騒がしい新年(グリフォンの伝説)
皇族の新年晩餐会まであと二日だ。父親によると、皇帝陛下が各貴族領へ派遣した使者たちはすでに全員戻ってきたそうだ。地方の貴族たちも続々と帝都に到着しており、貴族街には人の姿が増えてきた。皇城へ向かう通勤の道中でも、市街に豪華な馬車が以前よりもずっと多く見かけられるようになった。どうやら新年が本当に間近に迫っているようだ。
親衛隊の新兵の訓練も既に終わり、私も何度か一緒に参加した。毎回背が低いことを気にしてしまうのが少し嫌だったが、新年期間中の皇城の警備体制も確認済みだ。そしてラドの言っていた通り、今年は近衛軍団との協力もうまくいっている。父親やロイン様のおかげだ。皇帝陛下が新年の間行った場所を一通り歩いてみたが、特に安全上の問題はなかった。
次は陛下の行程前に再度チェックするだけだ。最近は毎日だいたい半日ほど暇な時間がある。ちょうど二日前にグリフォン軍団からグリフォン騎士の訓練ができるとの知らせがあった。フィドーラ殿下や父親も私にグリフォン軍団の訓練に参加させると言ってくれたので、一緒に参加することにした。
近衛軍団といえば、ニキタス商会の蒸留酒は親衛隊でも近衛軍団でも大人気だ。出身んに関わらず、軍官たちはみんな好評だった。ロイン様本人も気に入り、クルドミロまで一緒に愛飲している。父親も少しは飲むが、母親が厳しく飲む量を制限して、ついでに私の頭も指で叩かれた。でも母親も彼女がアドリア領地に帰るなら、私がその監督役を続けようと言いつけた。
どうやら妻は夫が酒を飲みすぎるのが嫌いらしい。父親はソティリオスが提案した拡張計画への参加を決め、私に追加投資を任せた。ソティリオスは最近の手紙で蒸留酒の売上が再び増加したと言っている。今彼らの蒸留器は休みなく稼働している。幸い、追加の蒸留器も製作中で、今年中には拡張が完了する予定だ。私は返信で、やはり貯蔵酒を新年後に早めに始めようと伝えた。未来への投資だと思うからだ。ソティリオスも賛成した。
最近フィドーラ殿下もよく私を召し出してくれる。陛下は私がこの期間中ずっと侍衛として務めるよう命じていたが、それを当然に解いてくれた。親衛隊の軍営にいることが多いため、召見も便利になった。主にお茶を飲みながらおしゃべりしたり、学院の課題を手伝ったりしている。時にはフィドーラ殿下が食事も一緒に取ることもある。決心したからか、フィドーラ殿下との距離が少し縮まった気がする。しかしフィドーラ殿下の侍衛がいるせいで、まだ告白の機会を見つけられていない。うーん、新年まで待とう。
今日は私と一緒にグリフォン軍団の訓練場に来たのはシルヴィアーナだけだ。彼女にもペーガソスライダーの訓練に参加してもらいたいと思っている。私の従者の中で、ペーガソスに乗れるのは彼女だけだからだ。シルヴィアーナも同意してくれた。実はハルトとアデリナにもグリフォン騎士になってもらいたいと思っていた。しかしグリフォン騎士になるには貴族の家に生まれ、帝都の学院を卒業している必要があるので、諦めることにした。
私たちはグリフォンの牧舎に案内された。同じような建物が近くにいくつも並んでいる。アドリア領で牛のために用意された冬用の小屋と似ているが、はるかに大きくて、壁がない。中には十数頭のグリフォンがいて、みんな装具や鞍をつけていない。今は束になって寝ており、動物の匂いが漂っている。馬小屋の匂いとは全然違う。そこにいるのはロレアノとユードロスだけだ。ロレアノは今日の教官で、ユードロスは助手だ。彼はまだ少し落ち込んでいるようだ。感情がまだ整っていないのだろうか?
