騒がしい新年（侍女へのプレゼント）
「ルナ、久しぶりましだ。」ユードロスがフィドーラ殿下の後ろで私に声をかけた。私は慌てて立ち上がり、ユードロスに礼をして、「ユードロス様、お久しぶりです。」と答えた。
「ユードロス、君の話は後って。まずはお茶菓子を後ろで急かしてきてくれないかな？」フィドーラ殿下は頷きながら言い、ユードロスとヴィオリカはそれに応えて部屋を出て行った。
フィドーラ殿下は私のことを興味深そうに見つめてきた。まるで高価な商品を品定めする商人のように。あまりにじっと見られて、私は少し居心地が悪くなった。ユードロスが戻ってくるまで、フィドーラ殿下は私を見続けていた。そして私とシルヴィアーナにそれぞれ小さな箱を手渡した。「これは私が女主として、あなたたちに贈る最初のプレゼントよ。開けてみて。」
私はシルヴィアーナと目を合わせてから、一緒に箱を開けた。中にはフィドーラ殿下のティアラに似た髪飾りと絹のベールが入っていた。髪飾りは銀製で、宝石はついていないが、さまざまな花や植物が彫刻されていた。ベールは白色で、刺繍は施されていなかった。髪飾りの内側には「ルナ」という名前も刻まれていた。
「ルチャノと結婚したら、あなたたちも皇族の専属侍女になるの。皇族の侍女にはみんな主人からこういう髪飾りが与えられるわ。まずは預かっておくけど、結婚したら正式に贈るわ。それまでに、私を女主として扱うようにね。特にルナ、ユードロスから聞いたけど、ルチャノは君と一心同体のような関係だと言っていたわ。わたくしもそんなふうに付き合っていきたいから、もし他の女性がルチャノに近づいてきたり、ルチャノが誰かに誘惑されたりしたら、すぐにわたくしに知らせて。」フィドーラ殿下は上機嫌に言った。
彼女は本気で私たちを取り込もうとしているようだ。だからこそ、結婚前のこのタイミングで髪飾りを贈ってくれたのだろう。彼女は本来ルチャノの前でこれを贈り、同じことを言うつもりだったのだ。この人、本当に怖い！
「ありがとうございます、フィドーラ殿下。お気遣い本当に感謝いたします。ルチャノ様は浮気者ではありません。アドリア領ではこのような不祥事を起こしたことがないですし、周辺の貴族の子息が主催する社交の場にも参加しません。ですので、彼を信じて大丈夫です。」私はそう言って、フィドーラ殿下に深く頭を下げた。
「ふむ。ルナ、次に聞く質問には正直に答えて。わたくしたちがきちんと秘密を守るわ。ルチャノは以前から女の子が好きじゃなかったんじゃないかしら？」フィドーラ殿下は私の目をじっと見つめながら問いかけた。
「え？なぜそのようにお思いなのですか？」私は驚いて尋ねた。
「この年の貴族の男子なら、普通はすでに愛人がいるものよ。でも、対象は一般的に侍女だったり、屋敷で働く平民の娘だったりするの。若い男性貴族の後継者にとって、愛人でないと専属侍女にはできないわ。ユードロスも例外ではない。あなたとシルヴィアーナはルチャノの愛人ではないし、アデリナも明らかに違うの。普通の貴族なら、こういう場合、唯一の理由は同性愛者として、女の子に興味がないから。」フィドーラ殿下は冷静に分析して言った。ああ、そういうことか！こんなことになるなら、最初からシルヴィアーナを専属侍女にしなければよかった。ルナをルチャノの専属侍女だなんて言わなければよかった！
「いいえ、そんなことはないと思います。ルチャノ様の幼少期は旧リノス王国の孤児院で過ごされていたので、少し人見知りなところがあるんです。それに、リノス王国の滅亡の戦いで受けたショックのせいで、アドリア領に来たばかりの半年間はクローゼットの中にこもっていました。最近になってやっと普通に社交ができるようになったんです。」私は慌てて説明した。フィドーラ殿下が変な誤解をしないようにしないと。でも彼女は私の言葉を聞いて黙り込んだ。
