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北方の戦争(少女との誓)

「本当に極楽だなあ。」私は額にタオルを当てて別館の木製の大浴槽に横たわり、半目を閉じて元の少女の声で言った。母上が残してくれた宝石はすでに荷物にしまっておいた。男性の声もまた、父親と母親が私のために作った鳥籠のようなものだった。数年前、男子が声変わりする年齢になったとき、母親とミハイルは私に男性の声を強制的に習わせた。今では従者たちだけがそばにいるときだけ、こうして元の声を使うことができるのだ。


「まったく、従者と一緒に風呂に入る騎士なんて、訳がないじゃない。」アデリナは私の隣で言った。彼女はタオルで髪をまとめて、半目を閉じてとても気持ちよさそうにしていた。


「浴槽が大きすぎて、一人だと寂しいんだよ。」私はそう言いながらアデリナの方にもう少し寄った。少し恥ずかしいが、私はスキンシップを求めるタイプだ。しかし、秘密を守るため、普段は母親とアデリナにだけ甘えることができる。そして、一人で水の中にいると、下水道に隠れて血の汚水に浸った記憶を思い出してしまうんだ。


ごめんねアデリナ、また君をお風呂の中のゴムアヒルみたいにしてしまった。そういえば、アデリナは私よりもずっと発育がいい。ゴムアヒルみたいにぎゅっと握りたいな。でも、ここは我慢しないと。


「やっぱり短髪がいいなあ。私も髪を洗いたいけど、明日は早起きしなきゃいけないし、髪が乾くまでに時間がかかるんだ。」アデリナが言った。


「そうだね、明日からパイコ領地に入るんだし。」私は言った。


「早く起きよう、ハルトも洗わなきゃいけないし。」アデリナはそう言って立ち上がろうとした。


「もう少しだけ。」私はアデリナの腕を抱きしめた。


「まったく、しょうがないじゃないの。」アデリナはまた横になった。

私たちは静かにもう少し風呂に浸かっていると、突然浴室の側扉からノックの音が聞こえた。「若様、入るよ。」とシルヴィアーナの声が外から聞こえた。


「いや、ちょっと待って!」私は慌てて再び男性の声で言った。アデリナも立ち上がり、側扉に向かっていった。この扉には鍵があったことを思い出し、正門から入って客間で待ってもらうようにしよう。しかし、少し後に彼女が私とアデリナが一緒に浴室を出るのを見たら、私たちの関係をどう説明すればいいのか?


「ふふ、そんなに慌てなくても。」鍵を開ける音がした。シルヴィアーナが扉を開け、私と目が合った後、驚いて立ちすくんだ。


見られた、他の人に見られた!アデリナはすぐにシルヴィアーナの手を引いて中に入れ、扉を閉めた。閉める前に外を一度見渡した。


「来る時、他の人に見られているか。」アデリナは真剣な声で聞いた。


「い、いないよ。私は一人で来たの。」シルヴィアーナは断続的に答えた。彼女が全身に大きなバスタオルをまとっていることに気づいた。本当にバスタオル一枚だけで、しかもちゃんと固定していなくて、左手でバスタオルの両端を右肩の下で握っていただけだった。両肩が露出して、震えていた。


「アデリナ、彼女を逃がさないように。私が服を着てから、あなたが着替えて。ハルト、別館の周りに他の人がいないかを確認してくれ。」私はまずアデリナに小声で言い、次に客間にいるハルトに大声で言った。この少女の危機にどう対処するか、しっかり考えないと。


「承知しました、若様。」ハルトは答えながら、扉が開く音がした。私は急いで体を拭き、パジャマを着た。


「ル、ルチャノ様が女だったなんて。」シルヴィアーナは低い声でつぶやいた。


「そう、それが私の秘密だ。この秘密を守れないなら、アドリア城の牢獄に閉じ込めるしかない。私たちのどちらかがこの秘密を墓場まで持っていくまで。」私はシルヴィアーナを脅しながら、彼女の右手を握った。アデリナが着替える番だ。本来なら、私の秘密は父親に相談してからシルヴィアーナに伝えるかどうか決めるつもりだったが、意外にも早まってしまった。


「若様、外には誰もいませんでした。」ハルトが浴室の外で低い声で言った。


「お疲れ様、戻ってきて。アデリナ、シルヴィアーナに服を持ってきてあげて。」私がそういった。アデリナはもう服を着ていた。彼女は外に出て、自分のシャツを一枚シルヴィアーナに渡した。