「グリフォン小屋の雰囲気は馬小屋と全然違うと感じます。匂いも、人への態度も。ペーガソスはもっと親しいなのに。」私はグリフォンが時折揺らす尾を見ながら言った。ペーガソスは馬と同じで、親しくなると人参をねだるようになるが、グリフォンは猛獣に近いようだ。
「当然だ。グリフォンとペーガソスは違う。人間はペーガソスの飼い主だ。でもグリフォンは空の覇者で、人間は彼らのパートナーに過ぎない。知っているかい?サヴォニア大陸は神々が私たちに与えた約束の地だ。でも私たちの祖先が神々のもとからこの地に降り立ったとき、この大地には神々を信じない蛮族と様々な凶暴な野獣が溢れていたんだ。祖先は武器を取って彼らを追い払わなければならなかった。神々の信徒たちを導き、家を築いた者たちが後に王や貴族になった。パニオン帝国も西へ探索に出た人々によって築かれたんだ。」ロレアノはグリフォンの飼育場を案内しながら語った。
「もちろんです。それは子供のころから教会の神官たちに何度も聞かされてきた話です。」私は頷いた。この昔話は教会が語る大陸の起源についての説明だ。国によって細かい部分が違っているけど。例えばリノス王国では祖先たちが最初にヤスモスの地に到着したのが伝説になっているのだ。
「グリフォンは帝国の祖先が北西の辺境を開拓していく旅で出会った猛獣の一つだ。グリフォンの知能は子供並みで、簡単な言葉を理解できる。最初は祖先の宿営地に引き寄せられてやって来たが、やがて自ら人間の騎獣として協力するようになった。人間はその代わり、彼らに庇護と食料を提供してきた。グリフォンは空の中では無敵だけど、地上に巣を作って繁殖する必要があるから、地上の猛獣に襲われることもある。だから庇護も必要だ。人間とグリフォンが力を合わせて、西北の蛮族や猛獣を次々と打ち倒していった。帝国が建国されてから、西部にはグリフォンの保護地域が設立された。長い年月をかけて、帝国とグリフォンは共生関係を築いた。帝国は定期的に保護地域内の猛獣を排除し、グリフォンの巣を守っている。グリフォンたちも自分の意思でキャラニの軍営に飛来し、グリフォン軍団の騎獣になる。でも、その代わりに帝国軍は彼らに十分な食料を提供しなければならない。さもなければ、グリフォンたちは自分で去ってしまう。」ロレアノは一気に説明を続けた。どうやらグリフォンも上京する習慣がるようだ。
「まるで同盟者のような関係ですね。」私はそう言った。父親が以前ヒメラ伯爵領へ逃亡したグリフォン騎士たちについて語っていたのを思い出した。彼らのグリフォンはしばらくすると戻ってくると言っていた。やっぱりグリフォンは風のように自由な生き物だ。
「そうだ。グリフォンは自由だ。帝国はグリフォンたちのための記録も作っている。グリフォン軍団に加わっていないものでも。」ロレアノも頷いた。彼は本当にグリフォンが好きなんだ。
「まるでフェンリルみたいだよ。」シルヴィアーナが言った。
「え、フェンリルもそうなの?」私は聞き返した。
「もちろん。フェンリルも自ら人間と協力してきたんだ。あなたたちが北方領に来る前から、フェンリルは私の先祖たちと一緒にいたんだ。当時北方領には多くの猛獣がいて、フェンリルはよくいじめられていた。私たちの先祖が現れたとき、フェンリルは自ら保護を求めたんだ。最初は焚き火と食料に惹かれてきたようだが、やがて先祖たちについて来るようになった。犬も同じだよ。フェンリルは騎獣として私たちを森の中で駆け巡らせてくれるし、普通の犬のように狩りを手伝ってくれるんだ。今でも人がほとんどいない森の中には野生のフェンリルが生息していて、普通は人間に友好的だよ。フェンリルは私たちの忠実な友達なんだ。一度友情を築いたら、絶対に見捨てないよ。私がルチャノ兄さんに対する気持ちと同じだよ。」シルヴィアーナは私の手を握りながら言った。
「君の気持ちはわかっているが、まずはロレアノ様の話を続けて聞こう。」私は気まずそうに言った。シルヴィアーナはある面では本当に狼やフェンリルみたいだ。
「では本題に戻ろうか。グリフォンが一日にどれくらい食べるか知っているかい?」ロレアノはグリフォンの前で足を止めたが、グリフォンは目を開けようともしなかった。
「たくさん食べそう?」私は答えた。
「ユードロス、説明してくれ。」ロレアノはユードロスに向かって言った。まるで先生みたいだ。
「はい。百頭のグリフォンは、普段であれば毎日18頭の豚を食べます。銀リネに換算すると約300枚です。訓練が多いときや戦闘時には、一日36頭食べます。」ユードロスが答えた。
「その通りだ。だから私はヒメラ伯爵領がそんなに多くのグリフォン騎士を負担できないと言った。彼らの伯爵領の規模では、30頭のグリフォンを負担するのが限界だろう。」ロレアノは言いながら、前にいるグリフォンの首を撫でた。そのグリフォンは他のものよりも一回り大きく、不機嫌そうに目を開けた。そしてロレアノの手を舐めてから、のそりと立ち上がった。
「こんなにたくさん!フェンリルの方がよっぽど簡単だ。人間が食べるものなら何でも食べるし、私たちが食べ残した骨までかじれるんだよ。」シルヴィアーナが言った。
「私もグリフォンと比べたら、フェンリルの方がかわいらしいと思う。」私は正直に言った。肉食の猛獣と大きなふわふわの犬なら、誰だってフェンリルを選ぶに違いない。
「ルチャノ、これが君に選んだグリフォンだ。名前はフィリシア。見て、とても美しいだろう。彼女はつい最近成人したばかりで、数日前にヒメラ領から戻ってきたところだ。さあ、彼女が君を受け入れるかどうか、試してみよう。」ロレアノが言った。
「受け入れるかどうかって、どういうことですか?」私は不思議に思って尋ねた。
「さっきも言っただろう。グリフォンは自由な生き物だ。彼女が君を乗せて空を飛ぶかどうかは彼女次第だ。だから君は彼女の認めを得る必要がある。」ロレアノが言い、フィリシアの首を撫でた。