「ルチャノがそんなことをするなんて、想像もできないな。」ユードロスがフィドーラ殿下の後ろから言った。フィドーラ殿下も頷いた。
「申し訳ありません、フィドーラ殿下。ルチャノ様は本当に殿下のことを大切に思っています。アドリア領を離れる前は、帝都での生活なんて想像もできなかったほどです。殿下は彼を変えた存在です。私も殿下に感謝の気持ちを伝えたいです。」私は言った。これは私の本心だった。フィドーラ殿下と出会ったことで、私も大きく変わったのだから。以前は父親の鳥かごの中でただ生きていただけだったけれど、今はこの世界に自分の居場所ができた気がするのだ。
「それでおあいこね。彼もわたくしを変えた人だもの。」フィドーラ殿下は腕を組んで、誇らしげに言った。
「わあ、素敵な愛の物語ですね。私も古典語をちゃんと勉強して、お二人の物語を記録しないと。」シルヴィアーナがタイミングよく言った。
「ハハハ。ルナに書いてもらえばいいじゃないの。彼女はルチャノと長く一緒にいたんだから、誰よりも詳しいでしょう？そして古典語も素晴らしいし、もう勉強の必要もないわよ。」フィドーラ殿下は笑いながら言った。
「多分あまりに慣れすぎているせいで、書くのが恥ずかしいんだと思います。」私は小声で答えた。
「誇りに思うべきことじゃないの？あなたの目には、ルチャノがどんな人に映っているの？」フィドーラ殿下は私に尋ねた。
ちょうどその時、侍女が紅茶とクッキーを運んできた。私は静かに一口だけ紅茶を飲んだ。暖かい紅茶で少し気持ちが落ち着いた。シルヴィアーナは早速クッキーに手を伸ばしていた。
「彼はとても弱い人です。生きるためを言い訳として、たくさんの責任から逃げてきました。まだ将来がどうあるべきかを考えきれていないと思います。でも、殿下のそばにいたいという願いは本物です。だから彼が今一番悩んでいるのは、どうやって運命の糸を紡ぎ、殿下との運命を美しい絹のように織り上げるかということです。」私は考えながら答えた。
自分を第三者の目で評価するというのは、なんだか不思議な感覚だった。フィドーラ殿下の質問が初めて自分自身と向き合うきっかけになったのだ。でも私はまだ若いし、未来を変える可能性もある。父親やミハイルにいろいろ教わったことに、今は感謝している。
「ルチャノがそんなふうに考えているなんて。彼は背が低くて力もないけれど、自分の願いを実現するための知恵と勇気があると思うわ。わたくしとは全然違うわ。彼はそんな悩むことなんてないんだと思ってた。」フィドーラ殿下はため息をついた。
「えっ、フィドーラ殿下にも悩みがあるんですか？」私は驚いて尋ねた。彼女はいつも自分が何をすべきかはっきりとわかっていて、周囲の人を引っ張っていくタイプだと思っていたので、悩みなんてないものだと思っていた。
「もちろんよ。わたくしの話、聞いてみたい？」フィドーラ殿下はため息をつき、紅茶を手に取った。
「シルヴィアーナ、君を隣の部屋で剣の練習に連れて行こうか。」ユードロスがシルヴィアーナに言った。これはシルヴィアーナに聞かせたくない話なのだろうか？
「はい、ありがとうございます、ユードロス様。」シルヴィアーナは立ち上がってユードロスに礼をし、それから彼と一緒に部屋を出て行った。彼女は出て行く前に私に向かってウインクし、意味ありげな笑顔を浮かべていた。
二人の足音が消えると、部屋には私とフィドーラ殿下の二人だけが残った。もうすぐ婚約するというのに、フィドーラ殿下と二人きりでお茶を飲むのは初めてだった。このことを意識してしまうと、緊張が一気に高まってきた。