アデリナはシルヴィアーナの左手を離すと、バスタオルがそのまま落ちた。彼女は他に何も着ていなかった。どこからのクレオパトラだよ。ソティリオス様、どうやって踊り子を教育しているんだ。私は心の中でツッコミを入れた。


シルヴィアーナはおそらくさっき風呂に入ったばかりで、体からほのかに湯気が立ち上っており、髪も少し湿っていた。彼女からは花の香りが漂っていた。宴会場ではあまりよく見えなかったが、シルヴィアーナの肌もとても滑らかで、色は黒いが、いくつかの目立たない傷跡があった。


「シルヴィアーナ、あなたは今何歳だ?」アデリナがシルヴィアーナに服を着せているのを見ながら、警戒心を抱いて尋ねた。


「12歳。」シルヴィアーナは言った。なんて酷い!ニキタス商会は本当にひどいことをしている。私は怒りが込み上げてきた。


「どうしてこんなに若くして踊りを始めたんだ?」アデリナが尋ねた。


「私もよく分からないけど、普通なら15歳以上になってから舞台に出るはず。でも、ソティリオス様が私を指名して、しかもイケメンさんだと言われたから来たんだ。ルチャノ様が私みたいな子が好きだと思った。それに、私は姉さんたちに負けない自信がある。」シルヴィアーナは言った。


落ち着いて、落ち着いて。父親が指名したのなら、彼は私がシルヴィアーナに何もしないことを知っているはずだ。踊り子が普通は15歳以上になってから宴会に参加するなら、ニキタス商会が子供奴隷を虐待していると非難するわけにもいかない。いや、ソティリオスがただ12歳のシルヴィアーナにこんなことをさせるなんて、ルチャノとしての名誉が台無しになるじゃないか!


アデリナのシャツはシルヴィアーナにとってはドレスのように長かった。シルヴィアーナはさらにハルトのショートパンツも履いていたが、サイズが合わず、ミスマッチな格好できれいな顔立ちと対照的だった。まったく、これじゃますます私が変態みたいじゃないか。


私たちはシルヴィアーナを自室に連れて行き、ハルトも入ってきた。私はベッドの端に座り、シルヴィアーナは私の正面の床に正座していた。ハルトとアデリナはシルヴィアーナの両側の椅子に座っていた。私とアデリナはパジャマを着ており、ハルトを除けばまるでパジャマパーティーのようだった。


「シルヴィアーナ、今日はなぜ浴室の外の扉から入ってきたのか。誰がそこから入るように言ったのか。なぜ鍵を持っていたのか。全てを教えてくれ。」私は周囲を見回しながら、ゆっくりと尋ねた。ダシアンとソティリオスが父親の友人であることは知っていたが、まずは陰謀の可能性を排除する必要があった。


「ここでは踊り子はみんなそうするんだ。姉さんたちは、男の人はこういうのが好きで、多少出過ぎたことをしても怒らないと言った。特に経験のない人には幸せな思い出を残さなければならないんだ。私は前もって何度も練習していた。バスタオルの巻き方や、どう話すか、そして部屋に入った後はどうするか、すべて姉さんたちから学んだ。」シルヴィアーナはうつむいて言った。


「シルヴィアーナ、本当にその後に何が起こるか分かっているの?」私は頭を振って言った。


「もちろんだ。私は自分の奴隷としての運命を受け入れる覚悟をしていたが、数日前にソティリオス様はダシアン様が私をルチャノ様に送ると聞いて、希望が蘇った。ルチャノ様が大将軍の息子であるなら、私の家族の復讐を果たしてくれると思った。だから、私自身がどうなろうと、ルチャノ様に尽くして、私の仇を討っていただきたいのです。」シルヴィアーナは顔を上げ、強い意志がこもったエメラルドのような瞳で私を見た。


