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騒がしい新年(新年の仕事)

马車は親衛隊の事務棟の前で止まり、私は馬車から降りた。門の前に立つ哨兵が私に敬礼した。私も軽くうなずいて応えた。雪まじりの風が吹き抜け、思わず羊皮の外套をもう少しきつく締めた。キャラニはアドリア領ほど寒くはないが、12月はやはり外での活動には向かない季節だ。私は急いで目の前の扉を開けて中へ入った。


「ルチャノ様、ラド様たちはすでに会議室でお待ちです。」ラメラーアーマーを身に着けた屈強そうな男性がそう言った。彼はセンチュリオンのオタルの部下で、アウレルの事件のずっと前から親衛隊に所属していたことを覚えている。


「わかった、ありがとう。蒸留酒を少し持ってきたから、誰かに頼んで会議室に運んでもらえるのか?」私は言った。その兵士はにっこりと笑みを浮かべ、私に頷いてからすぐに背を向けて去っていった。普段は馬で親衛隊の駐屯地に来る。でも今日は酒を運ぶため、わざと馬車を選んだのだ。


私はため息をつき、前回シルヴィアーナと一緒にフィドーラ殿下を訪問した日のことを思い出していた。最初は順調だった。フィドーラ殿下の思いを確認し、ルナと言う仮面を使って自分の気持ちも伝えた。さらに求愛のダンスもフィドーラ殿下に捧げた。もちろんフィドーラ殿下はそのダンスの意味を知らなかっただろうが。なぜそれが一緒にお風呂に入る展開になったのか!


最初はシルヴィアーナの指導のもと、私がフィドーラ殿下にマッサージをしていた。精油を混ぜたオリーブオイルが心地よい香りを放っていた。私は力加減に注意しながら、フィドーラ殿下を傷つけなくようにしなければならなかった。だが、次第にシルヴィアーナが私にマッサージをし始め、フィドーラ殿下は微笑みながらそれを見守るという形になった。最後にはみんなでお風呂に入ることになった。皇室の湯ぶねは本当に大きくて、まるでプールのようだった。シルヴィアーナは楽しそうに泳いでいた。最後までウィッグがバレなくて、本当によかった。


その後、フィドーラ殿下は「あなたのマッサージは気持ち良かった」と言ってくれた。おそらく私の力が強いからだろう。フィドーラ殿下の体はどこも柔らかく、肌もよく手入れされていて、精油を塗らなくてもいい香りがした。まさにお姫様という感じだ。それに比べて私は傷だらけで、訓練のせいで全身が筋肉質だ。騎士の仮面をかぶることで、本来の自分からどんどん遠ざかっていることを感じている。でもそれには意味がある。強くならなければ、このキャラニで公女のフィドーラ殿下を守れない。以前はただ生き延びるために「ルチャノ」という騎士を演じていたが、今は騎士であることこそが自分が守りたいものを守る手段だと感じている。


その後もルチャノとして何度かフィドーラ殿下と会った。新年の間は学院も休暇に入るが、授業は新年の儀式が始まる前日まで続く。フィドーラ殿下はいつも通り授業に出ているが、私は最近忙しくて学院に行けていない。積もり積もった宿題を思うと頭が痛くなる。すでに免除試験の期間は過ぎてしまったので、単位を取るためには課題を提出しなければならない。


フィドーラ殿下はよく学院の授業が終わった後、皇城の応接室に私を呼んで、皇帝陛下の跡継ぎの争いの情勢を分析してくれる。彼女の話では、兄のアラリコが貴族たちからの支持を最も多く得ていて、彼女とエリジオを合わせたよりも多いそうだ。それでも完全に希望がないわけではなく、私も一応皇帝陛下の信頼を得ているからだ。皇帝陛下が来年、後継者を選ぶための試練を設けるつもりで、状況次第で誰を後継者にするかを決めるという話もある。しかしその試練がどのようなものになるかは、皇帝陛下自身もまだ決めかねているようだ。


フィドーラ殿下はルナのことをとても気に入っているようだった。ルナがアドリア領に戻って結婚することについても残念がっていた。さらにアドリア領には他にルナのような侍女がいないかとも尋ねてきた。私が「いない」と答えると、彼女は少し残念そうだった。まあ、私のような過去を持つ人間は少ない方が良いのだろう。


