の水面には豪華に飾られた船が次々と接岸していた。川面には氷が少し浮かんでいるが、皇城近くの川の流れは冬でも凍らないと聞いている。


帝都近郊の道路には、豪華な装飾が施された馬車の一団がキャラニを目指して進んでいる。きっと新年の祝祭に参加するためにやって来た各地の貴族たちだろう。皇城の南には広大な演習場があり、いくつかの小さな砦が見える。その中でも一番大きく、皇城に最も近いのが近衛軍団の本部だ。演習場内には広大な草原や湖、森林が広がっており、近くの丘陵地帯も含まれている。グリフォンに乗って狩りをするにはうってつけの場所だな、と私は心の中で思った。


今は冬だ。アドリア領やリノス王国では、冬は家で手仕事をする季節だ。秋の収穫を終えたばかりで、家には一年分の麦が備蓄され、漬け肉の入った樽はいっぱいだ。手仕事というよりも、家族全員で今年の収穫や家族と一緒にいる幸せを楽しむ季節といったほうが正しいかもしれない。厚い雪が畑を覆いている。雪が地中で冬越しをする害虫を凍らせ、厚い雪は雪だるまを作るための材料にもなる。


リノス王国にいる時代は、毎年冬至に父上が雪に感謝する姿を見て、私も心から感謝を捧げていた。キャラニ周辺では、秋に稲を収穫した後、さらに油菜や小麦をもう一度植える。これにより、翌年の初夏にはまた一度収穫できるのだ。しかし冬の間はこれらの作物も手入れする必要がなく、春になれば自然と蘇る。あの時大地を覆う白い絨毯が消えると、すぐに緑の絨毯へと変わるのも楽しい。


ここが帝国の首都キャラニだ。子供のころこの街の美食に憧れ、でもある日から何度もこの街を滅ぼそうと心に誓った。しかし、今はキャラニが私にとって守るべき場所になった。この街には愛する人がいて、私を信頼し、忠誠を誓った人々がいる。かつて帝国皇帝を復讐の対象とし、次には帝国のオーソドックス貴族を憎んでいた。


しかしオーソドックス貴族を全て打倒することは不可能だ。しかもオーソドックス貴族の中にもユードロスやロイン様のように私に親切な人たちもいる。アウレルの反乱で、私はアウレル、コンラッド、パナティスを手にかけた。セレーネーとしての魂が復讐はもう十分だと言っている。オーソドックス貴族たちはその行いの代償を血で払ったのだ。その血で私の復讐の炎を鎮めよう。ルチャノという仮面をかぶった私は、私の命は私が忠誠を誓った皇帝陛下のものだと自分に言い聞かせた。だから復讐よりも優先すべきことがある。今こそ過去ではなく今のために生きる時だ、セレーネー。


「本当に素晴らしい景色だろう?私はよく空に上がってキャラニ周辺の大地を見下ろす。これを見ると、グリフォン騎士としての使命を思い出し、いろんな悩みを一時的に忘れることができる。」ロレアノが私の横に飛んできて言った。


「ロレアノ様、グリフォン騎士の使命とは何ですか?」私は尋ねた。


「帝国と陛下、そして民を守ることだ。私の家はあそこ、新貴族の子爵家だ。跡継ぎではなかったが、幸い帝都の学院に入学することができた。学院在籍中にグリフォン軍団に入隊し、見習い騎士になっだ。あれは20年以上前のことだな。ここにいると、故郷の家と皇城が一望できる。それにキャラニとその周辺の広大な土地も。帝国の国民はこんな場所で生活している。そして私は空から彼らを静かに見守っている。君はどうだい?なぜグリフォン騎士になりたいと思った?」ロレアノが聞いた。


「フィドーラ殿下の願いをかなえるためです。そして、アウレルの事件の時のように、フィドーラ殿下が危険にさらされないようにしたいからです。」私は答えた。


「君がそう思ってくれるのは嬉しい。私はずっと、人を守りたいという気持ちを持っている者こそ、立派なグリフォン騎士になれると思っている。」ロレアノが言った。私も頷いた。


「ところで、ロレアノ様。シルヴィアーナについてお願いがあります。彼女をグリフォン軍団に入って、ペーガソスライダーとして訓練を受けさせたいです。」私はこの機会を逃さず言った。


「もちろんだ。いまのグリフォン軍団は人不足だ。さて、雑談はこの辺にしよう。グリフォンの乗り方を教える。ペーガソスと似たような指示を使えるから、彼女と会話してみてくれ。君たちがうまく意思疎通できるかどうか試してみよう。相性のいいパートナーというのは、こうやって少しずつ見つけていくものだ。頑張ってみよう。まずは訓練場に戻る。これが君の最初の試験だ。」ロレアノは言った。


「フィリシア、ゆっくりと降下してもらえる?」私はフィリシアの首を撫でながら頼んでみた。グリフォンの首の羽毛は滑らかで、外側の大きな羽毛の下には柔らかい綿毛がある。触れるととても温かくて心地よかった。


フィリシアは再び「ピピ」と鳴き、翼を閉じて下に向かって急降下を始めた。私は急いで鞍を掴み、体をフィリシアの背に伏せた。風がフィリシアの毛や私の皮衣を波のように揺らし、まるで重力から解放されたかのように空を漂っている気分だった。眼下には大地がどんどん広がっていく。祖先たちが神々の住まう場所からこの大陸に降り立ったときもこんな感じだったのだろうか?


地面が近づいてきたところで、フィリシアは翼を広げて急降下の体勢から低空滑空へと姿勢を変えた。風の勢いが高空に比べると少し弱まったが、地面に近いぶん、農地や道、村が目まぐるしく視界を横切っていく。速度を実感できる。視界の端から次々と新しい景色が現れるのを見ていると、何でもできるような自信が湧いてきた。今抱えている悩みもきっと解決できる、ただ努力し続ければいいのだと。


私はフィリシアに上昇と下降を指示しながら、空中で回転を繰り返した。まるでトンボのように。フィリシアも時折振り返り、楽しそうに「ピピ」と鳴いていた。彼女も楽しんでいるようだったので、私は彼女の頭を撫でた。グリフォンに乗るのは本当に面白く、かつて飼っていた犬を思い出させた。そんなふうに遊びながら、私たちはグリフォン軍団の軍営に戻った。


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