「他に家族はいるの?」私はシルヴィアーナの目を見つめながら尋ねた。この少女には私と似た境遇があり、彼女の中に自分を見ていた。


「母は今族長の妾だが、他の家族は皆亡くなった。」シルヴィアーナは恨めしげに言った。


「パイコ領地には詳しい?」私は尋ねた。


「もちろんだ。でも北部だけだよ。山や森の狩場ならどこでも行ったことがある。私はかつて族長の孫娘だから。」シルヴィアーナは言った。


「分かった。それなら取引をしよう。」私は言った。


「若様、彼女を信じられますか?」ハルトは眉をひそめて尋ねた。


「信じられると思う。彼女はただの踊り子だ。もし契約を破ったとしても、大将軍は彼女と彼女の母親を見逃さないだろう。」


「若様の判断に賛成します。」アデリナは横で言った。私は振り返って彼女を見た。他に誰もいない時に敬語を使うなんて、彼女らしくないな。


「ただし、事後にダミアノス様に報告しなければなりません。」ハルトは頭を振って言った。


「よろしく頼みますよ。」私は笑ってハルトに向き直った。


「取引の内容は何だよ?」シルヴィアーナは我慢できずに尋ねた。


「私はあなたの復讐を手助けし、あなたを奴隷から自由民にするために努力する。その代わりに、私の秘密を守らなければならない。さらに、あなたの母親をアドリア領地に人質として迎える。契約を破ればどうなるか、分かるよね。」私は厳重に言った。


「分かった。私は同意する。私を自由民にする必要はない。私の年齢では、解放された奴隷だと言っても誰も信じません。むしろあなたのそばにいる方が安全だ。それに、あなたが私を殺さなかった。優しい人だと分かる。」シルヴィアーナは背を向け、左手で髪をかき上げた。


「見て、これが私の入れ墨だ。踊り子は贈り物として送られるので、肌が重要だ。目立つ肌に奴隷の入れ墨を残すことはできない。だから髪を剃って後頭の頭皮に彫り、髪が生えれば見えなくなるんだ。これは私が奴隷である証拠だ。一生消えない証だ。私の子供が生まれたら、同じように入れ墨を入れられるよ。そんなのは嫌だ。」シルヴィアーナは右手で後頭部を指した。


よく見ると、彼女の名前、生年月日、奴隷としての他の情報が彫られていた。この制度は本当に残酷だ。奴隷になれば一生消えない印が残るなんて。以前、彼女が自由民だと思ったのは、入れ墨が見えなかったからだ。踊り子奴隷の入れ墨は目立たない場所にあるが、顔に彫られることもある。そんな入れ墨を見るたびに不快感を覚える。


「分かった。シルヴィアーナ、あなたは教会の神々を信じるか?古典語は分かる?」私は尋ねた。シルヴィアーナをこの不幸から救い出すことに決めた。


「私たち部族には独自のブナの神がいる。」


「それなら、お互いの神に誓おう。」


私は立ち上がり、シルヴィアーナの前にひざまずき、両手を拳にして胸の前に抱えた。次に目を閉じて頭を下げ、古典語で祈りを唱えた。


「創世の神、昼と夜の神、誓いの神よ。神々の信徒がここに祈りを捧げ、あなたたちの名において誓いを立てます。私はシルヴィアーナの復讐を手助けし、彼女の自由を取り戻すために尽力し、その間彼女の安全を守ります。もし誓いを破るなら、どうか神罰をお与えください。」


古典語は伝説の神々が使っていた言語だ。教会の教義では、我々の祖先は神々の楽園から降りてきたとされている。古典語は神々が祖先に与えた贈り物の一つとされている。そのため、古典語は神々とコミュニケーションを取る言語と見なされている。神への祈りや正式な誓いの場では、古典語を使わなければならない。帝国の正式な歴史や文書も古典語で記録される必要がある。


しかし、時が経つ、現在の帝国人は通用語しか話さなくなった。教会の神父や一部の貴族と文官を除いて、古典語はほとんど使われなくなった。正式に誓う時は、本来なら教会の神官を招く必要がある。神官が先に古典語で誓いを立て、誓う者がそれを復唱する。しかし、私は自分で古典語を話せるので、一人で誓うことができる。父上と母上は私が幼い頃から古典語で話しかけてくれたから。後に私は図書館で古典語の本をよく読むようになったので、古典語にはかなり精通している。


私は目を開けた。シルヴィアーナは両手を合わせて頭の上に掲げ、目を閉じて背筋を伸ばし、私には理解できない言葉をつぶやいていた。彼女は手を下ろし、目を開けてエメラルドのような瞳で私を見つめた。

