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騒がしい新年(とある侍女の登城)

ついに12月に入った。ただ一晩なのに、昨日よりもずっと寒くなってきた。今日はルナとして皇城へ行き、フィドーラ殿下を訪問する予定だ。朝早くからアデリナたちにまた着飾らされた。家には当然余分なお嬢さんの服なんて用意していない。今回もユードロスと一緒に食事に行った時に着た服を着ている。すでに寒いので、あの日と同じように外套とマフラーを履いている。ダンス用の服も余分にはないので、皇帝陛下に頼んで皇城で踊る時の服を借りた。もちろん、ウィッグもつけている。今日はシルヴィアーナも同行する。フィドーラ殿下が彼女も招待してくれたのだ。


「まったく、これで妹が嫁に行くのを見送る姉みたいな気分じゃないの。」アデリナは馬車に乗り込む際に言った。今日は初心者向けのハイヒールを履いていたため、家でも一度転んでしまった。仕方なくアデリナに助けてもらうことにした。


「アデリナ姉さん、私はもともと妹ですよ。それに今日はお嫁に行くわけではありませんが、婚約者の家を訪問するのは事実ですよ。」私は心配しながら、「ルナ」の声で言った。ルナとして登城するのは初めてだ。ルチャノとして皇城をよく訪れるだけど、今の気持ちは全く異なった。


「よしよし。それなら、絶対に幸せになりなさいよ。これでやっと洗濯物をしなくて済むじゃないの。嬉しい!」アデリナは笑顔で言った。私の女性用のパジャマや下着はすべてアデリナが洗ってくれていた。彼女には本当に感謝している。


「また戻ってきます、アデリナ姉さん。」私は頷いて馬車に乗り込んだ。


「さて、ルナ。いってらっしゃい。フィドーラ殿下に会ったら決して失礼な振る舞いはしないこと。余計なことは言わないこと。覚えているのか?」ミハイルは後ろから私に注意を促した。


「わかりました、ミハイル様。」私はミハイルに頭を下げて答えた。話しすぎると身元がバレやすい。もし今日フィドーラ殿下にばれてしまったら、彼女はきっと怒るだろう。だから、これからはできるだけ話さないようにしようと決めた。


シルヴィアーナとアデリナは私と一緒に馬車に乗った。そして馬車が動き出した。彼女たちは共に兵士の礼服を着ており、アデリナは剣を帯びている。今日はアデリナが護衛として同行する予定だ。彼女にはまだ皇城内で剣を帯びる特権がない上に、侍女のルナとして皇城内での護衛も不要だ。だからアデリナは馬車と一緒に皇城の門で私たちを待つことになる。


「シルヴィアーナ、今日はなるべく話さないでね。フィドーラ殿下に私の秘密が知られたら大変なことになるよ。」私はシルヴィアーナに言った。


「わかってるよ、ルチャノ兄さん。何度も言われたから。」シルヴィアーナは苦笑いを浮かべて答えた。


「ほら、やっぱり覚えてないじゃない。今からは『ルナ姉さん』って呼びなさいよ。」私はシルヴィアーナを見つめながら言った。


「ごめんなさい。」シルヴィアーナは笑いながらふざけて謝った。


「はあ。運命の神よ、どうか私に運命の糸を紡いでくださり、今日を無事に過ごさせてください。」私は神に祈りを捧げながら頭を下げた。


「別にフィドーラ殿下に知られても大したことではないんじゃないの?ルチャノ兄さんが彼女の命を救ったこともあるし、嘘をついてたからって陛下がルチャノ兄さんを牢に入れるなんてことはないわよ。」アデリナが言った。


「怖いのはこれじゃない。だって、フィドーラ殿下との結婚を決めたのは皇帝陛下ですから。本当に恐れているのはフィドーラ殿下に嫌われてしまうことだ。」私は眉をひそめて答えた。


「今のルナ姉さんってまるで恋におちる乙女よ。」シルヴィアーナが言った。私は窓の外を見つめ、答えずにいた。まあ、フィドーラ殿下が好きだということを否定はしないけど。殿下に会ったら、まず会話の主導権を握らなければ。ルナは結婚のために新年が終わったらアドリア領に戻るって言っておこう。キャラニで女性として外出できなくなるのは少し残念だけど、フィドーラ殿下とユードロスの方も面倒が減るだろう。


馬車はまもなく皇城の門に到着した。そこで私たちは降り、皇城内の馬車に乗り換えた。ルナもシルヴィアーナも高級貴族じゃないから、馬車は直接皇城に入ることはできない。貴族はいいな、確かに便利な特権がたくさんある。今まで気づかなかったけど、普通の平民は皇城なんて来ることはないだろうから。