ユードロスのことは断ったが、フィドーラ殿下にはまだ自分の秘密を明かしていない。婚約の儀式が間近に迫っているというのに、彼女に打ち明けようとするたびに言葉が出ない。雰囲気が合わないとか、周囲に人が多いなど、毎回自分に言い訳をしてしまう。いつも「まだ時間があるから今回は言わなくても大丈夫だ」と思ってしまうが、機会を逃すたびに後悔するだけだ。どうしてこうなるんだ!やはり適切な場をちゃんと準備しないといけない。フィドーラ殿下を食事に招待するか?それとも茶会を開くべきか?本当に迷うところだ。でも私がそんな風に悩んでいる間にも時間は止まってくれない。婚約の儀式の日はどんどん近づいてくる。


「ルチャノ様、この酒は会議室に運ぶんですよね?」耳元でさっきの衛兵の声が聞こえ、私はハッとした。いつの間にか考え事をしていたのだ。


「そうだ、一緒に運びましょう。」私は答えながら、酒樽や瓶を抱えた兵士たちと共に二階の会議室に向かった。ニキタス商会は蒸留酒の販売をすでに始めている。今のところ蒸留酒の売れ行きは調子いいが、購入しているのは主に平民や軍人たちだ。売れているのは安価なものが多いため、利益はそれほど大きくない。


貴族たちにも売り込んでいるが、まだ受けられていないらしい。ただし新年の間に蒸留器の投資を回収できることはできそうだ。私は以前ソティリオスに「ロイン様や親衛隊、近衛軍にそれぞれ蒸留酒を送る」と言っていた。これも新商品のキャンペンだから、ソティリオスが原価で売ってくれたのだ。ロイン様と近衛軍にはハルトたちに届けてもらい、今日は自分が親衛隊に来る予定だったので蒸留酒も自ら持ってきたのだ。


蒸留酒が受け入れられるといいな。ただ単に私が蒸留酒工房に半分の投資をしているからではなく、成功すればアドリア領地の復興もできるかもしれないからだ。伯爵の跡継ぎとして、自分ももっと頑張らなければならない。でもまずは親衛隊の仕事をしっかりとやることだ。すぐに新年の祭りが始まる。各地から貴族たちがこのキャラニに集まり、教会の行事や祭りも続々と開催される。私はこの間に皇室の安全を守らなければならない。だって誓いを立てたのだから。フィドーラ殿下も護衛対象だ。そんな決意を胸に、私は会議室の扉を開けた。


「ルチャノ様。」私が入ると、ラドが先に立ち上がった。私は彼にうなずいて挨拶を返した。ラド以外に会議室には八人が座っていた。彼らはそれぞれ百人隊のセンチュリオンで、うち三人は今回新しく選ばれた者だ。


「みなさん、最近はお疲れ様。軍官の昇進と新兵の選抜が完了した。ちょうどニキタス商会が蒸留酒の販売を始めたので、少し持ってきた。ここにいる皆さん一人一瓶ずつ、残りは親衛隊の食堂で提供しよう。ただし仕事を終えた人だけが飲めだけだ。ラド、蒸留酒の配分は君に任せる。」私は彼らにも軽くうなずきと告げた。


「承知しました、ルチャノ様。」ラドは応じ、会議室の面々は笑みを浮かべた。


「ちょうどよかった、私もニキタス商会に買いに行こうと思っていたんですよ。行きつけの酒場で最近蒸留酒が入ったと聞いたんですが、私が行った時にはもう売り切れでした。」ベリサリオが言った。


「最近は生産量が少ないのだ。でも飲みたいなら言ってくれ。どうにかして手に入るかもしれない。」私は答えた。ソティリオスによれば、帝都の郊外に貯蔵場所を決めて、新年以降は生産された蒸留酒の一部を運んでいるそうだ。またもし商会で手に入らなくても、私は自宅の小さな蒸留器で蒸留酒を作ることもできる。ただし量は少ないが。