「やったあ、ずっと妹が欲しかったんだ。小さい頃からずっと。」私はシルヴィアーナを抱きしめて、嬉しそうに元の声で言った。これは嘘ではない。リノス王国にいた時、妹が欲しいとずっと思っていた。


「ルチャノ様をお姉様と呼ぶべきですか、それともお兄様と呼ぶべきですか?」シルヴィアーナも私を抱きしめた。


「今後は公な場でないなら「様」をつけないで。お兄さんと呼んでいいよ。」私は再び男の声で言った。


「分かった、でもちょっと変な感じだね。実は私は女性を喜ばせる技術も持っているんだよ。試してみますか?」シルヴィアーナは私の耳元でそっと息を吹きかけた。私は全身が震えた。この女は本当に恐ろしい。ニキタス商会は一体何を教えているんだ。


「いいえ、やめて。どうしてそれもできるの?それより、あなたの服はどこにあるの?明日出発するから、今日中に荷物をまとめて。」私は言ったが、彼女を放さなかった。


「もう荷物はまとめた。いつでも持っていける。ソティリオス様も明日私がお兄さんと一緒に出発するように言った。」シルヴィアーナは言った。


「馬に乗れるの?」私は尋ねた。


「パイコの男も女も馬に乗れる。私はフェンリルにも乗れるし、弓術も得意だ。子供の頃は仲間の中で一番の狩人だ。でも今はしばらく練習していないので、腕が鈍っているかも。」シルヴィアーナはそう言った。私は彼女に対してますます同情を感じた。


「それならよかった。アデリナ、今すぐシルヴィアーナの服を取りに行ってあげて。彼女がこの格好では話にならない。明日の朝でダシアンに一番小さい革鎧と匕首、短弓などをお願いして。シルヴィアーナの体格では軍用標準弓は引けないだろうから。」私はシルヴィアーナを放した。彼女の体格は踊り子としてはしっかりしているが、戦士としてはまだまだ不十分だ。


「確かに。もし私が戦士のように強い弓を引けるなら、プリヌスは今日まで生きていないだろう。」シルヴィアーナは恨めしそうに言った。


「プリヌスって誰?あなたの仇敵?」私は尋ねた。


「私が出身するキュルクス部族の新族長で、今回の反乱の首謀者だ。」シルヴィアーナは言った。なるほど。彼が父親の標的になっている以上、長くは生きられないだろう。その時はシルヴィアーナに彼の死を見届けさせよう。


「サブベッドルームにはベッドが二つあるから、シルヴィアーナとアデリナが寝られる。私は今夜、リビングで寝るよ。」ハルトも立ち上がった。


「いや、アデリナとシルヴィアーナが私と一緒にメインベッドルームで寝る。ハルトはサブベッドルームで寝て。これからの十数日間、ベッドでゆっくり寝ることはできないから。」私は立ち上がって言った。シルヴィアーナがいなければ、アデリナと一緒に寝るつもりだった。城でのように。


「分かった。納得はできないが、この時に言うことを聞かないと、ルチャノ様が拗ねるからだ。」ハルトはため息をついて出て行った。


その夜、私は悪夢を見ず、ぐっすり眠れた。夢の中で、いつも戦っていた光の神と闇の神が和解し、私が良いことをしたと笑顔で称賛してくれた。私も嬉しくて礼を返した。


翌朝、私は窓の外の鳥の鳴き声で目を覚ました。目を開けると、シルヴィアーナの寝顔が見えた。彼女は横向きになって私の方を向いており、右手を布団の外に伸ばして、布団を胸に抱えていた。少し開いた唇から、彼女がぐっすり眠っているのが分かった。彼女は口紅を塗らなくても唇が赤く、私の瞳の色とよく似ていた。


アデリナはシルヴィアーナの反対側で仰向けになって眠っていた。布団は彼女の呼吸に合わせて上下していた。まだ窓板は開いていなかったが、ブラインドの隙間から外が明るくなり始めたのが分かった。おそらく夜明けの鐘の時間だろう。


私たちは午前の鐘の時間に出発する予定なので、まだ出発準備には時間がある。昨夜は早めに寝たが、その後ソティリオスが夜食を持ってきた。焼き肉とビールだった。ハルト、アデリナとシルヴィアーナは遅くまで食べていたので、もう少し寝かせてあげよう。ちなみに、私はハルトにシルヴィアーナが酒を飲まないように見張ってもらっていた。