馬車は皇城の西側、皇族の住宅地に向かった。この場所にはアウレルの反乱まで来たことがない。衛隊の副隊長に就任してから、皇城の警備状況を確認するために何度か来たことがあるが、建物の中には入ったこともない。ここには皇妃や皇帝陛下の子たちが住んでいるのだ。


馬車はある庭園の前で停まった。今は冬なので、松の木以外はすべて枯れてしまっている。池の水も凍っていた。皇城の侍女が車の扉を開けてくれ、ダンス衣装の入った箱を受け取った。彼女は銀製の髪飾りと絹のベールを身につけている。この髪飾りと服が彼女が皇族の侍女であることを示していた。シルヴィアーナに手を引かれて馬車を降り、私たちは庭園の向かいにある二階建ての小さな建物に案内された。この建物は皇族が客をもてなすための部屋で、実は地下には秘密の通路がある。この秘密通路もアウレルの反乱の際、反乱軍は皇族を拉致するために使われた通路だ。四皇妃と彼女の息子もここで命を落とした。


侍女が扉を軽くノックしてから、私たちを部屋の中に招き入れた。中に入ると、天井の高い二階建ての応接室が広がり、中央には明らかに高級そうなテーブルと椅子があった。部屋の中は暖かく、暖炉の火が勢いよく燃えている。冬なので、寒さを防ぐために窓は閉じられている。でも室内にはたくさんのろうそくが灯され、明るくて豪華な雰囲気だ。さすがは皇室だな。フィドーラ殿下はテーブルのそばで本を読んでいて、その後ろにはユードロスが立っていた。慌ててドレスの裾を少し持ち上げてフィドーラ殿下に礼をした。シルヴィアーナは私の傍で片膝をついて跪いた。


私たちが入ってくると、フィドーラ殿下はすぐに立ち上がった。今日はもう一着の紫色のロープを着ていて、あの宝石がいっぱいついたものではなかった。ティアラとベールをつけているだけで、他には飾り物はないようだ。


「あなたがルナね、よく来てくれたわ。ルチャノも来てくれたらよかったのに、彼にも特別に招待を送ったのに。あなたのことは聞いているわ。ふむ、確かにルチャノとよく似ているわね。さすがは親戚だわ。もうすぐわたくしはルチャノと婚約するの。だからこれからはわたくしがあなたの女主になるわ。よろしくね。」フィドーラ殿下が近づいた。彼女が他のアクセサリーをつけていない。化粧をしていない。私はそれを気づいた。皇室や貴族の女性は一般的に人前では盛装するものだが、フィドーラ殿下は私たちを普通の客としてではなく、侍女として受け入れているようだ。新年が過ぎたらアドリア領に戻ると言うつもりだったけど、どうやって言えばいいのだろう?


「フィドーラ殿下。お姿を拝見できて光栄です。星のように美しく、知恵の光も放たれている。お仕えできることを光栄に思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。」私は頭を下げて礼をしながら、古典語で挨拶をした。古典語は私の母語と言っても間違いなくて、礼をするときに古典語を使うことはもう自然なことだった。しかし話し終えてから、自分がまた愚かなことをしてしまったことに気づいた。なぜフィドーラ殿下にルナが古典語を話せることを知らせてしまったのだろう?


「まさかこんなに古典語をぺらぺら話せるなんて、ルチャノと同じくらいわね。アドリア家の侍女はみんなこうなの?」フィドーラ殿下は私の手を取って言った。


「そんなことはありません、フィドーラ殿下。私なんて古典語は話せませんよ。」シルヴィアーナは堂々と答えた。


「あなたがシルヴィアーナね。あなたのことも聞いているわ。帝国があなたに苦しみを与えたことを謝る。これからもよろしく。」フィドーラ殿下はシルヴィアーナに向かって、頭を撫でながら言った。


「謝る必要なんてありませんよ、フィドーラ殿下。すべては運命の神のご意志です。」シルヴィアーナが答えた。


「うん。さあ、座りなさいわ。こちらはヴィオリカ、わたくしの侍女だわ。彼女もわたくしの安全を守る役目を果たしているの。だって、専任侍衛は全て男性だから、侍女でも武芸を習って、必要な時にはわたくしを守るのよ。」フィドーラ殿下は頷きながら言った。


ヴィオリカは私たちに一礼し、私も急いで彼女に礼を返した。武芸を身につけた専属侍女か。もしフィドーラ殿下が私の秘密を知って私を拒絶することになったら、侍女としてでも彼女のそばに残ることができるだろうか。私は外套とマフラーを脱いで、衣装掛けに掛けた。気をつけながら椅子に腰掛け、もうこれ以上失敗しないようにと心の中で自分に言い聞かせた。

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