「素晴らしい!」ベリサリオは両手を挙げて喜んだ。どうやら親衛隊の皆も蒸留酒が大好きなようだ。


「ルチャノ様、まずは本題に入りましょう。新年期間の警備体制についてです。」ラドは手に持ったノートを掲げて言った。私は兵士たちに酒樽と酒瓶の入った箱を会議室の隅に置かせ、その後席に着いてラドの話を聞いた。


「ルチャノ様。昨日スタブロス様が新年の行事予定を送ってきましたので、それに基づいて新年期間の警備計画を立てました。」ラドは書類を私の前に置いた。


「ふむ、忙しくなりそうだな。」私はその書類を手に取って言った。


「そうです。皇室が参加する主な行事はこれです。まず12月11日に皇室が主催する新年の晩餐会があり、これが新年の活動の正式な始まりとなります。その後は議会の会議が冬至前まで続きます。議会の会期中は、毎晩皇城で晩餐会や舞踏会が開かれます。ルチャノ様とフィドーラ殿下の婚約の儀式もこの期間に行われます。教会の新年の儀式も同じ時期に始まり、陛下は議会の合間を縫って皇族を引き連れて一部の儀式に参加されます。冬至前日に議会が休会し、その日は陛下が高級貴族たちを演習場に招いて狩りを行います。冬至からは教会の祭典が本格的に始まり、各種の行事が新年後の5日目まで続きます。その後、議会が再開されて1月15日まで続きます。以上です。」ラドが説明した。演習場はキャラニの南に広がって、未開発の地域に野生の動物が多い。だから皇室の狩り場でも利用される。


「新年の晩餐会と議会の会議はすべて皇城で行われる。皇城以外で、皇帝陛下と皇族たちは演習場や教会の大聖堂も訪れるわけだな。」私は確認した。


「はい、ルチャノ様。」ラドは頷いた。


「平日と比べ、親衛隊が新年期間中に追加される任務は何か?」私は尋ねた。最近私は親衛隊の仕事に少しずつ慣れてきている。皇帝陛下は皇宮にいるだけでなく、時折教会や大貴族の家を訪問される。親衛隊は事前に道を確認して同行し、時には道路を封鎖することもある。また毎日皇城内を巡回し、安全を確保することも行った。さらに陛下が会見する相手についても事前に調査しなければならない。


新年期間中も基本的には同じ業務だが、出向く場所が少し増えるだけだ。ちなみに私は皇城内をすべて見て回り、隠し通路の構造も熟知している。隠し通路の改修は最近終わったばかりので、私は現在の皇城内の隠し通路に最も詳しい人物だと思う。


「おおむねその通りです。しかし新年期間中は高級貴族が各領地から皇城に集まり、教会の行事にも多くの人が参加します。そのため、私たちの仕事も大幅に増加します。通常の三交代制を二交代制に変更し、重要な行事の際には全員が参加する必要があります。また近衛軍も一部の警備を担当します。例えば教会や演習場での行事時には野戦軍団が警戒を担当し、グリフォン軍団はキャラニ周辺の巡回と連絡を担い、キャラニの警備部隊は貴族の随行者たちを審査します。したがって、私たちは近衛軍と各部隊との連絡と相談が必要です。正直なところ、毎年この作業は大変ですが、ルチャノ様がいらっしゃることで警備部隊や野戦軍との連携も楽になるでしょう。」ラドが言った。


「私もそう思う。父親のことはもちろん、警備部隊のロイン様もフィドーラ殿下のおじ様だから。」私は言った。


「陛下はルチャノ様にグリフォン軍団に参加されました。彼らも今年はおとなしくしてくれるでしょう。」フィルミンは笑顔で言った。


「いや、どうだろうな。」私は不安そうに答えた。グリフォン軍団に加わったものの、最初の訓練はペーガソスに乗ることだった。首席ペーガソスライダーのソリナに怒られたこともある。彼らが本当に言うことを聞くかな。それに、アウレルの反乱に参加したグリフォン騎士は去ったものの、グリフォン軍団の戦力は以前よりもかなり落ちてしまった。今年の空中警戒任務をきちんと果たせるかどうか心配だ。


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