私はそっと起き上がり、シルヴィアーナに布団をかけ直してあげた。そして荷物から小さな木箱を取り出し、母上からくれた宝石を手に取った。


「母上、私はまた一日生き延びました。昨日、新しい妹に出会いました。私がこの世界に生きる理由がまた一つ増えました。」私は母上に向かって低く祈った。


次に、私はそっと剣を取り出し、リノスの剣舞を踊り始めた。この剣舞はつま先立ちで踊るため、音をあまり立てずに踊ることができるので、アデリナたちの眠りを妨げることはない。しかし、剣舞の最後に剣を優雅に遠くのリンゴに投げる部分たけは、今日は飛ばした。


「お姉様、すごい!」踊り終わると、リビングに移動した。そしてシルヴィアーナの声が聞こえた。


「お兄さんと呼んで。」私は振り返って、男の声で答えた。シルヴィアーナはすでに目を覚ましており、慎重にベッドから降りてアデリナを起こさないようにしていた。


「ルチャノお兄さん、踊りも上手なんで思わない。どこで練習したの?」シルヴィアーナは尋ねた。


「それは秘密だ。私が踊れることも秘密だ。他の人に言ったら、首が飛ぶかもしれないよ。」私はわざと無表情で言った。


「分かった。秘密を持っている男の人もかっこいい!この舞踊を教えてくれますか?」シルヴィアーナは舌を出して言った。彼女は全然怖がっていないようだった。


「今は無理だ。他の人に知られたら困る。」私は言った。シルヴィアーナはうなずいた。


服を着替え終わると、アデリナも目を覚ました。私はシルヴィアーナに革鎧を着せ、ヘルメットをかぶせてあげた。ヘルメットが少し大きかったので、中にもう一枚布を巻く必要があった。アデリナはさらに小さな木の盾を持ってきて、シルヴィアーナの左手に縛りつけた。身支度を整えたシルヴィアーナは、まるで昨夜の踊り子の姿がまったく見えなくなった。


「うん、とても似合っているよ。」私は評価した。


シルヴィアーナは弓を手に取り、点検してからうなずいた。そして、弦を張るのも手慣れた様子だった。


「手応えの感じを取り戻したいので、しばらく射ってみよう。」シルヴィアーナはそう言った。


「後でアデリナに軍営の射撃場に連れて行ってもらおう。」私はうなずいて言った。


「若様、朝食ができました。」ハルトが外で言った。


私は扉を開けると、今日の朝食は町の定番の朝食だった。焼きたてのパンから麦の香りが漂い、外はカリカリで中はふんわりとした食感が広がっていた。バターとベーコンのスライスも添えられていた。飲み物は羊乳だった。パイコ領地は寒いため、小麦やトウモロコシはほとんど育たない。そのため、パイコの

人々は主に牧畜と狩猟で生計を立てている。今日の朝食も地元の民族特性をよく表していた。

朝食を済ませると、集合時間までまだ余裕があった。私は射撃場にシルヴィアーナを連れて行くことにした。シルヴィアーナの弓術はさすがで、数回試しただけで的を外さなくなった。私も一緒に射ってみた。私の弓術もなかなかのものだったね。でも弱い弓を使っているけど。


「ルチャノ、どうだい?昨夜は楽しかったかい?」ダシアンの声が後ろから聞こえた。振り返ると、彼が護衛に付き添われてゆっくりと歩いてくるのが見えた。


「ダシアン様、シルヴィアーナはまだ12歳です。私はそのような趣味はありません。昨夜は彼女をリビングで寝かせました。」申し訳ないが、これは嘘だ。実際には一緒に寝たが、何もしなかったのは本当だ。


「おっと、それは俺の手違いだった。ダミアノスへの資料には教育中かどうかしか書いておらず、具体的な年齢は記載していなかったんだ。」ダシアンは笑って言った。


「でも、ありがとうございます、ダシアン様。シルヴィアーナはキュルクス領地出身で、あの辺りに詳しいです。彼女は弓術や乗馬もできるので、これからの任務で役に立つでしょう。こんな有能な助手をくださって、心から感謝しています。彼女を連れて行くことに決めました。」私は言った。


「うん、彼女ならきっと君を助けてくれるだろう。そしてニキタス商会も案内人を用意している。デリハ。」ダシアンは後ろを招いた。


「ルチャノ様、初めまして。私はデリハです。パイコ領地のルシダ部族から来ました。私たちの部族は帝国の盟友です。これまでにも多くの商会を手伝ってきました。今回の任務でも案内を務めさせていただきます。よろしくお願いします。」デリハという名の男は頭を下げながら言った。彼はたくましい体格だが、背が低い中年の男で、羊皮で作られた民族衣装を着ていた。黒い巻き毛は華やかなヘアバンドで押さえられていた。


「こんにちは、デリハ。この数日間、お互いに協力し合いましょう。」私も頭を下げて挨拶した。


「ルシダ部族は常に帝国に協力してきた。パイコの部族は帝国に貢納する義務があるが、皇帝陛下は通常、商会を通じてこれを徴収する。しかし、商会はパイコ領地に拠点がないため、通常は盟友の部族に協力を依頼する。ルシダ部族は盟友の部族の中でも非常に忠実なもんだ。そしてデリハは部族の代表としてよくオルビアに往来しており、きっと君たちの助けになるでしょう。」ダシアンは言った。


「いえいえ、私たちはただ盟約を果たしているだけです。他のパイコ民族も私たちのように忠実であればいいのですが。」デリハは頭を下げて謙虚に言った。


やがて集合時間になった。軍営には麻袋を積んだ馬車がいっぱいに停まっており、御者たちは馬具を点検していた。私たちの兵士も集合を完了していた。従者二人が馬を引いて私の後ろに続き、私は完全武装していた。ラザールが私を見かけると駆け寄ってきた。


「若様、いらっしゃいました。もうすべて点検しました。今回護送する馬車は全部で40台です。荷物はすべて積み込まれており、馬車の状態も良好で、いつでも出発できます。」ラザールは言った。


「商隊の人数は?」私は尋ねた。


「各馬車に二人ずつ、さらにソティリオス様が四人の護衛を連れて行く。案内人も含めて全部で86人です。」ラザールは言った。私たちは全部で85人で、偵察任務しかできないウルフライダーやペーガソスライダーも含まれる。シルヴィアーナも戦闘員とは言えない。護衛対象が護衛隊の人数を上回るのは、あまり良いものではないな。


「ルチャノ様、この数日間どうぞよろしくお願いします。」ソティリオスが人混みの中から現れて言った。彼は簡素な革鎧を着ていた。名誉子爵である幹部が馬車を監督する旅に出なければならないとは、ニキタス商会も大変だ。


「うん、全力を尽くします。それにソティリオス様、たぶんご存じかもしれませんが、私は一つ言立てることがあります。ソティリオス様の爵位は私よりも高いですが、この間私が軍隊を指揮します。君と護衛、そして商隊の御者たちは、私の命令に従ってください。」私は言った。


「もちろんです。」ソティリオスは言った。本来ならそうであるべきだ。ミハイルが教えてくれたように、多くの商隊の幹部は名誉爵位を持っているが、それは礼儀上のものであり、領地貴族や軍官の前では実際には地位がない。


「それでは出発しよう。戦争の神が我々に勝利をもたらし、守護神が我々を守ってくれますように。」私は剣を抜いて前方に掲げ、まず通用語で言い、次に古典語で祈った。


「よし!みんな、聞いたな、出発だ。」ラザールが後ろに向かって叫んだ。


兵士と御者たちは歓声を上げ、ペーガソスライダーが飛び立ち始めた。軽騎兵も軍営の大門から次々と出発した。彼らは馬車隊の前方に展開し、敵情を偵察する。ここからは要警戒の地域で、偵察は重要だ。重騎兵たちは隊を組んで馬車隊の両側を守り、最後は予備の馬とウルフライダーたちが続いた。ウルフライダーは馬に乗っており、森の地形に到達するとフェンリルに乗り換えて偵察に出る予定だ。私もラザールたちと一緒に馬に乗り、馬車隊と重騎兵隊に続いて行進した。


「父上、母上、そしてバシレイオス兄さん。もし敵に遭遇したら、私は反撃します。六年前にこうしていればよかったのに。」私は心の中でつぶやいた。シルヴィアーナは私の隣で予備の馬に乗り、目を閉じてつぶやいていた。あなたも父親と話しているのか?

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